ご機嫌とりをするか
曹昂が鄴に向う準備をしている頃。
揚州豫章郡柴桑県。
城内にある一室で孫権は魯粛と共にいた。
「丹陽郡の方はどうなっている?」
「はっ。劉備が出て行ってからは、誰も抵抗する者は居ない様で、我らの支配を受け入れております」
魯粛が抵抗など全くないと聞いて、孫権は冷笑した。
「ふんっ、大方丹陽郡の豪族達も大耳に居座られて困ってたのかもしれんな。甘一族の者達はどうする?」
劉備の妻である甘氏の口添えにより、甘一族が劉備の独立に手を貸した。
劉備が揚州に出て行く時は、何も聞かされていなかったようで、甘一族の者達は大混乱していた。
混乱が落ち着く前に孫権が丹陽郡に侵攻してきたが、その際も抵抗する事無く降伏するのであった。
「劉備に唆されただけですし、かの一族は丹陽郡ではそれなりに影響力を持っておりますから、此処はお咎め無しで許すのが良いかと思います」
「それが良いか。それよりもだ。曹操の動きはどうなっている?」
孫権は丹陽郡よりもそちらが大事とばかりに、魯粛に訊ねた。
「九江郡にいる密偵の報告ですと、兵を動かす気配もなく、援軍を送られてくる様子もないとの事です」
「そうかっ。どうやら、曹操はわたしが丹陽郡を手に入れた事について、何とも思ってない様だな」
魯粛の報告を聞いた孫権は安堵の息を漏らした。
だが、魯粛は浮かない顔をしていた。
「何か気になるのか? 魯粛」
「はい。我らの動きに対して、曹操の動きは遅いと思います。荊州を攻略して直ぐに、我らに戦を仕掛けた果断即決に比べると。しかし、何もしてこないのが逆に不気味に思えるのです」
「う~む。確かにな」
魯粛は曹操が何もしない事が不気味だというと、孫権も同意していた。
「・・・此処は曹操がどう考えているのか探るべきかもしれんな」
「どのような手段で探るのですか?」
魯粛の疑問に孫権は暫し顎を撫でて考えた。
「そうよな。此処は貢物を送って、反応を見るのが適切であろうな」
「確かにそうですね。では、直ぐに用意を」
魯粛は貢物の準備する為、一礼し離れようとした所で、孫権が止めた。
「送るのであれば、大きくて興味が湧く物が良いと思うぞ」
「大きくて興味が湧く物ですか? 具体的に何を送るのですか?」
孫権が言う物が何なのか分からず、魯粛は尋ねた。
「象などはどうだ?」
孫権がそう言うのを聞いて、魯粛は確かに大きいなと思っていた。
象は春秋戦国時代の頃にはまだ中原で見る事が出来ていたが、時代が下るにつれて寒さの厳しい冬が訪れる気候に変動していき、この時代には中原には見る事は出来なくなっていた。
後漢の時代では珍しい物扱いされており、見る事は出来ないので貢物には最適と言えた。
「確かにそうですな。では、商人に頼むとしましょう」
「頼んだ。それと、大喬義姉上は何時頃送るべきだと思う?」
まだ、大喬を許昌に送っていないので、曹操に貢物を送るのと一緒に許昌に送るべきかと思い孫権は魯粛に訊ねた。
魯粛は暫し考えた後、首を縦に振った。
「良いと思います。共に許昌に送れば、曹操も文句はないでしょう」
魯粛の中では、其処から鄴の曹操の元に送られるのだろうと思っていた。
だが、その曹操が丁薔に言われて、大喬が許昌に留め置かれる事になっている事は、流石の魯粛も分からなかった。




