第四話『歴史を紡ぐ魔女』6
また、先に言及しておきたい点として、この香港劇場火災事故には私がよく知る関係者が何人も関わっている。
だからこそ、アリスプロジェクト日本本部の代表、安住から送られてきた依頼文の内容を引き受けたことを、他人事とは思えないほどに重く受け止めている。
無責任な爆破テロによって多くの犠牲者が発生する事態を防ぐため、私が八千羽と友梨を連れて現地に派遣されたことは反アリス派の魔女狩りまで潜入していたことから、確かに無駄なことではなかった。
だが結果として全ての命を救うことは叶わず、優秀な同志を失うことになり、無関係な人間まで巻き込まれ、無慈悲な形で命を落とすことになった。
私にとって受け入れがたい、悔いが残る甚大な被害が発生したことは残念でならない。
では、私が良く知る関係者たち……それらの紹介をここで簡潔に行った上で、隠された真実の記録をご覧いただきたい。
まずは舞原市の復興を成し遂げた前市長、稗田黒江である。
2029年に舞原市で発生したゴーストによる未曾有の厄災。
その際に共闘した稗田黒江さんがいてくれたことは頼もしい以外の何物でもない。
だが、彼女自身はあの頃から年月が過ぎ高齢になり、既に魔力行使が出来る肉体ではほとんどなかったようだ。
それでもなお、プリミエールという秘書を連れて合流してくれたこと。私達の戦いに協力を行い、知恵を貸してくれたこと。
それは彼女自身が只事ではない気配を感じ取っていたからだろうと考察している。
最終的な結末に関してはまだこの段階では言及を控える。
だが、彼女が稗田家当主の権力を用いて稗田隆二郎に依頼してプライベートジェットで迎えを寄越してくれたおかげで私達は香港に長期滞在することなく日本に帰国することができた。
それは今でも感謝していることで、稗田黒江の卓越した状況判断の賜物であると評価している。
また、彼女からの情報でホリック・アルケミーの劇団員の中に学園長時代の教え子が複数人いることも聞いている。
それは八千羽の友人と同一人物であるが、その教え子は半人半霊の魔法使いとして覚醒を果たし、超能力を公演の出し物に活かしているという。
超能力が果たす役割はゴーストに対抗することばかりではない、そのことは大事な視点であると私は考えている。
彼ら以外にも私が良く知る人物が一人、香港の地を訪れていた。
それは、かつて赤津探偵事務所を経営する私を訪ねてきた清水沙耶である。
最初に私の下を訪れた当時は高校を卒業したばかりの十八歳で、霊感が強く守護霊に憑かれている状態だった。
私は彼女のために守護霊と共存する道を手助けすることになったが、それも母校で出来た婚約者と幸せになるためだと話すのだから仰天させられた。
その後も清水沙耶との付き合いは長く続くことになり、私は再会するたびに近況報告を受けて驚かされることばかりだった。
香港には夫と息子を連れて、観光のためにやって来ている様子だった。
かつて眠り姫となって生きる屍となっていた沙耶が家族と共に幸せな日々を送っている。
それは私にとって何よりも喜ばしいことで、私は彼女がこれからも幸せであることを切に願っていた。
だが、ようやく幸せを手にすることが出来た彼女に悲劇が襲い掛かった。
私にとって受け入れがたい、残酷な結末だった。
もう、沙耶に会うことは叶わない……それがどれだけ、私を落胆させたことだろう。
私にとって香港劇場火災事故が忘れることの出来ない一件である大きな要因。
それは、清水沙耶と永遠に別れることになった悲劇の歴史があるからである。
これは私情を挟んでいる見解のため、これ以上の感情の吐露は控えるが、私にとって大きな事件であったことは分かっていただきたい。
では、アリスプロジェクトを筆頭に様々な協力を得て導き出された、魔女狩りの組織まで絡んでいる真実への扉を開きます。
あの日、遭ったことは多くの観客で賑わう劇場で発生した只の火災事故などではなく、意図的に仕組まれたテロ行為であること。さらに私達の敵である魔女狩りの組織のメンバーが関与していること。
それを是非、皆様にも真実の記録として知っていただきたいと存じます。




