第二話『魔女を狩る者』1
イングランドの一都市、バーミンガム。リヴァプールとロンドンのちょうど中間点に位置するこの街は、首都ロンドンに次ぐ第二都市と地元では言われている。
このバーミンガムに住むアリシア・エスタルドスは血の繋がりのない二人の家族と共に暮らしていた。
それは教会孤児だったアリシアを拾い上げてくれた神聖な職務を行う聖職者の司祭、ライル・ローレンスとその愛人である女性修道士、レイラ・シェリーである。
立派な大人である二人の間には子どもがいないものの、教会が運営する孤児院を管理する都合上、二人は多くの子ども達が成長していく姿を見守ってきた。
そんな二人にとって褐色肌に緋色の瞳を持った女性、アリシアは唯一無二の特別な存在だった。
超能力者として卓越した才能を発揮し、超能力研究機関にて訓練を受けて魔女狩りの実行任務を受け持つ秘密組織、ジュピタークラウンに所属することになったアリシア。
しかし、彼女は実力があってもあまり感情を表に出さないタイプであり、自身を大切にしない無鉄砲さが見受けられるため、周りから見ると扱いが難しいタイプだった。
そのため、身近なところに愛情を注いで接してくれる相手が必要だと二人は考えたのだ。
ライルとレイラはアリシアの才能を活かせるよう、責任を持って長く生き永らえるよう、自分達のそばに置くことに決め、共有生活を続けている。
アリシアもまた拾ってくれた恩を返すため、恩師に望まれるままに任務をこなしていった。自分だけが特別扱いされ、同居していることに迷いはあったが、共同生活を送る中で、その迷いも徐々に薄れ解消されていった。
「アリシア、読書の邪魔をして悪いわね。少し話したいことがあるの。ライルが待っているから、来てくれるかしら?」
教会や孤児院とは違い、自宅では私服を身に纏うシスターレイラは自室で読書をしていたアリシアの部屋を訪ね、穏やかな声色で声を掛けた。
歳は二回りは離れているが、シスターレイラよりも長身で大人びた雰囲気を纏うアリシアは静かに頷くと、机に読みかけの本を置き、静かに立ち上がった。
訓練や任務のない暇な時間の多くを読書に費やし過ごしているアリシア。
タブレット端末や携帯端末でいくらでも活字情報を収集することが出来るが、アリシアは机に座って、黙々と自分の目で探し当てた本を読んで過ごす時間を好んだ。
「すまないな、アリシア。折り入って相談があるんだ」
リビングに入ると早速、声を掛けられた。
アリシアはリビングルームのソファーに腰掛け、仕事着を着たライルと向き合った。
「新しい任務ですか?」
眼鏡を掛け、白い手袋をしたライルは冗談一つ言わない生真面目な性格だ。
真剣な表情を見せるライルはどこか浮かない様子にアリシアからは見えた。
「相変わらず勘が鋭いな、アリシアは。
その通り、新しい任務だ。
少し訳ありでな、香港まで遠征することになる。
相手は隣国の日本の魔女である可能性が高い、一緒に来てくれるか?」
「はい、我を頼って下さるのであれば。
まさか、ファザーだけでなく、シスターも一緒に同行するのですか?」
淡々と告げられる言葉を噛み砕くことなく、アリシアはいつものように詳細を問うことのないまま即答した。
だが、遠い香港という東方の地へと赴くのだと改めて思考を働かせたアリシアはレイラの心配を忘れなかった。
能力者としては高齢となり、行使できる能力に衰えが見えるレイラは強力な魔術行使をしてくる魔女相手に身を守るすべを持たない。
後方支援に徹すれば足手まといになることはないが、身を案じるアリシアにとって、気がかりになるのも当然のことだった。
「そうよ、私達だけではなく、孤児院出身のサイキック・スタディーズの生徒も数人連れていくことになるわ」
アリシアの心情を感じ取ったレイラはすぐさま反応を返した。
いつもの任務とは異なるチーム構成。
実践慣れしていないサイキック・スタディーズの生徒がそこまで戦力になるとは思えない。
ライルと同じ道を進むことに迷いがなくても、足手まといになる可能性のあるものを同行させるのには、納得しかねるアリシアだった。
「随分、思い切った編成になりましたね。なぜそのようなことに……魔女が相手なら、実力者を揃えていくものでしょう」
「私もそう思うがな、アリシアよ。
作戦上、隠密行動に徹しなければならない事情もある。
事前にこちらが魔女狩りの組織であることを悟られてはならない。
そのために一般観光客を装ったメンバー構成にすることになった。
まぁ、敵に顔が知れている実力者を連れてはいけないということだ。
不安はあるだろうが、堪えてくれ、アリシア」
「我に不満はありませんが……ファザーとシスターの負担が増すのが心配です」
「気にしなくていいのよ、アリシアは。
全員無事にここに帰って来る。それだけを第一に行動してくれればいいわ。
現時点の情報だと日本の魔女がやって来る可能性だって、確実ではないのだから」
穏やかな瞳で、慈愛を持った優しい声色で言葉を紡ぎ、揺れるアリシアの心情を宥めるレイラ。
三人はそれぞれ外見も似ておらず、三人で余暇を楽しむ機会もほとんどない。しかし、互いを気遣う心は最初からずっと持ち合せていた。
「そうなのですか?」
再び、ライルの方に緋色の瞳を向けて確認を取るアリシア。
白人の二人に対して、珍しい褐色肌をした姿をしていても自分の外見に対するコンプレックスはなかった。
ただ、特別扱いされるほど、自分に実力があると信じ切れていないところはあった。
「今のところはだ……作戦の詳細は向こうに着いてから告げられる。
作戦はジュピタークラウンのみで行われるものではない。
そのため、情報管理はより慎重に行われるようだ。
私もアリシアに今話せることはそう多くないのだ」
「分かりました……ファザーとシスターが行かねばならぬのなら、我も異論はありません」
誰に対しても言葉遣いの変わらないアリシアは二人にそう告げた。
自分達がどう利用されているのか。考えるだけ無駄であると思ったアリシアはそれ以上の疑問を投げかけることはなかった。




