第十話『鮮血に染まる光の渦は』3
(さぁ……茜ちゃん、ファイアブランドの出番よ。
私を勝たせてくれるかしら。早くこの戦いを終わらせて、友梨に加勢しないと!)
かつて、舞原市の厄災を舞台に激闘を繰り広げた緋色の少女の名を呼び、感情を昂らせる羽佐奈。
今はもう、少女の声が聞こえることはないが、少女が発現させた愛剣を繰り出すことは出来る。
相手が一度、弾切れをしてリロードするタイミングを狙って間合いを縮め、一気に接近戦に入る羽佐奈。
激しく焔に染まる傷一つないファイアブランドを握り、一気に振りかぶってライルに襲い掛かった。
真っすぐに燃え盛る凶器がライルに迫っていく。
魔銃を仕舞ったライルは目の前に迫る命の危機を両手から発現させた光で防いだ。
「くっ!!」
一気に決着を付けようとした羽佐奈の表情が驚きに染まる。
光は形状の見えない刃のようにファイアブランドの衝撃を吸収し、弾き返して来る。
両手から伸びるそれは光の柱のように見えて確かな熱を持った、収縮自在な不可視の爪であった。
(ただ意識を研ぎ澄まし……己の力を信じて魔女の心臓を突く。
さぁ、アリスの眷属共よ、覚悟するがいい……!!)
両手に魔力を集中させ、さらに腕を振るって連続で不可視の爪を自在に使いこなしていくライル。
神父とは思えぬガッチリとした肩幅に鍛え抜かれた逞しい肉体から繰り出される素早い連撃で羽佐奈の身体は押され、次第に後退していく。
明らかな筋肉量の差を感じる身体に響く振動。片桐茜の魂を宿したファイアブランドをもってしてもライルの気迫に圧倒され、防ぐのが精一杯だった。
(やはり……このライル・ローレンスという男はひと味違う。
私達を本気で殺しにかかって来ている。尋常ではない信念をもって……)
足腰に力を入れて必死に耐える羽佐奈。
火花が散り、身体が痛みを訴えて来る。
後どれだけ持つか見当もつかない。
一瞬の気の緩みも許されない。
そんな時、大きな物音を立て、中ホールの扉が開かれた。
「グガァァァァァァ!! ガアァァァァァァァァ!!」
そして、次の瞬間、人間とは思えない化け物のような叫びが鼓膜が割れる程に中ホールに響いた。
ライルの動きが停止し、羽佐奈は一瞬の隙を見て、後方に飛び退いた。
扉に視線を向けると、そこには虚ろ眼でゆらゆらと身体を揺らす、屍人達が次々と押し入って来ていた。
「厄介なことになったわね……」
不気味に瞳を点灯させ、口を半開きにした顔の潰れた醜い姿をした屍人達を見て羽佐奈は呟いた。
二桁に届きそうな勢いで侵入してきた屍人達は人間を標的にしているのか歓喜に震えた咆哮を上げ、素早く走って急速に近づいて来る。
「あれは何なのよ……もう心臓に悪い!!
血走った目でこっちに向かって来るんだけど」
気味の悪い屍人達が向かってくる衝撃は凄まじく、八千羽は焦りのあまり声が出ていた。
「ファザー!」
アリシアも予想外の展開にライルに対応を求めた。
「やむを得ん、屍人に喰われるわけにはいかない。乱戦を避けてここは一時撤退する」
羽佐奈達と一緒になって屍人を相手にするほど余裕はなく、不意打ちを食らう可能性も考慮して一時作戦を練り直すことをライルは選択した。
屍人達の邪魔を受けたアリシアとライルは合流して別の出入口扉から中ホールを出た。
残された羽佐奈達の背後には友梨だけでなく、消火活動を続けるスタッフもいる。
何とか襲い掛かって来る屍人達を対処しなければならない状況だった。
羽佐奈はやむを得ないと判断すると、使い魔達を次々に解き放ち、迫り来る屍人達へ一斉に斬りかかった。
「犠牲になったのは劇場にいる関係者かしら。屍人まで利用して来るなんて……敵は容赦ないわね。
ここを死守するわよっ! 私の使い魔達! 行くのよっ!」
血肉を求めて彷徨う屍人達を切り裂く刃。
容赦なく血潮と共に四肢が飛び交い、断末魔を上げ地に伏していく屍人達。
空を舞う時を楽しむように無邪気に飛び回るガラス細工の使い魔達は屍人達が動きを止めるまで圧倒していった。




