後もう少しで
馬順が名士達の説得が成功してから、数日が経った。
だが、一向に船が用意できたという報告は齎されなかった。
「ああ~、船はまだ来ないのかっ」
張飛は焦れているのか、その場を回り始めた。
まるで、腹を空かせた獣の様に徘徊していた。
劉備も態度にこそ見せなかったが内心で焦れていた。
顔には出さない様に、酒を飲んで気持ちを落ち着かせていた。
そんな、二人の様子を見て孫乾は何も言わなかった。
長い付き合いだからか、何か言えば怒鳴られるだけと分かっているからか黙る事にしていた。
三者三様の反応を見せている中、兵が駆け込んできた。
「申し上げます!」
「どうした⁉」
劉備が盃を置いて尋ねると。兵は顔を青くしながら答えた。
「付近を偵察した者から、東から砂煙が上がっているのを見つけたとの事ですっ」
「砂煙だと! 敵か⁉」
「まだ、分かりませんが。恐らくは」
報告を聞いた劉備は唸っていた。
「・・・・・・どうするべきだと思う?」
「兵を割いて囮にするか?」
「我らの兵は多くありません。それは無駄な犠牲です」
「ぬぅ、何処かに橋があれば、長板橋の様に時間を稼げるのだがな・・・」
張飛は悔しそうに言うが、劉備と孫乾の二人は橋があったとしても、また見破られるだろうなと思っていた。
どう対処するか悩んでいると、馬順がやって来た。
「殿っ、お喜びくだ・・・・・・どうされました?」
話しながら、妙な空気になっている事に気付いた馬順が訊ねてきた。
「丁度いい所に来たな。兵の報告で東から砂煙が上がっているのを見たそうだ」
「何と! つまり敵が近づいているという事になりますな!」
話を聞いた馬順は、それで妙な空気になったのだと分かった。
「それで、お主の方はどうなった?」
「おお、そうでした。殿、お喜びを。明日には船が到着するそうです」
「「「おおおおおっっっ」」」
馬順の報告を聞いて、劉備達は喜びの声をあげていた。
だが、直ぐに明日くると聞いて、渋い顔をしだした。
「明日、明日か」
「敵は明日にでも、この地に来るかも知れない状況で明日か」
「ですが。用意できただけでも十分でしょう」
劉備達は不安であったが、今から陸路で逃げたとしても直ぐに追い付かれるかもしれなかった。
そう考えた結果、船が来るのを待つ事にした。
翌日。
夷陵県の船着き場に大量の船がついていた。
「急ぎ乗り込むのだ!」
「急げ! もたもたしていたら、曹仁軍が襲ってくるぞ!」
劉備と張飛が早く乗り込むように促した。
二人に促され、民達は乗り込んでいった。
船に乗り込んでいく様子を見た劉備は馬順に訊ねた。
「後のどのくらいで乗り込み終わると思う?」
「やっと半分ですので、もう少し掛かるかと」
「そうか・・・・・・」
これ以上急がせても、そんなに変わらないと思いつつも、早く乗り込んでくれと祈る劉備に、兵が駆け込んできた。
「殿っ、曹の字が書かれた旗を掲げた軍勢がこちらに近づいておりますっ」
「何だと⁉」
もう来たかと思いつつ、劉備はどうするか考えていた。
「殿、早く船にお乗りください。後は運に任せましょう」
「それはつまり」
「いよいよになったら、船を出すとしましょう」
「ぬうう・・・・・・仕方がないか」
劉備は暫し悩んだが、状況が状況なので仕方がないと割り切る事にした。
劉備が船に乗り込むと、馬順も船に乗り込んだ。
やがて、直ぐ其処まで砂煙が見えた。
このままでは、曹仁軍が殺到してくるかと思われたが。
「全員、乗り込み終えました!」
「良し。板を下ろせ。出航だ!」
兵の報告を聞いて、馬順は直ぐに指示を出した。
兵達も命が惜しいのか、直ぐに行動し船がゆっくりと動き始めた。
ゆっくりとだが、動き始める劉備が乗る船団。
曹仁軍が船着き場に着いた頃には、既に船団はかなり離れていた。
「ええいっ、劉備めっ。逃げ足だけ早い奴めっ⁉」
既に矢の射程からかなり離れているので、放っても届かず河に落ちるだけであった。
曹仁は逃がした事に憤っていた。
陸路で追い駆けるのは無理がある上に、此処まで強行軍であった為、兵も馬も疲れ果てていた。
曹仁は夷陵県で休憩を取る事にした。
翌日。
蔡瑁率いる水軍が夷陵県に到達するのであった。




