第五話『東洋の真珠』3
空の旅を終え、香港国際空港に着陸した羽佐奈達は空港を出て宿泊先のホテルへとすぐさま向かった。
羽佐奈と友梨よりも薄着でやって来ていた八千羽は「意外にこっちは暖かいじゃないの」と感想を零した。
香港の十二月の気温は十七度ほどで昼間は特に暖かく感じる。日本では冬の始まりを迎えて寒気がやってくる季節であるだけに、コートやマフラーなしで過ごせるのは気候が優れている証拠だった。
「あぁ……鞄が重くて肩が凝っちゃって…」
「飛行機に乗って疲れたからお風呂に入りたいわね」
タクシーに乗車して早々、旅の疲れを口にしてしまう後部座席に座る羽佐奈と八千羽。
目の前のモニター画面にはミュートのままCMが流れ、伝統的な繁体字で書かれた中国語の字幕が一緒に表示されている。
自動運転タクシーの車内は三人で座るには広々として快適で、運転席にはパンダのぬいぐるみがちょこんと置かれている。これは間違って客が運転席に座らないための措置で、パンダが選ばれているのは香港へ観光にやって来る観光客を意識したものだった。
姿勢を崩して疲れた様子で座る羽佐奈と八千羽。一方で友梨はタブレット端末を開き、表情一つ変えずスキマ時間を活用して黙々と事務作業を始めていた。
「時々、思うのよね。友梨と私は年齢変わらないはずなのに、友梨は全然見た目が変わらないわよね」
「私は元々、化粧も薄ければ印象も薄いってだけよ。最低限のスキンケアをしていれば、印象が急に変わることはないわね」
「ママは見た目を気にし過ぎなのよ。気にし過ぎるから、余計に化粧が濃くなって年齢感じちゃうのよ」
「二人とも言うことが遠慮ないわね……いつまでも綺麗で羨ましいです! とか私のファンみたいに贔屓目に言ってくれないわけ?」
「身内にそんなベターな甘い言葉期待しないで。未だにパパと一緒にお風呂入ってばっかりいて恥ずかしいんだから」
旅先で友梨と娘の八千羽に遠慮なくはっきりと言われてしまう羽佐奈。
人前では気にしないフリをしていても、つい老いを気にしてしまう羽佐奈だった。
「もう、そんなこと言って八千羽は旦那に逃げられてるじゃないの」
「男はいいのよ男は……あたしはママと違って若いから捜せばいくらでも見つかるんだから」
「そう言っていられるのは後十年もないわよ」
家庭内外関係なくおしどり夫婦として知られる羽佐奈と夫の司。
一緒に入浴したり、料理を食べさせ合うラブラブな光景は傍目から見れば微笑ましい姿だが、娘の八千羽からすると恥ずかしいことこの上ない。
一方、八千羽は探偵事務所に務めながら子育てを行うママだが、数年前に離婚をしている。不倫が原因のため、心残りはないがバツイチ子持ちの再婚への道のりは簡単ではない。
そのため、家族からは何かとモラハラされたり、お節介な言葉を受けるのだった。




