相も変わらず
司馬懿も曹仁軍の後を追おうと、橋を渡ろうとした所で徐庶が止めた。
「司馬懿殿。先ほどの橋の上で爆発した物は何なのだ?」
「ああ、あれはな。我が殿が制作した爆竹という物らしい」
「ばくちく?」
「うむ。竹に火薬を詰めて火を着ければ、あの様に大きな音を立てて爆発するそうだ。音こそ大きいが、実害は全くないがな」
「・・・・・成程。あれだけ大きい音を立てたが、橋は全く燃えてないな」
爆竹が爆発してたが音は大きかったが、橋は全く燃えていないので徐庶も納得していた。
「しかし、貴殿の主はどうやって火薬を生み出す技術を手に入れたのだ?」
「さて、其処まではわたしも知らん。だが、面白い方ではあるな。少々奇行があるがな」
司馬懿は笑みを浮かべつつそう言うと、橋を渡って行った。
橋を渡り終えた曹仁軍は直ぐに劉備を探した。
時は掛かったが、人が居たと思われる所を見つける事が出来た。
「将軍。こちらに人の足跡が大量にあります」
「また、何処かに移動した模様です」
劉備達の姿は無く、何処かに逃げている事が分かっただけであった。
実は劉備は兵から徐庶に会いたいと言うのを聞いて、最初何か話があるのだろうと思い聞こうと思ったのだが、その時に背筋が粟立った。
何か嫌な予感をして、会うのを止めて兵に言伝して兵と民を連れて逃げ出したのであった。
兵達の報告を聞いて、曹仁は舌打ちした。
「っち、もう逃げたか。相も変わらず逃げ足が速い奴だ」
曹仁は直ぐに足跡の後を追うように命じようとしたが、空が暗くなり始めていた。
「もう夜になるか。夜に探させても見つけるのは容易では無いが、劉備の息の根を止めねば枕を高くして眠る事は出来ないからな」
曹仁は夜を徹して探す事に決めて、兵に劉備を探す様に命じた。
兵達も松明を片手に持ちながら、探し回った。
曹仁軍の兵達が夜の闇の中でも探し回っている頃。
劉備軍は西へと進んでいた。
進みながら、劉備は張飛は無事だろうかと思っていた。
「・・・・・・張飛はどうなっているだろうか?」
「分かりませんが。張将軍の事ですから、存外生きていると思います」
劉備の言葉に孫乾が答えてくれた。
そうだろうなと思いたいが、本当にそうなのか分からないので二人は沈黙した。
劉備軍はただ西へ、西へと進み続けた。
三日後。
劉備軍は夷陵県に辿り着く事が出来た。
兵数も引き連れている民の数も減った事により、曹仁軍の目をかいくぐる事が出来たのは不幸中の幸いと言えた。
敵兵の姿も無いので、少しだけ休みを取る事にした。
兵も民も地面に腰を下ろして休んでいる中、劉備は馬順を呼んだ。
「我らが益州に着く前に、劉璋に我らを受け入れる様に言うべきだと思うのだ」
「確かにそうですな」
「其処で孫乾を一足先に向わせて、劉璋に受け入れてくれるように言うべきだと思うのだが、どう思う?」
「良い判断です。幸い、今は敵の追撃から逃れる事が出来ておりますので、孫乾殿を向かわせても問題ないと思います」
「だな。では頼む」
劉備が馬順に頼んでいると、其処に兵が駆け込んできた。
「申し上げますっ。張将軍が参っておりますっ」
「なにっ、張飛が⁉」
兵の報告を聞くなり、劉備は張飛の元に向った。
その張飛は髷は切れており、鎧も服もボロボロであった。
顔も砂塵に塗れて汚れていた。
「張飛っ」
「お、おお、兄者。無事で何よりだ」
「お前もな。どうやって、敵の追撃から逃れたのだ?」
「ああ、それはな」
張飛は橋で起きた事を話しだした。
橋を守っていると突然、火花を立てながら爆音を出す物が投げられた。
その音で馬が怯えてしまい、橋から逃げてしまった。
それにより、曹仁軍の足止めをすることが出来ず、追撃を許す事となった。
張飛は馬をようやく落ち着かせる事が出来ると、敵に見つからない様に慎重に移動しつつ劉備達と合流を図った。
交戦を避ける様に進んだ事で、髷も切れ鎧もボロボロになったが、何とか劉備達と合流する事に出来た。
「大きな音を立てて爆発する物だと。恐らくそれは曹操軍の兵器であろうな」
「火薬という物らしいですね。密偵の情報によりますと、作り方を知っているのは曹操の部下の中でも知っているのは、極僅かだそうです」
「だろうな。戦況をひっくり返す程の威力を持っているのだ。知っている者は少ないであろうな」
劉備達は敵の兵器の威力を知っているだけに、その恐ろしさが身に染みていた。
そして、その兵器を持っている敵を相手にするという事の無茶も。




