第十四話『魂の咆哮』1
「どうするの? ママ、あいつら簡単には帰してくれなさそうよ」
八千羽は羽佐奈の横に立ち、小声で話しかけた。
ゆっくり考えている暇はない、羽佐奈は一歩二歩と前に出た。
「どうしてここまで憎まれなきゃならないのか理解に苦しむけど、相手は殺したくてどうしようもないみたいだから、やれるところまでやってみるわよ。八千羽はあの男が怪しい動きをしたら対応して」
「了解、無茶したらダメなんだからね」
「分かっているわ。こんな場所に長居するつもりはないから」
心配する八千羽の声に振り返り、優しい微笑みを浮かべ応える羽佐奈。
そして、戦う覚悟を決めるとタイタニック号の船上から客席へと降り立った。
(身体が重い……連続で魔力を使用しているから仕方ないわね……。
まだ頑張らないといけないのに、本当に年は取りたくないわね)
体内に滞留する魔力の流れを感じ確認をしながら、戦いに備える羽佐奈。
後、どれだけの時間、戦えるのか見当は付いているが、それまでに決着が付くとは限らない。考えたくない不安が胸の奥底に募っていく。
百戦錬磨の羽佐奈でも抱く心の不安、明確に自分の力量を把握しているがゆえに、今の状況が芳しくないことを誤魔化しきれないのだった。
余計な魔力を使わないために、相手が襲い掛かって来ると同時に魔力を行使することは決めている。
瞳を閉じて、心を穏やかに気配だけで相手の動向を探る。
身体が壊れる恐怖を感じながら時を待っていると首に掛けているグリーントルマリンのペンダントネックレスが鼓動を始めた。
(”諦めないで”って。行けるところまで……一緒に今日は戦ってくれるの? ありがとう、茜ちゃん)
これが最期かもしれない、ここが死に場所になるかもしれない。
そんな悲しい想いを抱く不安に応えるように宝石の方から輝きを放ち始めた。
二十六年前、未曽有の厄災に見舞われた舞原市の中で、激戦の果てに息絶えた片桐茜がずっと身に付けていたペンダントネックレス。
今は羽佐奈が身に付けているが、それは彼女と一心同体であったアクセサリー。壮絶な厄災を戦い抜いた誇り高き宝石だった。
(ありがとう……茜ちゃんもまだ一緒にいたいよね。私もそうよ。
まだまだいっぱい、司のことを抱き締めたい。家族と一緒に過ごしたい。
だって、凄いのよみんな……私の手を離れて、どんどん成長していくんだもの。
信じられないわよね……八千羽が産んだ孫を胸に抱き入れる日が来るなんて。
私、まだ若いつもりでいたのに、時の流れは残酷よね。あっという間に季節は流れ、一年が過ぎていくんだから。
でも頑張るわよ……私はまだ現役最強の魔法使いだからね)
父親から受け継いだ赤津探偵事務所。
家族経営で始めていく中、支えてくれた多く友達、そこで出会った人々、産み育てていった家族。
かけがえのないもの……疲れた後には必ず帰りたくなる場所。
瞳を閉じると自然と大切な人々の清々しい笑顔が浮かんでくる。
皆、羽佐奈の帰りを信じて待っている、優しい笑顔だった。
窮地の中、零れそうな涙をグッと堪え、羽佐奈はシトリンカラーの瞳を見開いた。
「さぁ!! どこからでもかかってきなさい!!
貴方達が忌み嫌う、魔女が相手になってあげるわよ!!」
熱を帯び始めた緑色の宝石に勇気をもらい、覇気を強める羽佐奈。
その表情には既に躊躇いも不安もなかった。




