第十話『鮮血に染まる光の渦は』5
戦闘が終わったことを察して、静かに杖を下ろすレイラ。
激痛が走り、立ち上がる気力さえない真理の姿を見た唯花は手で口を塞いだまま、言葉を失って足元に膝を付いた。
二人が壮絶な戦いを繰り広げ、決着を迎える一方、真守と三人の魔女狩りの戦いも決着の時を迎えようとしていた。
「私の力で突破口を切り開いて見せます! 二人とも、連携を忘れず、倒してくださいっ!!」
連携を忘れた二人に強い言葉で呼びかけたリファはクロスボウを放った。
星弓と呼んでいる三本の矢が同時に一直線に美しい曲線を描き真守のバリアに吸い込まれていく。
そして、バリアが星弓を防ぎ切ったように見えた次の瞬間、魔力を封じる厄を受け、真守の身体に異常が生じていく。
「あああぁぁ!! いっちまえよ!! おっさん!!」
激情に染まった表情で更なる勢いで魔銃を撃ち放つポルフ。
厄を受けた身体が急激に重さを訴える中、歯を食いしばりながら、必死の形相で銃弾を防ぐ真守。
だが、素早く背後を取ったレディアンによる容赦のない斬撃をまともに背中に受けた真守は抵抗虚しく全身から血飛沫を上げながら倒れ込んだ。
「ぐはぁぁ!! あがぁぁぁぁぁ」
あっという間に立ち上がることが出来なくなった真守と真理。
二人並んで倒れた夫婦は虚ろな瞳で互いの姿を捉えた。
「真理……すまない……」
「ううぅぅ……真守……こんなのってないわよ……」
か細い声を呟くことしか出来ないほどの死傷を負った二人。
ふらふらとした足取りで車の間から出て来た唯花は信じられない心境で二人を見つめた。
「何で……酷いよこんなの……。
おじさん!! おばさん!!」
一瞬、意識が朦朧とするほどの精神的ショックを受けた唯花は再び正気に戻り、足を震わせながら二人に駆け寄った。
膝を付いて二人の顔を覗き込む唯花。
大量の出血によって血だまりとなった足元に膝を付けると白いロングスカートが血の色に染まっていった。
皮膚が爛れ、赤黒く染まった身体からは臓物が顔を覗かせ、口を開こうとすればするほど、真っ赤な血が口から噴き出してしまう。
棺に入れられた綺麗な遺体しか見たことのない唯花にとって、これほどに傷つけられた肉体を目にするのは初めてのことだった。
「ヤダよこんなの……浩二と真奈ちゃんに何て伝えたらいいの……。
お願い、死なないで!! どこにも行かないで!!
一緒に日本に帰ろうよっ!! いやあああぁぁぁぁぁ!!」
残酷な現実を前に泣き叫ぶ唯花。
悲痛な表情に歪んだ瞳からは涙が絶え間なく流れていく。
真理は自分達のことを想い哀しみに染まっていく唯花の姿を見て涙を浮かべ、何とか言葉を紡ごうと血を吐き出し、最後の力を振り絞って声を上げた。
「ごめんなさい……唯花ちゃん。情けないおばさんで。
浩二と真奈ちゃんをお願い。生き残るのよ……貴方は私達に巻き込まれただけなんだから……」
「やだよぉ……一人で日本に帰るなんて、嫌だよ。
私も死ぬ、一緒にここで死ぬよ……」
受け入れがたい現実を前に悲しみで心が決壊した唯花の瞳から涙が絶え間なく零れていく。
息も絶え絶えになる真守は立ち上がる気力さえ失っていく唯花の肩に手を伸ばした。
「格好悪くてごめんよ。
唯花ちゃんは強い子だ、浩二と真奈ちゃんを幸せにしてやってくれ。
まだ、諦めなければ大丈夫だ」
「ダメです……こんな形でおじさんと別れなきゃならないなんて嫌です。
私、耐えられないですよ……」
泣きじゃくり、死にゆく二人と最後の言葉を交わす時間が残酷に流れる。
意識が遠のき、瞼が重くなっていき、瞳を閉じてしまう真守と真理。
隣に住む、大好きな家族が壊れ、失われていく。
大切な二人がいなくなった先で、どう浩二と真奈と向き合えばいいのか、今の唯花にはとても想像ができる状況ではなかった。
別れを惜しむ様子を見ていたレイラはただ一言「行くわよ」と三人に伝え、無力な少女を置いてライル達と合流するために地下駐車場を後にすることに決めた。
レイラを先頭にして階段を上っていく中、リファは最後尾から階段を上る直前、敵が死に絶えたことを確認しようと振り返ると、地面を叩き泣き叫ぶ少女の姿を目にした。
「これが戦いなのよ……勝者は生き残り、敗者は死に絶える。
私達は魔女を狩る、魔女狩りなんだから……」
握拳を作り、悲しみに染められた純粋な唯花の姿を目に焼き付けてしまうリファ。
一瞬、意識の外に行きそうになった自分を落ち着かせ、リファは前を向いて階段を上った。
地下駐車場に一人残された唯花は血に塗れることを厭わぬほどに大きな喪失を味わい、途方に暮れた。
それは平和に暮らしてきた唯花にとって、到底受け入れられる惨劇ではなかった。




