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split tears~西暦2055年香港劇場火災事故の真相~  作者: shiori@


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第八話『招かれざる者達』2

 メイン会場である大ホールの照明が落とされ、いよいよ開演の時を迎える。

 爆破予告を受けていることなど知る由もないため、満席状態の客席は始まる前から熱気に包まれていた。


「蓮君……楽しみだね」

 

 懐かしい呼び名で愛おしく甘言を隣の席に呼び掛ける沙耶。

 羽佐奈からチケットをもらって会場入りした沙耶とその夫、そして後に黒沢研二を名乗ることになる、トーレス・アルシュタット。

 持っていたのは翌日のチケットだったが、当日のチケットと交換して欲しいと要望する相手に偶然出会い、幸運にも席に座ることが出来た。

 夫と恋人繋ぎをしてデート気分を味わう沙耶。恋愛ムードに包まれている両親にトーレスは子どもながら巻き込まれ、この両親にはついていけないといった調子で期待もせず舞台の方を見つめていた。


「トーレスも楽しみだね」


 我が子に向かって満面の笑みを浮かべ呼びかける沙耶。

 しかし、トーレスは返事をすることなく愛想なく溜息を付いた。

 絵描きとしての母親は尊敬してリスペクトしているが、新婚気分が抜けないような印象を受ける愛妻家としての母親には共感できず、トーレスは堕落した目で退屈そうに開演の時を待つのみだった。


 沙耶だけでなく、一人客席に座る唯花もまた瞳を輝かせ、今か今かと開演の時を待つ。

 何事もなく今日を終えられたらいいのにと願う羽佐奈や黒江達の想いをよそに、スポットライトに照らされたクマのぬいぐるみがよちよちと歩きながら、舞台中央へと向かって歩いて行く。


 三十センチに満たないぬいぐるみは愛くるしい自然な動作を披露しながら歩き、サイズからしても中に人が入っているとは思えない。

 ロボットでも到底出来ないステップダンスを披露して歩き、中央に立つと観客に向けてお辞儀をするクマのぬいぐるみ。


 会場が拍手に包まれる中、クマのぬいぐるみは煙と共に消え去り、眩しい照明が一気に舞台に照らされ、開演の時を迎えた。


 ”シングシングシング”のジャズミュージックと共に、天から降り注ぎ、縦横無尽に空の上を舞う紙飛行機やトランプ達。芸術的な幻想風景に包まれる中、箒に乗った魔法使いが天から降りて来る。

 

 笑顔で手を振りながら、現れたのはマジカルハットを被り、煌びやかな衣装を身に纏った樋坂真理。軽快な音楽と共に自由飛行を楽しむ真理の姿に会場は興奮に包まれた。

 

 そして、立体装置で地下から舞台上にタキシード姿で現れる真理が愛する夫、樋坂真守。

 真守の姿を見つけてウインクをした真理は箒から豪快に飛び降り、両手を広げて真守の胸の中に吸い込まれていった。


 そこから始まる二人の華麗なるカーニバル。

 超能力でなければ実演できないショーを次々と披露していき湧き立つ会場。

 パイロキネシスを使いこなし、炎舞う芸術を披露する真守。

 サイコキネシスを使いこなし、自由に物を動かす力を優雅に行使して会場を沸かせる真理。

 

 二人の絆によって作り出された舞台は、二人の愛の結晶を形にしたまさにオープニングセレモニーといって相応しい芸術だった。


「凄すぎてちょっと言葉にならないね、あれだけ超能力を自由自在に使いこなせるなんて、二人は凄いなぁ……」

 

 自身も魔法使いである沙耶は感心した様子で舞台を見つめる。


 興奮に包まれる客席の中で、沙耶の隣に座るトーレスは茫然と舞台上を見つめた。トーレスにとっては超能力など何の価値もないと思ったいただけに、目の前で広がる光景は衝撃的だったのだ。


 マジックショーのように会場を沸かせ、人々を喜ばせるための超能力。それは本当に実在するか否かを問い続けるよりもずっと、魅力的にトーレスには映った。


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