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第80話 灰は聖令に従わない

 東水路の底から戻った時、ベルディアの空は赤く染まっていた。


 迷宮都市の夕暮れは騒がしい。

 迷宮から戻る冒険者。

 荷を畳む商人。

 学院へ帰る生徒たち。

 酒場へ向かう荒くれ者たち。


 だが、その日の南東区画には、いつもと違う緊張があった。


 ギルドの封鎖札を持った職員が走る。

 門番隊が旧水路へ兵を置く。

 証拠封印班が青い封印箱を抱え、決して揺らさないよう慎重に馬車へ運ぶ。

 リンド商会の使いが複数の写しを受け取り、別々の道へ散っていく。


 王冠印。


 灰核抽出。


 帰還儀素材。


 その言葉は、まだ一般の街人には知らされていない。


 だが、何か大きなものが暴かれたことだけは、街の空気が先に理解していた。


 ギルド本部に戻ると、レオナはすぐ地下記録室を封鎖した。


 王都側は大会議室へ通された。

 ベルディア側の記録官たちは、東水路の証拠写しを三系統に分けて封印している。


 透は会議室の窓際に立っていた。


 腰には灰骸刀(かいがいとう)

 鞘の中で、刀は静かだ。


 だが、完全に眠ってはいない。


 東水路で喰った王冠印の残滓。

 改造保守石人形の命令。

 中継印の赤黒い自壊線。


 それらが、刃の奥で灰になって沈んでいる。


 手を置けばわかる。


 灰骸刀は、少しずつ王冠印の味を覚えている。


 リィンが隣に来た。


「刃、重い?」


「少し」


「嫌な重さ?」


「違う。沈んだ感じだ」


「なら、喰えてる」


 透は頷いた。


 リィンは腰の封印針を確かめる。

 東水路の証拠面を残すため、彼女はまだ細い青線を三本維持していた。


 疲れはあるはずだ。


 だが、彼女の立ち方は崩れない。


 その背後では、ルカが椅子に座って水を飲んでいる。

 小型灰印を胸元に握ったまま、何度も自分の呼吸を整えていた。


 透は振り返る。


「ルカ」


「うん」


「怖かったか」


 ルカは少し考えた。


「怖かった。でも、道は見えた」


「ならいい」


「うん」


 バルザが壁際で腕を組み、低く笑った。


「子どもを殺せなんて命じた連中だ。次はこっちから牙を立てる番だな」


 セイルが顔を青くする。


「王冠印の上位者が本当に神殿内部なら、反撃も早いはずです。記録が王都へ着く前に、こちらへ圧力をかけてくる可能性が高い」


 シェラが淡々と告げる。


「想定。証拠押収要求、現場管轄主張、灰喰い身柄保全、封印師リィン拘束、古代保守機兵所有権請求」


 バルザが鼻を鳴らす。


「欲張りな連中だ」


「予測です」


「当たりそうだから腹が立つ」


 会議室の反対側では、王都組が重い沈黙の中にいた。


 相良迅は椅子に座ったまま、聖剣の柄を見つめている。


 東水路で見た文字が、頭から離れない。


 灰核抽出。

 帰還儀素材。


 魔王を倒せば帰れる。


 そう聞かされてきた。

 そのために訓練してきた。

 勇者として立とうとしてきた。


 けれど、その帰還の裏側に、透を素材として扱う文字があった。


 もし、帰るために透を切り刻む必要があるのだとしたら。


 それを、勇者として許せるのか。


 答えは決まっているはずなのに、相良の胸は苦しい。


 帰りたい者たちの顔が浮かぶからだ。


 美琴。

 芽衣。

 真由。

 他のクラスメイト。

 自分自身。


 日本へ帰る道。


 それを盾にされた時、どこまで真っ直ぐ立てるのか。


 黒瀬真琴が隣の椅子に腰掛け、低く言った。


「相良、顔に出すぎ」


「……悪い」


「悪いとは言ってない。わかりやすいってだけ」


 真由が紙片を畳む。


「神殿は、帰還を交渉材料にする。いえ、交渉ではなく脅しに使う」


 美琴は布を巻いた手首を見た。


 腕輪の痕はまだ赤い。


「私たちが帰りたいと思うほど、篠宮君を追い詰める理由にされる」


 芽衣が震える声で言う。


「そんなの、嫌だよ……帰りたいけど、誰かを素材にするとか、そんなの」


 久世は黙っていた。


 東水路で、彼は石人形を止められなかった。

 透の灰牙閃(かいがせん)が、彼の前で王冠印ごと石人形を斬った。


 剣聖。


 その肩書きが、今はやけに重い。


 藤堂絵里香は不安そうにエルドを見ていた。


「神殿は、本当にそんなことするつもりなんですか」


 エルドは穏やかな表情を取り戻している。


「東水路の文字は、まだ解釈が定まっていません。灰核抽出という言葉も、象徴的な儀礼表現である可能性があります」


 真由が冷たく返す。


「なら、その儀礼表現の正式な意味をここで説明してください」


「秘儀に関わるため、軽々には」


「説明できないものを、信じろと?」


 エルドは微笑む。


「信頼とは、時に情報より先に置かれるものです」


 黒瀬が鼻で笑った。


「便利な言葉」


 その時、会議室の扉が強く叩かれた。


 レオナが入ってくる。


 その手には、白い封筒があった。


 封蝋には王国の紋章。

 その上から、神殿の聖印が重ねられている。


 部屋の空気が変わる。


 レオナは封筒を卓上に置いた。


「王都からの緊急魔鳥便だ。到着が早すぎる。こちらが東水路の証拠を送る前に、向こうが動いた」


 エルドの目が一瞬だけ細くなる。


 レオナは封を切り、文書を開く。


 読み進めるにつれ、彼女の表情が冷えていった。


「読み上げるぞ」


 会議室が静まる。


 レオナの声が響く。


「王国および神殿は、ベルディアに滞在する異界人シノミヤ・トオルを、奈落汚染および帰還儀関連重要対象として仮保全対象に指定する。本人の安全、勇者候補の帰還可能性、王国全体の安寧を鑑み、速やかに王都神殿監督官の管理下へ移すこと」


 美琴の顔が白くなる。


 相良が立ち上がった。


「そんな……」


 レオナはさらに読む。


「対象が拒否した場合、神殿監督官は現地騎士および勇者候補の協力を要請できる。対象の所持する灰系武装、古代刀、古代機兵、封印術者についても、必要に応じて一時保全する」


 バルザが低く唸った。


 シェラの右目が光る。


「予測一致」


 セイルは青ざめていた。


 リィンの指が封印針へ触れる。


 レオナは最後の行を読んだ。


「本件は王国非常時権限に基づく聖令(せいれい)であり、対象および関係者に拒否権はない」


 拒否権はない。


 その言葉が、また部屋に落ちた。


 だが、今度の空気は門前とは違った。


 あの時は、王都側の多くが驚き、戸惑っていた。

 今は、東水路の文字を見た後だ。


 灰核抽出。

 帰還儀素材。

 ルカ殺害指示。

 リィン殺害命令。


 それを見た後で、この聖令が届いた。


 意味は明白だった。


 王国と神殿は、透を人として見ていない。


 必要なものとして見ている。


 持ち帰り、保全し、必要なら抽出する対象として。


 エルドがゆっくり立ち上がった。


「聖令が下りました。ギルド長、協力を」


 レオナは文書を卓上へ置いた。


「断る」


 即答だった。


 エルドの目が冷たくなる。


「王国非常時権限です」


「ベルディア冒険者ギルドは、犯罪証拠の隠滅に関わる可能性がある命令には従わない」


「これは犯罪ではなく、国家の安全保障です」


「便利な言葉だな」


 レオナの声も冷たい。


「東水路で見つかった灰核抽出の文字への説明もないまま、対象を王都へ移せと? 笑わせるな」


 ベリオが立ち上がり、聖杖に手をかけた。


「聖令に逆らうというのか」


 ダグラスが椅子から立つ。


「抜くなら外でやれ。いや、外でも困るか」


 バルザが牙を見せた。


「俺はここでもいいぞ」


 王都の護衛騎士たちが緊張する。


 相良は立ち尽くしていた。


 聖令。


 王国と神殿の正式命令。

 勇者候補の協力を要請できる、と書かれていた。


 つまり、自分たちにも命令が来ている。


 透を連れていくために。


 相良は聖剣の柄に手を置いた。


 だが、抜かない。


 エルドが相良を見る。


「勇者様。ご協力を」


 部屋中の視線が相良へ向いた。


 久世も、速水も、藤堂も、姫野も、美琴も、真由も、黒瀬も、芽衣も。


 相良は息を吸った。


 声が震えそうになる。


 それでも言った。


「できません」


 エルドの表情が止まる。


「何と?」


「篠宮を、無理やり連れていくことには協力できません」


 エルドの声が低くなる。


「勇者様。これはあなた方の帰還にも関わる可能性がある」


「だからこそです」


 相良は透を見た。


 透は何も言わない。


 ただ見ている。


 相良は続ける。


「俺たちが帰るために篠宮が必要なら、頼むべきです。条件を話すべきです。命令して、縛って、素材みたいに扱っていい理由にはならない」


 美琴が小さく息を吐いた。


 真由は目を伏せず、相良を見ている。


 黒瀬が少しだけ笑った。


「やっと勇者っぽいね」


 久世は椅子を蹴るように立ち上がった。


「相良、お前……本気で王国に逆らうのか」


「逆らいたいわけじゃない」


「同じだろ!」


 久世の声には苛立ちと焦りが混じっていた。


「帰れなくなるかもしれないんだぞ! 俺たちはこっちに呼ばれて、魔王だの災厄だの背負わされて、帰るためにやってきたんだろ! 篠宮が必要なら――」


 久世は言葉を止めた。


 必要なら。


 その先に続く言葉を、自分でも言えなかった。


 無理やり連れていくのか。

 縛るのか。

 素材にするのか。


 それを言えば、自分は神殿と同じ場所に立つ。


 透は久世を見た。


「言えよ」


 久世の喉が鳴る。


「俺たちが帰るためなら、俺を差し出せって」


「……違う」


「なら何だ」


 透の声は冷たい。


 久世は拳を握る。


「俺は……」


 言葉が出ない。


 速水も黙っていた。

 藤堂は泣きそうな顔で視線を揺らしている。

 姫野は両手を握りしめ、聖女の白い光を出すこともできない。

 芽衣は小さく首を横に振った。


「嫌だよ……そんな帰り方」


 その声は小さい。


 けれど、部屋に響いた。


 エルドの顔から、穏やかさが消えた。


「感情に流される者ばかりですか」


 透が動いた。


 一歩。


 ただ一歩、卓へ近づく。


 灰が足元から広がる。


 灰域(かいいき)


 会議室の床に残った古い魔力の擦れ、証拠箱から漏れた王冠印の残滓、聖令の封蝋に込められた神殿の魔力。

 それらが、灰色に沈む。


 エルドの手元の聖令が、わずかに震えた。


 透は卓の上の文書を見下ろす。


「これが命令か」


 レオナは黙っている。


 エルドが言う。


「そうです。王国と神殿の正式な聖令です。あなたには従う義務が――」


 透の指が、文書の端に触れた。


 灰が走る。


 紙は燃えない。

 文字も消えない。

 王国印も、神殿印も残る。


 ただ、文書に込められていた強制命令の魔力だけが、灰になって剥がれ落ちた。


 聖令は、ただの紙になった。


 エルドの目が見開かれる。


「何を……!」


「命令を抜いた」


 透は文書を持ち上げる。


 王国紋も神殿印も残っている。

 内容も読める。


 だが、読む者に従属圧をかける聖令の魔力はもうない。


 シェラが記録する。


「聖令文書、物理保存。強制従属魔力、消失。証拠性、維持」


 真由が息を呑む。


「聖令そのものにも、従わせる術式が込められていた……?」


 リィンが頷く。


「読んだ人の判断を少し押す線。弱いけど、多い」


 美琴は顔を青ざめさせた。


「だから、あんなに……」


 セイルが震えながら言う。


「聖令には、従属補助の儀礼魔力が込められることがあります。通常は忠誠確認の範囲ですが、この文書は……強すぎます」


 エルドが叫ぶ。


「貴様!」


 その声から、ついに仮面が剥がれた。


 武装神官ベリオが聖杖を抜く。


 王都護衛騎士も剣に手をかける。


 しかし、その瞬間。


 透の灰瞬壁(かいしゅんへき)が、会議室の全員の間に立った。


 一枚ではない。


 薄い灰の壁が、神官と騎士の前、透の仲間の前、王都組の前、証拠箱の前に、正確に現れる。


 攻撃ではない。


 だが、誰がどこへ動けば止められるかを、最初から決めている配置だった。


 ベリオの聖杖から出かけた白い拘束光は、灰瞬壁に当たり、床へ逸れた。

 護衛騎士の剣は、抜きかけた瞬間に灰糸で柄を絡め取られた。

 エルドの指輪に灯った小さな光は、リィンの青い針に空中で縫い止められた。


 速かった。


 誰も、一歩目を完了できなかった。


 透は聖令の紙を卓に戻した。


「もう一度言う」


 声は静かだった。


 けれど、会議室の空気が震える。


「俺を縛るなら、来い(・・)


 灰が、床を薄く覆う。


「リィンを奪うなら、来い(・・)


 青い針が、透の隣で光る。


「シェラを所有物と言うなら、来い(・・)


 シェラの右目が青白く輝く。


「ルカに手を伸ばすなら、来い(・・)


 ルカが胸元の灰印を握りしめる。


 透の目が、神官たちを射抜いた。


「ただし、次は警告で済ませない」


 ベリオの額に汗が浮いた。


 エルドの喉が鳴る。


 その場にいた王都の者たちも、ベルディアの者たちも、理解した。


 透は今、会議室全体を制圧している。


 剣を抜かずに。

 怒鳴らずに。

 誰も傷つけずに。


 それでも、誰かが一歩でも踏み出せば、次の瞬間には骨が砕かれる。


 いや、骨だけで済むかもわからない。


 灰は、すでに全員の足元にある。


 相良は動けなかった。


 怖い。


 そう思った。


 だが、その怖さは、敵を見る恐怖とは違った。


 自分が今まで従ってきた王国や神殿の言葉よりも、目の前の灰色の少年の線引きの方が、はるかに明確だったからだ。


 奪うな。

 縛るな。

 素材にするな。

 仲間へ手を出すな。


 越えれば、灰が来る。


 それだけ。


 レオナが静かに口を開いた。


「ベリオ、杖を下ろせ。エルド、指輪を外せ。護衛騎士も剣から手を離せ。ここはベルディア冒険者ギルドだ。聖令の名で暴れるなら、王都への報告文にそのまま書く」


 ベリオは歯を食いしばった。


 だが、杖を下ろした。


 護衛騎士たちも、ゆっくり剣から手を離す。


 エルドだけは、しばらく透を睨んでいた。


 やがて、指輪を外して卓へ置く。


 リィンの青い針が、その上で静かに止まったままだった。


 透は灰瞬壁を消した。


 だが、灰域(かいいき)は残す。


 床の下に薄く沈めたまま。


 レオナは聖令の紙を封印箱へ入れた。


「この文書も証拠品として保管する。強制従属魔力が込められていたことも記録済みだ」


 エルドが低く言う。


「王都は黙っていません」


「黙らなくていい」


 レオナは冷たく返した。


「こっちも黙らない」


 その時、美琴が立ち上がった。


 顔色はまだ悪い。

 それでも、彼女は自分の足で立った。


「私も証言します」


 エルドの目が動く。


 美琴は手首の布を見せた。


「監視封環で、篠宮君に関する発言を制限されていたこと。禁書庫で見た改竄記録のこと。聖令の魔力で判断が押された感覚があったこと。全部、証言します」


 真由も立つ。


「私も。帰還儀の説明に不備があること、聖令の従属魔力、東水路の灰核抽出文字。記録として整理します」


 黒瀬が肩をすくめながら立った。


「じゃあ、私も。禁書庫に入ったのは認めるよ。その代わり、見たものも全部話す」


 芽衣も、震えながら手を上げた。


「私も……腕輪の痛みと、リィンさんが見せた線のこと、薬師として見た範囲で書きます」


 相良も立った。


 聖剣を抜かずに。


「俺も証言します。神官監督官が拒否権はないと言ったこと。聖令で協力を求められたこと。東水路で見た文字のこと」


 久世は椅子に座ったまま、歯を食いしばっていた。


 速水も、藤堂も、姫野も沈黙している。


 だが、部屋の空気はもう変わっていた。


 王都組全員が透側についたわけではない。


 それでも、一部が明確に神殿の言葉から離れた。


 エルドの顔は冷たかった。


「あなた方は、自分が何をしているかわかっているのですか」


 黒瀬が笑った。


「さっきからそれ、神官の決まり文句?」


 エルドは答えない。


 透は美琴たちを見た。


 礼は言わない。

 受け入れるとも言わない。


 ただ、彼らが自分の足で立ったことだけを確認した。


 レオナが手を叩く。


「証言室を三つ開けろ。王都組の証言は別々に取る。互いに内容を合わせる時間は与えない。記録官を二名ずつつけろ。シェラ、全体記録」


「了解」


 ギルド職員たちが動き出す。


 会議室の空気が、実務へ切り替わる。


 透は窓の外を見た。


 ベルディアの街には、夜の灯りが増えている。


 その向こう、遠く王都へ続く街道がある。


 王国と神殿は、また来る。


 聖令が破られた。

 灰喰いが従わなかった。

 勇者候補の一部が証言に回った。


 向こうは、これを許さない。


 だが、透の中に迷いはなかった。


 奈落に落とされた時、彼には何もなかった。


 今は違う。


 灰置き場がある。

 水を分けた者たちがいる。

 リィンがいる。

 バルザがいる。

 シェラがいる。

 セイルがいる。

 ルカがいる。

 ベルディアで救った者たちがいる。


 そして、王国の言葉に疑いを持ち始めた者たちもいる。


 透は灰骸刀の柄に手を置いた。


 王冠印の味を覚えた刃が、鞘の奥で静かに沈んでいる。


 次に来る命令は、もっと強いだろう。


 騎士団か。

 神殿兵か。

 王都の上位術者か。

 あるいは、勇者の名そのものか。


 透は窓の外へ向けて、低く呟いた。


「来ればいい」


 誰に聞かせるでもない声。


 だが、リィンだけは隣で聞いていた。


「斬る?」


「必要なら」


「残すものは?」


「証拠。道。帰る場所」


 リィンは頷いた。


「それ以外は?」


 透の目が冷たくなる。


「灰にする」


 夜のベルディアに、ギルドの鐘が鳴った。


 それは事件発生の鐘ではない。


 証言保全と緊急封鎖を告げる鐘。


 灰色の少年は、王国の聖令を紙に戻した。

 その事実は、すぐに街中へ広がる。


 そして、さらに遠くへ走る。


 灰は、命令に従わない。


 灰は、捨てられた者の側に立つ。


 その噂が、夜風に乗ってベルディアの外へ流れ始めていた。


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