第八話『招かれざる者達』1
舞台公演初日当日、開始時刻は正午過ぎ。公演開始前に物販が開始される影響で会場となるドーム前では人が列を成していた。
そんな中、朝から会場を訪れていた羽佐奈達は関係者用ネームプレートを下げ、ドームスタッフに案内されながら会場を点検していた。
犯行予告が来ていることは、会場に来ている観客はおろか、メディアの人間にも知らされていない。
主催者側は開催に影響を及ぼす憶測を出さないために警察当局への協力も最小限に留めるとしており、犯行予告以外の何らかの物的証拠が発見されない限り当局は動かないとしている。
ドームスタッフは十分に監視、警戒を強化している主張を続け、テロ行為には屈するつもりはないと開催を中止するつもりはなかった。それは海外公演の機会を得たホリック・アルケミー側も同様であった。
「それでは、今のところテロ行為が発生する兆候は見られないということですね?」
各施設を見て回った羽佐奈は担当者に確認の言葉を掛けた。
警察以上に頼られている現実を見て、赤津探偵事務所の探偵としてやって来た羽佐奈は複雑な心境だった。
責任を押し付けるつもりはないと口にされてもテロリストを発見できず事故が発生すれば犠牲者が確実に出る。責任感を感じざるおえない現実がそこにはあった。
「はい、こちらも警戒を強めていますが不審物は発見されていません。不審な人物を見掛けたという報告もなく、事前にこちらに届いた犯行予告は単なる嫌がらせ行為に過ぎないと考えています」
開催に問題はないと言い張るスタッフの楽観的な言葉を受け止める羽佐奈。
素人の警戒態勢で手馴れたテロリスト集団に対抗していると羽佐奈は感じつつも、自信満々の態度を崩さないスタッフを咎めることはしなかった。
「分かりました。異変を発見すればこちらから報告します。よろしくお願いします」
開演の時間が迫る中、簡単に業務連絡を伝えるのみで離れていくスタッフ。
羽佐奈は昨晩、夜遅くに黒江と話し合いの機会を得て、アリスを巡ってライル・ローレンスと交戦したことを知った。
そこで魔女狩りの影が迫っている可能性が高いと指摘されたことで、自分達が誘い出されているという危機感が抜けず、気が気ではなかった。
「犯人は既に会場内にスタッフとして忍び込んでいる可能性もあるわ。
時限式の爆弾が仕掛けられている可能性は捨てきれないでしょう。
とりあえず、今は出来ることをしましょう」
「そうね、これだけ広い会場。いくらでも隙を付いて仕掛ける余地はあるわ」
羽佐奈の言葉に八千羽は頷き、友梨も同意して三人で怪しい点がないか、警戒を続けていくことになった。
会場となる香港島湾岸部に位置するドーム型の施設は広く、どこからテロリストが入り込んでいるか分からない。
ホリック・アルケミーが舞台演劇を開催する大ホール以外にも他の催し物が開かれる中ホールやいくつもの会議室、地下駐車場から物販スペースに展示スペースなど、忍び込んで爆弾を仕掛ける場所はいくらでもある。
三人で手分けして不審物を探し出すにしてもヒント一つなく、キリがない状況だった。




