悪いのは○○だ
二日後。
政務を終えた曹操は屋敷に帰っていた。
自室で寛いでいたが、退屈になったのか酒でも飲もうかと思い出した。
其処に使用人がやって来た。手には文を持っていた。
「ただいま、曹国明亭侯様からの文が届きました」
「ほぅ、子廉からの文か」
何事かと思いつつ、使用人から文を受け取った曹操は中を改めた。
「・・・・・・ふむ。前に見せた脱衣舞の舞楽をするので、用事がないのであれば来られたしか。あいつも好きだな」
曹操は笑いながら、丁度暇なので見に行くのも悪くないと思い、曹洪の屋敷に赴く事にした。
自分の屋敷を後にし、曹洪の屋敷に着いた曹操は使用人の案内に従い、屋敷の大広間に通された。
不思議な事に、広間には客人は一人もおらず、侍女達の姿も無かった。
膳すら置かれていないので、曹操は首を傾げていた。
「これは、何かの趣向か? あいつは凝った事するな」
曹操は広間を見回しつつ呟いていると、背後から何かが近づいてきた。
「旦那様は脱衣舞の舞楽を見た事がおありで?」
「うむ。何度もな、子廉が何度も誘ってくれるからな。・・・・・・むっ?」
話しかけられたので、思わず答えた曹操であったが、声を聞いて振り返った。
振り返った先に居たのは、卞蓮であった。
「あ、ああ、なぜ、おまえが、ここに⁉」
「ご自分の胸に聞いてみればわかるのでは?」
卞蓮が真顔でそう述べて来た。
それを聞いた曹操は尋ねようとした所で、何処からか銅鑼の音が響いた。
その音を聞いた曹操は音が聞こえた方を見ると、其処には銅鑼を持った丁薔が居た。
丁薔の傍には夏侯淵と曹洪の二人が気まずそうな顔をしながら、目を背けていた。
「っ⁉ こ、これはいったい、どういう事だ!」
「旦那様に話したい事があり、子廉殿に頼んでお呼びいたしました」
「話だと? そんなの儂の屋敷で」
「この屋敷で妓女の服を脱がせて、踊りを見る舞楽を行われていると聞きましたので、事実かどうか知る為に来て調べさせて頂きました」
曹操が話している途中で、丁薔は被せる様に話し出した。
それを聞いて、曹操は何故この場に呼ばれたのか分かった。
「わ、儂は悪くないぞ。そういう舞楽があると子廉が誘ってくるから、見に来ただけだぞ」
曹操が弁明すると、曹洪は事実だが口にする事ではないだろうと思っていた。
「旦那様。そういう事は見に来ている時点で悪いのです。妙才殿の部下の一人がその舞楽を行った宴が開かれた時は、不道徳と叫んでその場を後にしました。普通であれば、このような行動を取るものですよ」
曹操は逃げようとしているの分かっているのか、丁薔は逃がさないとばかりに述べた。
「まして、丞相という立場に就かれている御方が、女性を辱めるような舞楽を見て鼻の下を伸ばすなど恥を知りなさい!」
丁薔の雷が落ちると、曹操達の体が縮んだ様に見えた。
「好色な旦那様方に一言言わせて頂きますっ。いいですねっ」
有無を言わさない迫力を見せつける丁薔に曹操達は何も言い返せなかった。
其処に卞蓮も加わった。
元妓女という事だからか、服を脱いだ舞楽を女性にさせる事に思う所がある様で説教に加わった。
曹操達は黙って二人の説教を聞かされる事となった。
一刻に渡る説教を終えた丁薔は息を吐いた。
説教を聞かされた曹操達は口から魂が出そうな程に憔悴していた。
「ところで、子廉殿。その脱衣舞を何処で知ったのですか?」
「・・・あ、ああ、何時だったか子脩の元に行った時に、面白い見世物がないか尋ねたら、脱衣舞の事を教えてくれたのだ」
曹洪が教えてくれた者が誰なのか言うと、丁薔は顔を顰めた。
「あの子が⁉」
「う、うむ。何処で知ったのかは知らぬがな」
「はあ~、わたしは本当に育て方を間違えたのかしら? まさか、このような事を知っているとは。・・・・・・もしかして、自分の妻妾達にもそのような事をしているのかしら?」
「いや、其処までは知らん」
曹洪が知らないと言うのを聞いた丁薔は重い溜息を吐きながら顔を伏せていた。
「ね、姉さん」
「大丈夫。これは一度子脩にも話を聞かないといけないわね」
丁薔は鬼のような形相を浮かべながら言うのであった。
その後『二度とこのような舞楽を開かないように』と強く言った丁薔は卞蓮と共にその場を後にした。
残った曹操達は互いの顔を見合わせた後、罵りだした。
「妙才。何で、お前は丁夫人に脱衣舞の事を話した⁉」
「もう知っていると思ったから話しただけだ! 知られたくないのなら、宴を開く前に、一言言えばよかっただろう!」
「お前が口を割らなければ、儂が説教を受ける事は無かったのだぞ!」
「いの一番に逃げようとした孟徳が何を言うか⁉」
「儂を薔に売った奴が何を言うか!」
「元はと言えば」
「いや、それを言うのならっ」
「お前こそっ」
三人は互いを罵りあっていたが、最終的には何故か脱衣舞を教えた曹昂が悪いという結論になるのであった。




