名分を得る為には
孫権が貢物を用意している頃。
益州蜀郡成都。
城内にある一室にて、劉璋とその家臣達が意見をぶつけていた。
「殿。劉備を受け入れてはなりませんっ」
「その通りです。劉備を受け入れるという事は、庭に虎を招くと同じ事にございます」
上座にすわる劉璋に家臣達は、劉備を受け入れる事を止めるべきと意見していた。
曹仁の追撃から逃れた劉備は水路を使い、益州に入った。
益州に入るなり、直ぐに孫乾を成都に赴かせ、益州に来た理由を述べて同族の誼で助けてほしいと懇願してきたのだ。
それを聞いた劉璋は暫し悩んだが、長男の劉循が「同族なのだから、助けねば父上の名に傷がつきます」と言うのを聞いて助ける事にした。
その旨を家臣達に告げると、大反対を受けていた。
「う~む。だがな、劉備はわたしの同族だぞ。今まで何の付き合いもなかったが、同族が助けを求めているというのに助けねば、世間の者達はわたしの事を非道と謗るであろう」
劉璋は助けねば、名が傷つくというと、家臣達の一人が前に出た。
年は二十代ぐらいで、整った顔立ちをして口髭と顎髭が繋がっていた。
この者は黄権。字を公衡と言い劉璋に召されて主簿となった男であった。
「同族を助けるというのは大変素晴らしい事だと思います。ですが、劉備は朝廷から逆賊として追われている者にございます。その者を助ければ、この益州が攻め込まれる口実を与えるだけにございます。劉備を家臣として扱えば、他の者達は不満に思うでしょう。賓客として扱えば、国を奪われるかも知れません」
黄権がその言葉に続く様に、従事の王累も口を開いた。
「黄権殿が言う通りです。劉備を迎え入れれば、我が国は災いを招くだけにございます」
王累の言葉に同意する様に、他の家臣達もその通り、災いは取り除くべきと言っていた。
其処に最近家臣になった李厳も意見を述べた。
以前は劉表の家臣で、同盟を結ぶために成都に赴いていたが、劉表が病死して荊州が曹操の支配下に入った為、何処に行く当てがないので、劉璋に仕える事にした。
「わたしは荊州に居た時から、劉備の話を聞いております。表向きは君子の様に振る舞っておりますが、その本性は呂布にも負けない腹黒い男と聞いております。その様な者を迎え入れれば、この益州は大乱に見舞われるでしょう」
李厳も劉備を迎え入れる事を反対していた。
むしろ、兵を出して捕まえて朝廷に突き出せば、朝廷に恩を売る事が出来ると言うのであった。
家臣達の反対するのを聞いて、劉璋は悩み出した。
此処は家臣達の言う通りにするべきかという考えが頭をよぎると、其処に劉循が述べた。
「劉皇叔は従えている兵こそ少ないが、長年曹操と戦い生き残っているという稀有な傑物。それほどの者と協力すれば、漢中に居座る張魯にも曹操にも対抗する事が出来る。益州は我が祖父である劉焉が切り開き築きあけたのだ。それを曹操や張魯などに奪われてなるものかっ」
劉循が気炎を吐くと、家臣達も反対を述べる事が出来なかった。
「そ、その通りだ。此処は劉皇叔と協力し、曹操と張魯に対抗するべきだ!」
劉循の言葉に同意する様に劉璋も述べた。
だが、黄権と王累を中心に反対した為、その日の評議は終わった。
評議が終わると、劉循は自室に戻った。
自室に戻ると、室内に置かれている卓に置かれている文を見た。
文には「まずは劉備を信用する様に振る舞え。後の事は追って指示する」と書かれていた。
「曹陳留侯の文には書かれているが、これからどのようにするのだろうな?」
劉循はこれからどうするかは何となくしか聞いてたが、指示に従えば大丈夫だろうと思っていた。




