第二話『魔女を狩る者』2
ジュピタークラウンによる魔女狩りの任務を受諾し、香港行の準備を進めていたアリシア達。
ライルとレイラが検討の末に決めた、作戦に参加するメンバー。
そこにはポルフ、レディアン、リファ、そしてミリアの名前が上がった。
四名はサイキック・スタディーズでも似た境遇にあり、気心が知れている。
互いの能力を知っている分、連携プレイを取りやすいだろうという判断だった。
18歳になったばかりのアリシアよりも年下で実践慣れをしていない子ども達を引き連れていくことに一定の不安要素はあったが、彼女達を導くための精神的支柱としてレイラがいる。レイラは自らに課せられた役割を熟知していた。
訓練に費やせる任務開始までの期間は短かったが、合同訓練が行われ連携を高めていく日々が続けられた。
訓練は香港行当日が近づいていくにつれて、自然と現実味を帯びた戦略を検討する段階に入り、一つ一つ入国手続きを進める毎にメンバー達の機運も高まっていった。
やがて、それぞれのパスポートが手元に届き、決起集会も行われ、あっという間に香港行前日の夜を迎えた。
夜中、ベッドで眠れない夜を過ごしていたアリシアは扉が開く小さな物音で目を開いた。
特徴的な紅い瞳は夜目が利くため、照明を消していても不安はなかった。
自然と気配を探る警戒心が働き、ベッドに近づいてきた相手に視線を向けていた。
「シスター……明日から任務が始まるのに、眠れないのですか?」
少し心細い表情を浮かべた、レイラの姿がそこにはあった。
神に祈りを捧げ、常に弱きものの助けになろうと微笑む姿とは違う。
過酷な作戦になるかもしれないと予感しているからこそ来る不安に襲われている。アリシアはすぐにそれを感じ取った。
「アリシアは怖くないのかしら?」
「以前にも言いましたが死ぬのが怖いと思ったことはありません、おかしいでしょうか?」
ハッキリと自分の精神状態を言葉にするアリシア。
魔女狩りとして戦士に育てられた今のアリシアを物語っている言葉だった。
「それはおかしいわよ、だって、私は今、凄く怖いわ。
みんな自分の家族みたいなものだもの。
誰かがいなくなるのを想像すると、心が張り裂けそうなくらい辛いわ」
「シスターのそういった優しいところは大切な心だと存じます。
見習いたいとも思います。でも、生き残るための戦いに弱さは不要です。
そう、学んできました」
残酷さを持った言葉にアリシアの強さを感じたレイラ。
ずっと暮らしてきて、ブレることないアリシアの心。
氷のように冷たいように見えるその言葉にも、レイラは確かな優しさを感じていた。
「そうかもしれないわね……。
恐怖で身体が震えていたら、満足に戦えはしないわ。
だから、アリシアはこのままでいいのよ。
ただ、私の気持ちをアリシアに知っていて欲しいの。
アリシアもまた、優しい心を持っている女性だから。
これからの長い人生で、愛情の伝え方を知っておくことは無駄ではないと思うから」
女性らしい振る舞いも、服装もしてこなかったアリシアにシスターの母性が迫る。
アリシアのベッドに入り、同じ布団を被り、ギュッと優しく抱き締めるレイラ。
柔らかい身体が密着して、包容感に包み込まれるアリシア。
母親の記憶がないアリシアには母親の愛情を思い出すことは出来ないが、レイラの肌の温もりは確かに感じることが出来た。
「こんなことをどうして……我はもう、子どもではありません……」
「寂しい時、辛い時、優しくしてあげたい時、大人同士でもこうして温め合うのが愛情よ。
アリシアが大切だと思える人が出来たら、してあげて。
きっと、不器用なアリシアでも気持ちが伝わると思うから……」
子守歌のように優しい言葉を贈るレイラ。
大きく膨らんだ胸の感触も、頼りなく細い両手で抱きつく感触も、こそばゆい頬と頬が接触する感触も、どれもアリシアにとっては親代わりとなって育ててくれたレイラからしか貰ったことのない感触だった。
特別、仲の良い相手も、大切にしたいと思える相手も、アリシアは浮かんでは来なかったが、何よりも恩義を感じているライルとレイラには出来る限りの恩を返したいと考えた。




