第十五話『End of the line』3
後を任されたリファが中心になって苦い経験をすることになったレディアンと重傷を負ったポルフを連れ出し、大ホールを抜け出した。
劇場内は高熱の炎に包まれ、今にも退路を失い、逃げ場を失いそうになる。
初めて入った劇場だが、辛うじて案内板の表示を確認することは出来る。
だが、屍人が徘徊する異常な状況では悠長に立ち止まってはいられない。
戦闘から逃げ出したにも関わらず、このままでは劇場と一緒に飲み込まれて命を失ってしまう。リファの中で宿る危機感が身体を奮い立たせ、逃走用の車が駐車している、地下駐車場へと向かわせていた。
「早くポルフの応急手当てをしてあげたいところですが、この場に立ち止まっていては皆で死ぬことになります。地下駐車場に急ぎましょう」
「あぁ……この暑苦しい空気、気が狂いそうになるなぁ……ポルフはまだ生きてるんだろうな? リファ」
「危ないのは私達も同様ですが、ポルフはまだ、生きています。背中越しに鼓動を感じますから」
血走った瞳をするレディアンは灰を吸って酸欠状態になりつつあり、戦闘での疲労と合わせて今にも倒れそうな状態だった。
このまま、燃え盛る劇場に居続ければ確実に一酸化炭素中毒に陥り、あの世行になる。危険な状態にあるのはポルフだけに限った話ではなかった。
「貴方達、無事だったのね」
そこにやって来たのは、植物園で無事にミリアを救出したアリシアとレイラだった。
合流を喜ぶ間もなく、リファは速やかに地下駐車場に避難しなければならないことを告げ、ライルが未だ大ホールで戦闘中であることを告げた。
想像を絶することに、業炎に包まれるこの劇場の中でライルは戦っている。
それを知ったアリシアとレイラはリファに先に地下駐車場に向かうこと指示した上で、ミリアを連れて大ホールへと急ぐことにした。
アリシアとレイラにとって、ライルは失くしてはならない存在。
魔女との戦いがこれほどに激戦を極め、過酷であることは想定の範疇を超えている。
ここまで退却して来たものの、ライルのことを迎えに行くため、三人は急いで走り、慌ただしく大ホールへと辿り着いた。
「先生ー! どこに隠れてるの……早く出ておいでー! ミリア達はここだよー!」
「ファザー……退却の時間です、作戦を終了して行きましょう」
「ライル……どうしたの? 無事なの?! 無事なら声を聞かせて!」
足の踏み場がないほどにボロボロになった客席。
その間をくぐって何とか呼びかけながらライルの姿を必死になって捜す。
修道服に黒いローブを羽織ったレイラが先導して歩いて行く。
返事もなく、薄暗い大ホールの中は広くなかなか発見することが出来ない。
刻々と嫌な予感が漂ってくる中、アリシアがついにライルの姿を発見した。
「ファザー……!!」
駆け寄り、カソックに身を包んだ傷だらけになったライルの脈をすぐに計るアリシア。
どれだけ壮絶な戦いをこのホールが壊れかけになるまで繰り広げていたのか、そんな想像を巡らせる間もなく、すぐに息絶えていることが分かり、アリシアは肩を落とした。
「そんな……貴方が……魔女の返り討ちにあったというの……」
ミリアと手を繋いだまま、受け入れがたい現実を前に瞳孔を開き、呆然とするレイラ。
火の手が大ホールにまで迫っているにもかかわらず、ひんやりとした冷たい空気を感じた。
ミリアは声を上げることなく動き出す様子のないライルの姿をじっと見つめ続ける。
現実を受け入れるには時間がかかる。
そんなことを思ったアリシアだが現実は違った。
ミリアの身体は受け入れがたい喪失感で段々と傷口が広がり、心の奥に嫌な気配が渦巻いていた。
そして、身体の奥から湧き上がる恐怖を感じた次の瞬間、ミリアがライルの死をその身で自覚した。
「先生……なんでなんでなんで……死んじゃいやだよーー!!
ああああああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁ!!」
心が決壊を起こし、泣きじゃくるミリア。
だが、悲しんでいるだけではない。
段々とミリアの身体は悲しみに包まれると同時に熱を帯びていく。
それは、レイラが聞いていた危険の合図だった。
「ダメよミリアちゃん!! 大丈夫だから……私はここにいるから、だから泣き止んで、その衝動は自分を傷つけてしまうから、お願い! 堪えて!!」
詳しいことを知らないアリシアでもレイラの異様な態度を見て危険を察した。
ギュッとミリアの身体を抱き締めるレイラ。
アリシアはどうしていいか分からず、一歩二歩と足が後退していく。
泣き叫び始め、嗚咽が止まらなくなるほど心が壊れていくミリア。
大切なライルを失った悲しみに支配されているレイラが必死に声を掛ければ掛ける程、ミリアの喪失感は増幅され、心が黒く淀んでいく。
それは死へ向かう力が強まるように、負の力によって精神を汚染されていく。
そして、高熱を帯びたミリアの身体が光を放ち始めた瞬間、レイラはミリアを守る為に無我夢中でファイアウォールを展開した。




