第十話『鮮血に染まる光の渦は』1
一方、懸命な消火活動を続ける羽佐奈達にも魔女狩りの魔の手が迫っていた。
「想定通り、この劇場に来ていたか……」
この非常事態にも関わらず、不自然なほどに冷静な声を聞いた羽佐奈が振り返ると、そこにはライルとアリシアの姿があった。
合図である爆弾の爆発音と共に地下駐車場からやって来たライルは既に標的である羽佐奈の姿を正面に捉えていた。
真っ黒なカソックに身を包み、胸に十字架のネックレスを付けた神父、ライルの言葉を聞いた羽佐奈は即座に尋常ではない強い気配を感じ取った。
「これが貴方の望んだ事態なのかしら? ライル・ローレンス」
必死の消火活動が続けられても、燃え盛る炎は煙を巻き上げながら広がっていく。羽佐奈は残虐非道な行為を非難する意思を示した。
黒江から聞いた話と特徴が一致する魔女狩りの首謀者。
羽佐奈はすぐさま卓越した能力を所持した魔女である自分が狙われていることを察した。
「忌まわしき魔女共に贈る言葉はない、ここで死んでもらおう」
「そう簡単に殺されるわけにはいかないのよ!」
ライルの言葉に感情が沸騰した羽佐奈は即座に戦闘態勢に入り、梔子色の瞳を輝かせ、全身から魔力を発現させた。
魔力によって次々と姿を現すガラス細工のような美しき鳥の使い魔達。
一羽一羽が術者の意思に従い行動する使い魔は高速でライルへと向かって飛翔していき、その身体を引き裂こうと迫っていく。
だが、何人もの魔女を亡き者にしてきた男はそう簡単に肉体を引き裂かれる器ではなかった。
その場で魔銃を懐から取り出して構えを取ると、正確な射撃で次々と使い魔を撃ち落としていく。
ガラスが割れる音と共に使い魔は形を失い、その場で消えていく。
四方八方から次々に襲い掛かる使い魔の特攻を回避行動を取り、器用に躱しながら狙撃する姿はとても教会の神父とは思えない瞬発力だった。
「それがお得意のガラス人形か。魔女の攻撃は予習済みだ。赤津羽佐奈、日本で最強の能力者と語られているとはいえ、年齢による衰えは避けられないだろう」
軍人でもないエクソシストであるライルは、鍛えられた動体視力で羽佐奈の得意技を封じていく。
全盛期の頃の行使力であれば、より高速で相手を翻弄していた使い魔も年々速度が低下していることは羽佐奈自身も自覚しているため、動きを見切りられてしまうのは致し方ないことだった。
(熟練された無駄のない動き……それにとんでもない速射ね。黒江さんが警戒する意味も理解できる)
「使い魔がこちらに届いていないぞ。今度はその脳髄をぶちまけてやろうか」
一度攻撃を防ぎ切り、羽佐奈の顔面に向けて照準を向け、冷酷に言葉を突き付けるライル。
劣勢となる状況の中、後ろで消火活動を続ける友梨やスタッフのためにも、羽佐奈は簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
「この程度とは思わないでよね。ライル・ローレンス。
そこまでの能力がありながら、テロリストだなんて残念よ。
ここでお別れしてもらおうかしら」
魔女狩りを相手にしている以上、強気の姿勢を崩すことなく、羽佐奈はさらに使い魔を呼んで四方から隙を狙っていく。
迫る使い魔を横目で捉え、正確な射撃で撃ち落とすライル。
ロングレンジで繰り広げられる百戦錬磨の二人の決闘。
まだ序章に過ぎないような余裕さを見せながら、互いに相容れぬ二人がぶつかり合う。人類の進化を象徴するような異次元の戦いを二人は繰り広げていく。




