第十四話『魂の咆哮』3
「くっ!!」心臓を突こうとファイアブランドを握っていた手が少女の泣き叫ぶ声で止まる。
人殺しをしたいわけではない、羽佐奈の揺れる心がトドメを刺す一撃を押し留めた。
「くらぇぇぇぇ!!!」
静止した羽佐奈に今度はレディアンが本能のままに両手剣を手に向かっていく。
だが、必死の形相を浮かべ迫る姿も今の羽佐奈にはスローモーションに見えていた。
勢いよく振り抜いたファイアブランドに跳ね飛ばされ、一直線に客席へと落ち倒れていくレディアン。
リファは瞳を潤ませ、クロスボウを構えるが、正確に放つことが出来ないほどに身体は震えていた。
「リファ!! もういい!! 二人を連れて退却するんだ!!」
情けまで掛けられた上で、これ以上、戦えば犠牲者が出るだけだと判断したライルはリファの行動を制止させた。
三人の退路を確保するため飛び出していく長身のライル。
両手に光の爪を発現させたまま羽佐奈に迫っていく姿を見た八千羽は迷いなく間に入って、ライルの攻撃を防いだ。
「まだ続ける気なのかしら?! 往生際が悪いわよ!!」
「邪魔をしてもらっては困るなっ!!」
激しくぶつかり合う両者。
ライルは任務を遂行するため、胸の十字架に誓いを立て、ここで退くつもりはなかった。
治癒能力を持つリファは何としても重傷を負ったポルフを救い出さなければと必死になってポルフの身体を背負った。
「レディ!! 自分で歩ける?」
すぐにでも安全な場所まで移動しなければと、背後で倒れるレディアンに向けて声を掛けるリファ。
レディアンは負傷したポルフの姿とリファの声を聞き、何とか自力で立ちあがった。
「こんなの全然大したことねぇよ。それより、本当にいいのか? 先生にこの場を任せて」
「ポルフを守るためです、今は先生の言うことを聞きましょう。私達の力じゃ、足手まといになるだけだから」
「そうみたいだな……もう少し力になれると思ったが、ここは先生とリファの判断に従おう」
冷静に行動を開始したリファの言葉に従い、大ホールを離れる判断をしたレディアン。リファは戦いを始めるライルの姿を名残惜しく目に焼き付ける、そして何かを伝えなければと思考を巡らせた。
「先生!! 私は先生と一緒に祈りを捧げる時間が好きです!!
だから、待っています!!
礼拝の時間を一緒にまた過ごせることを!!
絶対に負けないでください!!」
咄嗟に出た言葉を心を込めて送ったリファ。
生死を賭けた戦闘中である以上、言葉が返って来ることはない。
それでも身体が熱くなるほど、自分の想いを伝えたリファは、名残惜しくもポルフを背負い、レディアンと出入口扉へと向かって駆け出した。
*
八千羽とライルが剣戟を交わし、激闘を繰り広げる中、羽佐奈は膝を付き、両手を床に付けたまま、大粒の汗を流し、身体の異変に耐えていた。
「歯痒いわね……何でこんな時に胸が苦しくて堪らないのかしら……」
激しい動悸を起こす胸の鼓動と宝石の鼓動がリンクし合う。
それは身体からも、宝石からも告げられている警告のサイン。
身体の負担を無視して酷使し続け、魔力を使い過ぎた故に発生する、逃れることの出来ない反動だった。
(八千羽……こうして見ると、頼りになるわね……。
流石……私が産んだ子どもだわ。知らない間に立派な大人になったわね)
ぼやけた視界でしか見ることの出来ない我が子が必死に戦う姿。
自分を守る為に前線に立っていることを思うと、さらに身体が動かないことが辛く感じた。
「魔力を消費した後では、動きが鈍いな!! 限界が近いだろうっ!!」
「まだ……追いついて見せます!」
三人が総力を尽くして与えてくれたチャンスをものにしようとライルは腕を振るう。何人もの半人半霊の魔法使いの息の根を止めて来たライルに迷いはない。ただその命を刈り取ろうと、ひたすらに腕を振るい、八千羽が消耗を続け、限界を迎えるその時まで攻撃の手を緩めない覚悟だった。
シャキン! シャキン! カキーーン!
不意に金属のぶつかり合う音が途切れる。
八千羽の握っていた剣が宙を舞う、体力の限界を迎えた証拠だった。
ライルはトドメを刺そうと八千羽の心臓目掛けて刃を向け、襲い掛かる。
回避できないと悟り、死を覚悟した八千羽は反射的に目を閉じた。
その時だった……乾いた銃声が大ホールに響き渡り、ライルの肉を抉るように削いでいく銃弾が、右腕を鋭く貫いたのは。




