第四話『歴史を紡ぐ魔女』1
同じ頃、稗田黒江は書斎に籠り、ホリック・アルケミーの公演を映像で確認していた。
「自分の死後に興味はない。けれど、次世代に災厄を残すわけにはいかないでしょうね……」
60インチの液晶ディスプレイに映し出される役者達の激の入った演技。
まるで超能力を駆使する半人半霊の魔法使いの未来の姿を映し出しているような劇団オリジナルの舞台演劇『ムーンチャイルド』の公演に目を細める。
この世界において、より良き方向へ人類を導くアリス以上に未来を予知する力に長けた存在は実在しない。
だが、彼らが生み出した創作物の世界は画期的であると同時にかつての戦いを追体験させてくれているようである。
月の都で亡霊達に立ち向かう超能力者達……何故、月でこのような戦いが繰り広げることになったのか……それを見届ける黒江の心境は複雑だった。
「樋坂真守に樋坂真理、立派な姿になって頑張っているようね」
映像は数年前の公演で現在の姿とそう大きく変わらない。
黒江は凛翔学園の学園長時代、演劇部に所属していた二人の姿に想いを馳せた。
そう、二人は演劇部時代に黒江の手によって半人半霊の魔法使いとして覚醒を果たし、仲間達の協力し合い、舞原市に蔓延る危険なゴーストとの戦いに身を投じてきた。
黒江にとっても思い出深い記憶として残っている二人の活躍ぶり。
だが、優れた魔力行使を可能としている二人は卒業後から劇団ホリック・アルケミーに所属することになり、戦いからは退いている。
それに加えて、二人は当時から交際を続け、卒業後に若くして結婚を果たした。現在は34歳になり、二人の子どもを授かってる。
二人の子を持つまでになったかつての生徒達。時の流れを強く感じ取れる程に成長を遂げた真守と真理の姿を感慨深げに黒江は見つめた。
この先に待ち受けているのは天国か地獄か。
爆破テロが予告された香港で開かれる公演を前にして、それを考え始める。
二人に危険が迫っているのを知りながら黙って見過ごすことは出来ないと、黒江は深く身を案じるのだった。
「今の私が出向いたところで、手助けにはならないやもしれない。
だが、彼らが動き出すというなら、因縁を断ち切るチャンスでもあるか」
アリスから与えられた魔女の力を行使し、数多くの人間を覚醒させ、能力者にしてきた。その成果は様々なシチュエーションで活かされているが、黒江自身が行使できる魔力は年々、衰え続けている。
歳を重ねシワの増えた表情に力強い緑色の瞳を鈍く輝かせる黒江の頭の中にカソックを着たライル・ローレンスの姿が浮かび上がる。
幾度もアリスと自分達の命を狙ってきた魔女狩りの存在。
アリスの勢力圏が世界各地へ広がるにつれて、それに反抗する反アリス派勢力も戦力を増強させ、容赦なく襲い掛かって来る。
二つの勢力の力関係は世界を二分化させる要因にもなっている。
今や人類の敵はゴーストだけでなく、反アリス派のエクソシスト達へと変わりつつある。
そのことを身につまされてきた黒江はこれが彼らとの因縁を断ち切る最後の機会かもしれないと、無視できない状況に闘志を燃やすのだった。




