第十五話『End of the line』4
入浴直後のように、やや火照ったように見えるアルビノ肌のミリアの身体を抱き締めたまま、全力でファイアウォールを展開させるレイラ。
「シスター!! シスター!!」
あまりにも唐突過ぎる状況の変化に付いていけず、ただアリシアは共にずっと暮らしてきたレイラに呼びかけるが、強大なファイアウォールの前に近づくことすらできない。
周囲に被害を拡大させないため、ミリアを抱き続けるレイラはもう、こうなってしまった以上、自分の命を投げ出して、死を覚悟しなければならなかった。
「ごめんなさい!! アリシア!! もうこうするしかないの!!
だからミリアちゃんを……みんなのことをお願い!!
これからは貴方が生き残ったみんなを支えていくのよ!!
それが今の貴方にはきっとできるはずだから!!」
熱を帯びた眩しい光が大ホール全体に広がっていく。
ミリアが暴走を引き起こして発生させる魔力が想像以上に膨大であることをレイラは察すると、アリシアに向けて精一杯言葉を掛けた。
もっと時間があればゆっくりと伝えられたがミリアの暴走が始まってしまった以上、掛けることが出来る言葉は悲しいほどに限られていた。
命を吸い取っていくように、焼き尽くすような眩い光がゆっくりと消えていくと、レイラはミリアに覆いかぶさり、共に焼け焦げた姿に変わり果てていた。
「何故だ……何故シスターまで死なねばならないのかっ!!」
反射的に自身を守るシールドを張って、生き残ることが出来たアリシアは心を震わせ、心に穴をぐさりと刺されたような痛みに藻掻き苦しんだ。
育ての親である二人の死。
ずっと一緒に暮らしてきた家族として迎えてくれた両親のような存在。
それが、焼け焦げた姿に変わり果てている現実を前に悲しみ以上に、途方に暮れた。
「アリシア……アリシア……アリシア!!」
膝を付き、脱力している自分を何度も呼ぶ声が聞こえる。
空耳のように聞こえたそれが、いつもとは声の響き方が違うものの、ミリアの声であると気付いたアリシアは周囲を捜した。
「まさか……そんなまさかなのか」
災害級の激戦のせいで薄汚れた姿に変わり果てたクマのぬいぐるみを眺めるアリシア。
クマのぬいぐるみは「そうだよ、アリシア! ミリアはここだよ」と声を上げた。肉体は失ったものの、咄嗟の機転が働いたおかげでミリアの魂はぬいぐるみへと移っていた。
「信じがたいが……この状況を見る限り、信じざるおえないか……」
本来の肉体が無残な姿に変わり果てているのを見た後であるだけに、アリシアの声に覇気はなく、無事を喜べる状況にはなれず気持ちは沈んだままだった。
敬愛するシスター、レイラ・シェリーは自分を犠牲にして劇場を……アリシアとミリアを守り命を落とした。
それがこの場で起きた、悲劇的な顛末だった。
ストレス由来の暴走を引き起こしたミリア。
アリシア達と同じく半人半霊の魔法使いのミリアだが、その性質は特殊で制御が難しい体質を持ち合せている。
元々、強い霊感を持つミリアは身体から放出できない魔力を身体に溜め込んでいる。
それは年齢と共に増幅され続け、どれだけ魔術行使を訓練し放出しようとしても、放出することが出来ない魔力の性質をしていた。
それは放電しなければならないはずの放電装置が故障し、ずっと電力が滞留し続けているようなもので、ミリア自身の力でどうこうできるものではなかった。
膨大な魔力を身体に抱えているにもかかわらず有効に使うことが出来ないミリア。それはいつ暴走を引き起こすか分からない危険な存在でありながらも、興味深い研究対象として見られ、超能力研究機関で管理されることになっていた。
体内に蓄積された魔力を放出する条件、それが極度のストレスがかかった時に発動する感情の暴発であることはやがて分かったが、制御することが困難であることに変わりはなかった。
ミリアが作戦に参加することになったのは上層部の判断。
現場にいるライルやレイラの責任ではない。
しかし、危険性があることは知らされていても、ミリアの放出する魔力がどれほど強力であるかを知る者はいなかった。
想像を絶する事態を迎えたアリシアはミリアの魂が乗り移ったぬいぐるみを抱きかかえた。
どうすることも出来ないままに失った大切な命。
涙を流すほど感情を表にすることが出せないまでも、胸を抉るような痛みは消える気配を見せない。
しかし、本来の肉体を失ってもなお、ミリアの魂が生きている以上、アリシアは本来の任務を思い出し、レイラの言葉を正確に受け取り、前を向かなければならなかった。
レイラの咄嗟の判断によって辛うじて生き残ることが出来た、アリシアとミリア。
アリシアは二人の息絶えた姿を目に焼き付け、ミリアを抱きかかえたまま火の粉が舞う劇場内を走り、地下駐車場へと向かった。




