第五話『東洋の真珠』4
香港国際空港から四十分間タクシーに乗り込み、羽佐奈達は今日から宿泊するホテル、アイランド シャングリ・ラ香港に到着した。
「やっぱり凄いわね……」
「リッチな宿泊先ね。豪華過ぎてちょっとむず痒くなっちゃいそう」
ライトベージュカラーのサングラスをずらし、地上五十六階立ての高層ビルを見上げる羽佐奈。
同じくタクシーから降車した八千羽も壮観な景色を眺め、即座に目を奪われた。
「アリスプロジェクトの依頼で来てるんだからこれくらいはね。支払いは安住さんが払ってくれるから、気兼ねなく泊まりましょう」
「はい。ですが二人とも、贅沢な時間を過ごして気が緩んでしまっては良くないので気を付けて」
「友梨は本当、真面目よね。十分分かっているわよ」
誰もが羨む5つ星ラグジュアリーホテルを前にして友梨は気を引き締めて言った。
プライベートで旅行に来ていることを強調するために全員があえて私服を着ているが、普段から旅行する趣味のない友梨は普段と変わらない佇まいをしていた。
ホテルに入り、早速チェックインを済ませる。
探偵業に限らず、テレビのコメンテーターや写真集やエッセイ本の出版など、多種多様な芸能活動もしている羽佐奈は緊張する様子もなく堂々と先頭を歩き、客室まで二人を先導していく。
サインを求められるほど、海外でも有名というわけではないが、海外への渡航も慣れたもので、人生経験豊富な羽佐奈だった。
レストランで本場の広東料理に舌鼓を打ち、ホテルラウンジでしばらくゆっくりと優雅なひと時を過ごす三人。
公演初日までは情報収集に専念するため、急ぐ用事もない。
三人は日が暮れてきたタイミングでライトアップが行われる観光名所、ビクトリアハーバーへと向かった。
*
出来るだけ観光客らしく動きやすい格好に着替えてやって来た三人。
ただでさえ人口密集地域である香港で観光名所となると人通りが多く、フォトスポットを取り合う人々で溢れかえっていた。
「あら、よく知ってる気配が近くからしてくるわね」
「これは、清水沙耶さんですね」
「凄い偶然! 沙耶さんも香港に来てるなんてっ!」
生体ネットワークで繋がっていることもあり、近距離であれば魔法使い同士、テレパシーで交信することも、相手の気配を察知することができる。
偶然にも魔法使いの弟子として赤津探偵事務所に来ていた時期がある清水沙耶の反応をキャッチした三人は喜びを爆発させて周囲を探した。
日本ではなく、香港の地で再会を果たすまさに運命的な巡り会わせ。特に驚く八千羽は何とか二人より先に見つけてしまおうと目を閉じて気配のする方向を探る。だが、索敵能力に優れた友梨には敵わず、結局友梨の背中を付いていくだけになった。
「えっ?!」
目視できる範囲まで三人が近づいていくと、沙耶は驚いた様子で三人の方に視線を移した。
「沙耶さーーん! お久しぶりです!」
最年少の八千羽が一番に近づいていき、沙耶の手を握り、そのままハイテンションで握手を交わす。
細身な体型に腰まで伸びた長い黒髪を下ろした柔らかな雰囲気を纏う沙耶は途端に笑顔を弾けさせた。
「ビックリしました! まさか皆さんお揃いで香港まで来ていたなんて」
白い肌をして日本人形のような変わらぬ美しさを纏う沙耶。
今年で四十五歳となる沙耶は羽佐奈より年下とはいえ、出会った頃とは見違えるほど、すっかり落ち着いた大人の雰囲気を漂わせる女性だ。
再会を喜ぶその隣には身長が180cm以上は軽くある長身の男性が三人の勢いに委縮して、遠慮がちに立ち尽くしていた。
「香港まで来て、まさかと思ったわ。でも沙耶とは長い付き合いだから、はっきり気配が分かったわ」
能力者同士、距離が離れていても互いの気配を感じ取ることが出来る。
それが長い付き合いを重ねて会得した絆の証拠であるように感じた羽佐奈は沙耶との再会を喜んだ。




