第十四話『魂の咆哮』4
「ちっ!!」歯を食いしばって懸命に痛みに耐えるライル。
油断をした隙を狙った一撃、ライルは瞬時に射線を割り出し、狙撃者に視線を向けた。
そこにいたのは、昨晩に会った時と同じ、魔銃を向ける稗田黒江の姿だった。
「また……邪魔をしに来たのか……」
もう少しで目的が達成される中、駆け付けて来た黒江。
まるで運命づけられたような展開、ライルの怒りは頂点に達した。
「脱出する前に仲間を迎えに来たのよ。
ついでに貴方も始末しておくけどね。
大切な私の生徒を殺した罪は償ってもらうわ」
再びライルと対峙する予感を抱きながら一日を過ごしてきた黒江。樋坂真守と樋坂真理の遺体と対面した直後のせいで怒りの感情がグツグツと煮えたぎっていた。
堂々した貫禄ある佇まいで撃ち放ち、八千羽を救った黒江。
度重なる修羅場を乗り越えて来た黒江だからこそ、最も大事な場面での射撃を外すことはない。
信頼と実績を積み重ねてきた、黒江の心の強さを示していた。
「余計な手間を取らせてくれるなっ!!」
苛立ちを露わにしてライルは左腕を振り抜き、片手に握った剣で受け止めた八千羽を弾き飛ばした。羽佐奈の近くまで倒れ込む八千羽。連戦となった八千羽の身体もまた、限界を迎え悲鳴を上げていた。
「大丈夫?」
「何とか……これ以上の戦闘は出来そうにないけど」
心配する母親の言葉に答える八千羽。
二人で並び、頼もしい黒江の姿を見守る。
厄災当時と変わらない、真っ直ぐ綺麗に背筋が伸びたボディーラインに力強い瞳。
白いYシャツの上に着たジャケットも、タイトスカートが似合う姿も変わることはない。
年齢としては六十歳を超え身体能力は以前よりも落ちてはいるが、未だ威厳ある佇まいは変わりなかった。
こうして、運命づけられたように再び対峙することになった両者。
光を纏った腕を通常状態に戻し、魔銃を手に構えるライル。
黒江の冷たい瞳は変わらぬまま、銃口は変わらずライルの心臓に真っすぐ向けられている。
壮絶な戦いの果てに互いに銃を向け、睨み合うライルと黒江。
力を使い果たし、まともに戦えるものはもはや他にはいない。
劇場火災が迫ってくる中、戦いは終局の時を迎えようとしていた。
「運命……なのかしらね。ここまでしないといけないなんて」
「赤津羽佐奈……稗田黒江……お前達二人の魔女はこの場で処刑する」
「貴方は囚われているのよ、意味のない戦いに。
これ以上、罪を重ねるのは止めなさい。魔女狩りに意味などないわ」
「アリスプロジェクトは危険思想の塊だ。
人々を弄び、都合良い様に情報統制をして、毒物を人に飲ませ、産まれる子を選別して寿命を縮めさせるのがアリスの導きなのか?
誰かに用意された予定調和の平穏に何の意味がある? 何の価値があるというのか!」
「不毛な争いを続け、地球を汚染し続けてきた人類はこれまでの行いを悔い改める時が来たのよ」
「人間の未来は人間が手を取り合って切り開き、掴み取るものだ! 断じてアリスなどというデウスエクスマキナの出番なの必要ない!」
「人類は進化しなければならないのよ、戦争のない世界に変えるために、母なる地球の大地を守るために。
貴方は未だに古い価値観に囚われている。だから暴力で解決しようとするのよ。それでは人は変われない、だからアリスという導きが人類には必要なのよ」
「それこそ意味のない問答だ。アリスが支配しようするならば、抵抗して戦わなければ何も知らされぬまま自由を奪われる。そんなものは、誰も望んでなどいない」
「分かり合えるとは思っていないわ。だから終わりにしましょう。
私はもう、覚悟が出来ているわ」
凛音からお守りにと預かったアメジストの宝石が黒江の想いに応え、紫色の輝きを燦然と放ち始める。
身体の芯から温まっていくような感覚に始まり、これまで感じたことのない力が湧き上がって来る。
「行くわよ! ライル・ローレンス!!」
愛する娘、凛音から力をもらい、オーラを纏いながら銃口を向ける黒江。
対するライルも指先に力を込め、ここで決着をつける覚悟を決めた。
「ここで死んでもらう! 稗田黒江!!」
そして、結末を予測できないまま、両者は赴くまま同時に引き金を引いた。
互いに揺るぎない信念を抱き放たれる銃弾。
乾いた銃声と共に、宝石が割れる音がパリンと虚しい音を奏でた。
膝を付いた黒江は、何とか意識を保ち、視線を上げてライルが立っていた正面を向いた。
荒れ果てた観客席から追撃の銃弾が差し向けられる様子はない。
段々と視界が開けていき、地面に倒れているライルから夥しい血だまりが広がっていくのが見えた。
「ふふっ……私もまだ捨てたもんじゃないわね……」
決着が付いたことを無事に見届けた黒江は魔銃から手を離し、その場で脱力した。
こうして互いに譲ることのない宿命の決戦は終結を迎えた。




