第九話『魔女狩りと魔法使いの開戦』3
「真守さん!! 真理さんっ!!」
劇団員に誘導され、二人の姿を見つけた唯花は瞳を潤ませながら、真理の胸に飛び込んだ。
「ごめんなさい……何が起こっているのか分からなくって……」
「大丈夫よ、一人で不安にさせてしまったわね」
思わず謝罪の言葉が口から出る唯花。タイタニック号に乗客する衣装を纏ったまま待機していた真理と真守。
一人で観客席に座っていた唯花にとって、香港という異国の地で頼ることの出来る相手はこの二人しかいなかった。
真理から頭を撫でられ、真守から背中をさすられてもなかなか気持ちが落ち着かない唯花だったが、二人が真剣な表情を浮かべていることに気付き、身体を離した。
「どうやら、この場に留まっているのは危険そうだな」
もはや公演を再開するのは不可能なほど、混乱が広がっている中、思考を巡らせる真守。真理も一緒に考えるが周りと一緒に行動していると逆に避難が遅れるのではないかと思い始めた。
「唯花ちゃんだけでも先に安全な場所に移動させたいわね。地上にあるドームの出入り口はどこも人でいっぱいでしょうから、地下駐車場から抜け出せないかしら?」
「そうだ……関係者用の駐車場には車を停めてある。テロリストが辺りを徘徊している可能性があるなら、そちらの方が安全に外に出られそうだな」
二人の話し合いを邪魔しないように静かに聞く唯花。
頼りになる存在である二人は衝突することなく、冷静に話し合い、次なる行動を決めた。
「唯花ちゃん? まだ走る勇気はあるかい?」
「はいっ! こんなところでじっとしているわけにはいかないですから」
「いい返事だ、今から地下駐車場に向かう、はぐれないよう一緒に付いて来るんだよ」
二人の意思決定を信じて真守の言葉に頷き、貴重品の入ったショルダーバッグをギュッと掴む唯花。
足の震えは自然に止まり、今すぐここから抜け出したくて、走り出したい気持ちの方が勝っていた。
「さぁ、行こう。火災の状況は分からないが、すぐにドームが壊れる心配はないだろう。慌てず付いて来れば、必ず助かる」
根拠は薄かったが、何とか二人を安心させようと声を掛け、真守が先導して控え室から地下駐車場へと向かい、走り出す。
周りの混乱ぶりを見ながら真理は肩に力の入った唯花の手を掴み、一緒に走った。
地下駐車場までやって来ると、肌寒く埃臭い外気が身体に襲ってくる。
地上へと繋がる道は開かれている。三人揃って駐車している車へと向かっていく。だが、そこには魔女狩りの実行者たちが待ち構えていた。
「顔認証も生体反応も一致している。事前に貰ったデータとも一致するわね。
ターゲットから向かって来てくれるなんて、捜す手間が省けたわ。
樋坂夫婦……劇団ホリック・アルケミーに所属する忌まわしきアリスの眷属。
ここを通すわけにいかないから、止まってくれるかしら」
修道服に身を包んだレイラ・シェリーが妖艶な魅力を滲ませたまま地下駐車場まで逃げ出してきた唯花達に命じるように話しかける。
彼女の周りには唯花と歳の近い三人の少女が不気味に瞳を輝かせ、お揃いの黒のフード付きジャケットを着て構えていた。
樋坂夫婦と行動を共にすることで、必死に生き残ることだけを考える唯花は、逃れられない絶望の渦に引きずり込まれたことを察し、恐怖心が身体中を駆け巡った。




