↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
split tears~西暦2055年香港劇場火災事故の真相~  作者: shiori@


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/62

第五話『東洋の真珠』5

「さっきまで、ヴィクトリア・ピークまで夫と行っていたんですよ。

 やっぱり何度来ても、この綺麗な景色はいいですね」


 澄んだ声で説明をして、横に立つ長身の男性の肘を掴む沙耶。

 スラっとした体格に紫の瞳とシルバーの髪色をした眉目秀麗(びもくしゅうれい)な大人の男性は羽佐奈にとっても思い出深くもあり、馴染みもある容姿をしていた。


「息子さんはどうしたんですか?」


 八千羽は夫婦二人きりで過ごしているのを見て、一緒に来ていると想像できる、息子の姿がないことが気掛かりになって聞いた。


「トーレスは一人でどこかに出掛けていると思います。ホテルのキーは渡してあるので自由にしてますね。きっと私がこういう場所で浮かれてしまうのを見るのが恥ずかしいからです」


 夫とのデートを楽しんでいる雰囲気の沙耶は少し申し訳なさそうに説明した。八千羽はそれを聞き、思春期を迎えた男の子ならデートスポットに連れて行かれても気まずくなってしまうので、仕方ないかと察するのだった。


「それで、お三方はどうして香港までいらっしゃったのですか?」


 頭に疑問符を載せたまま、丁寧な言葉で気になったことを聞く沙耶。


 羽佐奈は人目を気にしてここまで来た本当の事情は省き、香港での初日公演を迎えるホリック・アルケミーを見に来たのだと説明した。


 「なるほどです」と呟き、羽佐奈の夫である赤津司の姿もなく、何となく単純な観光旅行ではないことを沙耶は察した。


「ホリック・アルケミー……映像でしか見たことないですけど、とてもエネルギッシュな役者さんが揃っていて、どの公演もドラマチックですよね。芸術的な舞台と知っているので何だか羨ましい限りです」


 舞台演劇に超能力を取り入れているところまでは気付いていない沙耶だったが、役者の演技から力強いものを感じ取っていた。


「興味があるなら行ってみるといいわ。余ってる公演チケットを譲ってあげるから」


「羽佐奈さん……本当にいいんですか? ありがとうございます! お礼は何をすればいいですか……?」


「気にしなくていいのよ。まだ滞在しているようなら楽しんできて。沙耶の幸せな姿を見られただけで私達は十分に元気を貰ったから」


 話の流れに乗って持て余していた公演チケットを手渡す羽佐奈。

 恐る恐る手に取り、目を輝かせる沙耶。

 それを見て優しく微笑み、是非楽しんできてと伝える羽佐奈。

 沙耶が辿ってきた鮮烈な境遇を聞かされていた八千羽もまた言葉を掛けた。


「息子さんも楽しんでくれるといいですね」

「そうですね……美し過ぎる風景を純粋に受け止めきれないところがトーレスにはあるので、公演を楽しんでくれるといいなって思ってます」


 八千羽の心遣いに弾ける笑顔を見せて頷く沙耶。

 ロングスカートを靡かせ、夫に寄り添う沙耶が夫婦円満であることは疑いようがない。

 だが、子育てをしている身である八千羽にとってはこの場にいないトーレスの事も気がかりでならなかった。


 沙耶との偶然の再会を喜む羽佐奈達だったが、これ以上、デートを続ける沙耶の邪魔をしないよう、この場を離れることにした。


「あの公演チケット、初日のものではないのでしょう?」

「もちろんよ。二日目の夜に開かれる三名分の公演チケット。私達には必要ないでしょうから」


 ライトアップされた景色の中を歩きながら、羽佐奈は友梨の質問に答えた。

 自分達がやるべき役割を果たせば、沙耶は家族と一緒にホリック・アルケミーの公演をじっくり楽しむことができる。

 羽佐奈の粋な計らいに隙はない。

 友梨は最悪の展開も考え、もしものことも考えたが、羽佐奈の回答に口を挟まず納得した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。