第四話『歴史を紡ぐ魔女』3
黒江はとある事情により、稗田家の離れでこっそり暮らしている実の娘、凛音を訪ねた。
広大な敷地に建てられた屋敷に比べれば慎ましやかな家屋をしている離れ。
とはいえ、二階建ての住宅で部屋が六つもある離れに凛音は一人で暮らしており、夫である隆二郎が出入りを繰り返す程度だ。
狭苦しい家に一人では可哀想だからと広めに設計された離れだが、実際には明らかに使用していない部屋も存在し、持て余しているのが現状だった。
凛音一人で過ごしているケースが多いため、閑静としていることが多い離れだが、今日はいつもとは様子が違っていた。
「隆二郎君どう? 似合ってるかしら? 結構イケてるんじゃないかなって思うんだけど」
「流石我が嫁だ、とても似合っているよ凛音。これなら少年漫画雑誌の表紙を飾っていてもおかしくないほどだ」
「それは言い過ぎでしょ……私の年齢を考えたらせめて女性向けファッション誌が関の山でしょ」
隆二郎と仲睦まじく語らいを続ける音声が玄関の向こう側から聞こえてくる。玄関扉を貫通して話し声が聞こえてくることは珍しい。
余程良いことがあったのか、今日の凛音は黒江の記憶から遡って考えても興奮しているようだった。
「貴方達、一体何をしているのかしら?」
特に遠慮もなく玄関を開けて、離れの中へと入って行く黒江。
そこには浮き輪の穴から上半身を出して輪を掴み、ウキウキで隆二郎に向かってポーズを取る、水着姿の凛音の姿があった。
スラリとした健康的な両足から潤いのある二の腕まで露出し、まるで水着撮影会のようにあられもない姿で清純派な笑顔を浮かべる凛音。室内であまりに刺激的かつ衝撃的な光景が披露される現場に出くわした黒江は思わず鳥肌が立ち、眉間に皴を寄せてしまった。
厄災当時は高校一年生だったとはいえ、あれから26年が経過している。現在の年齢を考えると我が娘とはいえ、意味不明かつあまりに大胆な行動だった。
母娘だけあり、黒江に似て艶やかな黒髪にほんのり大人の魅力を感じさせる大和撫子という文言が似合う外見をした凛音。
巫女の家系に生まれたお淑やかな要素はこの場で影を潜めているが、隆二郎は普段見ることの出来ない嫁の水着姿を鑑賞できて、ご満悦な様相であった。
「あら、お母さん。久しぶりにプールでも行こうかなって隆二郎さんと話をしていたのよ。体調不良で着る機会のなかった水着もあることだし!」
「全く話が見えないわね……今は十二月、もうすぐクリスマスになるのよ。水着でプールに行くような時期じゃないでしょうよ。それに、夏に泳ぎに行かなかったのは甘い物を食べ過ぎて太ったって騒いでたことが原因だったと記憶してるけど」
「お母さん酷いっ!! 私は誰に見せても恥ずかしくないセクシーキュートな体型をしてるのにっ!! 隆二郎さん……お母さんが私を傷つける、助けてぇ……」
(どういうことなのかしら……近頃はコスプレをするのが流行ってるのかしら?)
普段とは違うハイテンションな凛音の姿に混乱する黒江。
決して水着はコスプレではないが、肌を晒すこと自体珍しい凛音の水着姿は新鮮そのものだった。
黒江の言動がぐさりと心に刺さった凛音は隆二郎の胸の中で慰められ、落ち着くまでに数分の時を要した。
「つまり……今度開催される冬季オリンピックの報道を見ていたら、スケートリンクに滑りたくなったけど、今の時期は人が多すぎて目立つから、温水プールでまったり泳ぎたくなったと?」
「そういうことなの、お母さん。やっと理解してくれたみたいね」
「今の凛音を見て普通はそこまで想像できないでしょう……錯乱したか洗脳されたかのどちらかだと思うわ」
「お母さん……言っておくけど、私は素面よ!」
得意げな表情を見せて胸を張る凛音。
一方、黒江は無駄話を聞かされて頭を抱えていた。
水着のままこたつに入って寛ごうとする凛音は黒江に風邪を引かないよう着替えるように促され、渋々普段着に着替えることになった。




