第十一話『最後の覚醒者』1
中ホールに侵入して来た屍人達の群勢がようやく途絶えた頃には惨たらしい死体の山が出来上がっていた。
火災の煙と腐り始めた遺体から漂ってくる異臭に包まれる中ホール。
生死を分けた緊迫した精神状態でなければ、これだけの異常な状況は耐えられなくて当然の事態だった。
「ママっ!!」
「さすがに少し、疲れたわね……」
苦悶に歪んだ表情を浮かべ、中ホールの客席に座り込んでしまう羽佐奈に駆け寄る八千羽。
無数の使い魔達を同時にコントロールして自在に操作するのは魔力の消費もそうだが、脳も疲れる。尋常ではない集中力を発揮しなければ切り抜けられない状況であったからこそ、戦いの後には疲労感が襲い掛かって来るのだった。
「もう……自分の年齢も考えずに無茶なことばっかりするんだから……」
八千羽も両手剣で屍人達とやり合ったとはいえ、殆どが羽佐奈の手柄だった。それだけ鬼気迫る状況だったのは間違いないが、羽佐奈の身体的な負担は大きかった。
「大丈夫よ……こんなことで限界に達するような柔なお母さんじゃないわ」
「すぐ強がるんだから……無理しないでよ。パパも日本で心配して待ってるんだから」
「分かっているわ。必ず帰って見せるわよ、八千羽や友梨と一緒にね」
弱音を吐くことなく、穏やかな表情に戻る羽佐奈。
それが気を張って無理をしていることは、娘の八千羽には丸分かりだった。
目の前の敵を殲滅したところで危機が去ったわけではない。
中ホールを中心に出ている煙は広がる一方だ。
劇場に設置された消火器や排煙設備では限界がある。
早く避難をするか、火を消し止めなければならない状況に変わりはなかった。
次の行動を検討しなければならない状況の中、羽佐奈が持ち歩いている携帯端末に連絡が入った。
「劇場に来ている稗田さんからみたいね……出るわ」
昨日のアリス誘拐の事件があり、結果的にプリミエールを連れて劇場に来ていた稗田黒江からの連絡。
数々の戦いを潜り抜けて来た同志からの連絡に期待を抱きながら羽佐奈は着信を取る。
目配せする羽佐奈の姿を見て八千羽と友梨も頼れる相手であることを噛み締める。アリスプロジェクトからは脱退したとはいえ、稗田家当主を務めるアリスの眷属である黒江からの連絡。そこからもたらされる情報が有力でないはずがない。八千羽も友梨も信頼を置く相手からの連絡を見守ることにした。




