犬猿の仲?
弼馬を飼い数日が経った。
主に厩舎にいるのだが、偶に檻から出たいのかキーキーと鳴くと世話をしている使用人が言うので、何処かに行かない様に首に縄をつけて、外に出す様に命じた。
そのお陰で、弼馬は逃げる事無く、屋敷の中を歩き回っていた。
テナガサルは木の上での生活する生き物だからか、地上を歩いていると前肢が長いので、身体の均衡がとれないのか両手を上げて歩いていた。
庭に植えられている木に登り、機嫌良さそうに鳴くか歌っていた。
「木の上で生活する動物だからか、木の上にいると機嫌良さそうだな」
歌っている弼馬を曹昂は見ていた。
傍には愛犬の哮天もおり、哮天は初めて見る弼馬をジッと見ていた。
その目は何かに警戒している訳ではなく、木の上に居るので見ている様であった。
哮天からの視線を感じたのか、弼馬は歌うのを止めて哮天を見てきた。
弼馬の方もジーっと哮天の方を見ているので、威嚇されていると思ったのか毛を逆立てていた。
「キー」
口を開けて、重い声で叫ぶ弼馬を見ても、哮天も唸り声をあげだした。
「おっと、これは駄目だな。相性が悪いようだ」
正に犬猿の仲だなと思いつつ、曹昂は哮天を連れてその場を離れて行った。
離れていく際、世話をしている使用人に弼馬を宥める様と述べた。
使用人は時間は掛ったが、機嫌が悪い弼馬を何とか大人しくさせる事に成功した。
そして、厩舎に戻り檻に入れたのだが、機嫌を直す事で疲れてしまったのか檻に鍵をかける事を忘れてしまった。
その夜。
夜も更けて、皆が寝静まる頃。
空に浮かぶ煌々と輝く丸い月に雲がない為、月明かりが地上を照らしていた。
曹昂も自室で眠っており、近くには哮天が丸まって寝ていた。
寝ている哮天は何か聞こえたのか、耳をピンと立てた。
音が聞こえたのが気になった哮天は部屋を出て行った。
部屋を出た哮天は音が聞こえた方に歩いていくと、庭の池の傍に弼馬が居るのが見えた。
池に浮かぶ満月が珍しいのか、手を池の中に入れて月を掬おうとしていた。
だが、何度掬っても、水だけ掬うだけで月を取る事が出来なかった。
何度やっても月を捉える事が出来ない弼馬は身を乗り出して掬い続けていた。
それでも、月を捉える事は出来なかったのだが、身を乗り出した事で足を滑らせたのか、弼馬は池に落ちてしまった。
池はそれなりに深くなっており、弼馬の身長では池から這い出る事が出来なかった。
「キー! キー! キー!」
池に溺れて、バタバタと暴れる弼馬。
それを見た哮天は池に飛び込んで、弼馬に近づいていく。
弼馬の傍まで来ると、暴れる哮天は軽く噛んで泳いでいき、池から這い出た。
池から上がると、哮天は弼馬に地面に下ろすと、身体を震わせて水を弾き飛ばした。
「キー・・・」
弼馬も体を震わせて、水を弾き飛ばした。
そして、哮天を見て助けてありがとうとばかりに鳴いた。
哮天は何も言わなかった。
その後、弼馬を厩舎に送った哮天は曹昂の部屋へと戻って行った。
翌日。
弼馬の世話をしていた使用人が厩舎に来ると、檻に鍵が掛かっていない事を気付いたが、弼馬は檻の中で大人しくしているのを見て、安堵の息を漏らした。
その後、昨日と同じように、首に縄をつけて庭へと向かった。
庭に着くと、木に登ろうとしたのだが、運が悪いのか丁度曹昂が哮天を連れて庭を散歩している所であった。
二匹を見た曹昂は、昨日と同じ様になるなと思い、哮天を連れてその場を離れようとしたが、弼馬は近づいてきた。
「キーキー」
何故か、機嫌よく鳴きながら哮天の周りを回っていた。
哮天の方も、自分の周りを回っている弼馬を見ても、特に何せず好きにさせていた。
「・・・・・・・昨日と打って変わって仲良くなったのかな?」
二匹を見た曹昂は何がどうなって、こうなっているのか分からず首を傾げるのであった。
それから数日後。
政務も一段落着いたので、曹昂はそろそろ鄴に行く事にした。
「行くのなら、何か作っていくべきか。まぁ、材料を持っていて鄴で作ってもいいな」
問題は何を作る事であった。
曹昂は何を作るのが良いだろうかと考えていた。




