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第79話 東水路の底

 訓練場の石壁に残った斬痕は、しばらく誰も近づかなかった。


 灰牙閃(かいがせん)が刻んだ斜めの裂け目。

 強化術式を喰われ、石そのものまで深く斬られた跡。


 それは、ただの試し斬りではなかった。


 王都から来た者たちにとっては、答えだった。


 篠宮透の力は、防御や補助だけではない。

 彼の刀は、攻撃できる。

 斬れる。

 喰える。

 届く。


 そして、必要なら人にも向く。


 久世蓮司は、訓練場の壁から目を離せずにいた。


 剣聖としての自負が、さっきから胸の中で軋んでいる。

 速さなら。

 技なら。

 純粋な剣なら。


 そう思おうとするたびに、石壁の斬痕が視界に入る。


 あの灰の斬撃を、自分は避けられるのか。

 防げるのか。

 斬り返せるのか。


 答えは出ない。


 出ないこと自体が、答えに近かった。


 透はすでに訓練場の中央から離れ、レオナと話していた。


「東水路下へ行く」


 レオナは眉をひそめる。


「今からか」


「あいつらが吐いた。向こうも動く」


「証拠の複製は?」


「シェラが終えた。リィンが印を保ってる。遅らせる理由はない」


 リィンは封印箱の前で、青い針を三本浮かせていた。

 箱の中には、刺客たちの王冠印から抜いた証言封じの線が残されている。

 青い封印線はそれを壊さず、しかし自壊もさせずに保っていた。


 証拠封印班の職員は、その手元を見ながら汗を浮かべている。


「リィンさん、この状態で移動できますか」


「できる。揺らさないで」


「は、はい」


 リィンは透へ視線を向けた。


「東水路にも、似た線があると思う」


「わかった」


「先に私が浮かせる。トオルは芯」


「ああ」


 短い確認。


 王都側の騎士たちは、そのやり取りを聞いていた。


 誰も、リィンが透を止めるとは思わなかった。

 誰も、透がリィンの許可を待っているとは見なかった。


 役割が違うだけだ。


 青い針が線を浮かせ、灰の刃が芯を喰う。

 それを、彼らはもう何度も見せられている。


 レオナは少し考え、すぐに決断した。


「いい。東水路へ向かう。ベルディア側は私、ダグラス、門番隊四、証拠班二、メリザ、アルマ。透たちは全員同行。王都側は……」


 彼女の目がエルドへ向く。


「見たいなら来い。ただし、現場指揮は私が取る。証拠品へ触るな。勝手な聖浄も禁止。違反すれば拘束する」


 エルドは穏やかな顔を作った。


「現地確認が任務ですので、同行します」


 その声に、訓練場の何人かが冷たい視線を向ける。


 エルドは気づかないふりをした。


 相良が一歩前へ出る。


「俺も行きます」


 久世も続いた。


「俺もだ」


 真由、美琴、黒瀬、芽衣も同行を申し出た。

 藤堂と姫野は一瞬迷ったが、王都側だけ宿に残るわけにもいかず、結局ついてくることになった。


 レオナは全員を見回した。


「足手まといになるなら、即座に下がらせる」


 久世が眉を上げる。


「こっちは勇者訓練隊だぞ」


「だから何だ」


 レオナの声は平坦だった。


「ベルディアでは、肩書きより現場の足が先だ。動ける者は使う。動けない者は下げる。以上だ」


 久世は言い返せなかった。


 透は王都組を一度だけ見た。


「東水路では、俺の後ろに立つな」


 速水が顔をしかめる。


「何でだよ」


「灰が走る」


 透の答えは短い。


「俺の前へ勝手に出るな。リィンの針に触るな。ルカへ近づくものがあれば、敵味方を見る前に止める」


 美琴の肩が揺れた。


 その言葉は、優しさではない。

 警告だ。


 仲間を守るためなら、王都側の誰であっても止める。


 速水は笑おうとして失敗した。


「……怖いこと言うなよ」


 バルザが牙を見せる。


「怖いだけで済むうちは親切だ」


 誰も笑わなかった。


 東水路は、ベルディアの南東区画のさらに下にあった。


 表通りから外れ、古い市場の裏を抜け、使われなくなった井戸のような縦穴へ降りる。

 そこから続く石段は狭く、湿っていた。

 壁には苔が張りつき、ところどころに古い水位線が残っている。


 ルカは階段を下りながら、胸元の小型灰印を握っていた。


「ここ、道が重い」


 透が聞く。


「戻れない感じか」


「ううん。戻れる。でも、誰かが戻る道を薄くしてる」


 レオナの表情が険しくなる。


「迷わせる術式か」


 リィンが壁を見た。


「道の記憶を削ってる。足跡じゃなくて、戻ろうとする気持ちを鈍くする線」


 真由が小さく息を呑む。


「心理誘導まであるの……?」


 芽衣は腕をさすった。


「嫌な感じがする」


 透は足元へ灰域(かいいき)を細く沈めた。


 水路に残る古い汚泥。

 錆びた鉄片。

 剥がれた札の紙片。

 干からびた小動物の骨。

 死んだ魔力の沈殿。


 それらが、透の意識に浮かぶ。


 この水路は、ただの隠し道ではない。


 何度も人が通った。

 何度も荷が通った。

 何度も戻らない足音を飲んだ。


 そして、奥に中継印がある。


 王冠の底が欠けた印。


 灰域の奥で、それが濁った光のように揺れた。


「近い」


 透が言うと、隊列全体が止まった。


 レオナが手を上げる。


「ここから先は密集するな。前衛、透、バルザ、ダグラス。リィンと証拠班は中央。王都側はその後ろ。相良、久世、勝手に飛び出すな」


 久世は不満げに口を開きかけたが、相良が先に頷いた。


「わかりました」


 その返事を聞いて、久世は黙った。


 通路の先は広い水路室だった。


 かつて水量を調整するための場所だったのだろう。

 中央に大きな円形の石盤があり、周囲には四本の排水路が口を開けている。

 天井からは鎖が垂れ、床は薄く水に濡れている。


 そして、石盤の中央に印があった。


 王冠。


 底が欠けている。


 剣杯、黒鞭、旧水門、黒札区域。

 そこで見た残滓よりも、はっきりしていた。


 中継印。


 ここから命令が流れ、ここから人が送られ、ここで証拠が薄められていた。


 エルドの顔が一瞬だけ強張る。


 真由はそれを見た。


「やっぱり見覚えがあるんですね」


 エルドは答えない。


 レオナが低く言う。


「証拠班、写しを取れ。リィン、印を壊さず止められるか」


 リィンは石盤の前へ歩いた。


 青い針を一本、印の外周へ投げる。

 二本目を、排水路の口へ。

 三本目を、天井から垂れる鎖の先へ。


 青い線が結ばれる。


 その瞬間、石盤の王冠印が赤黒く脈打った。


 水路室の床が鳴る。


 周囲の排水路から、泥が盛り上がった。


 泥ではない。


 腐った水と骨片と黒い札が混じった、人型。


 四体。


 さらに奥の排水路から、鎧を着た石人形が二体。


 迷宮の古い保守人形に、王冠印の命令をかぶせたものだ。


 シェラが即座に告げる。


「敵性反応六。泥骨人形四、改造保守石人形二。中継印自衛機構起動」


 ダグラスが剣を抜く。


「ようやく仕事か」


 バルザが前へ出る。


「左の泥は俺が潰す」


 透は灰骸刀(かいがいとう)の柄へ手を置いた。


「石人形は俺がやる。リィン、印を離すな」


「離さない」


 リィンは短く答え、針の角度を変える。


 王冠印が自壊しようとする。

 それを青い線が外側から縫い止める。


 同時に、泥骨人形の一体がリィンへ飛びかかった。


 久世が反射的に前へ出ようとした。


 だが、その前にバルザが動いた。


 獣人の腕が泥骨人形の頭部を掴む。

 壁へ叩きつける。

 骨が砕け、泥が飛び散る。


 泥の中から黒い札が再生しようとした瞬間、透の灰糸(かいし)が伸びた。


 札の再生命令だけを喰う。


 泥骨人形は、ただの汚泥になって崩れた。


「右、来る!」


 アルマの声。


 右側の排水路から出た泥骨人形が、証拠班へ向かう。


 アルマが前へ滑り込み、剣の腹で腕を弾く。

 斬らない。

 泥を散らせば札が逃げると見たのだ。


 ダグラスが横から剣を叩きつけ、泥骨人形を床へ押さえる。


「嬢ちゃん、札!」


「首の奥です!」


 アルマが示す。


 透の灰糸が走り、札を喰う。


 泥骨人形が崩れる。


 王都側は、ほとんど動けなかった。


 相良は聖剣を構え、機会を探している。

 久世は剣を抜いたまま、踏み込む間合いを見失っている。

 泥を斬れば再生札が散る。

 石人形を斬れば中継印の自壊が進むかもしれない。


 何を斬ればいいのかわからない。


 剣聖なのに。


 それが、久世の足を縛った。


 その時、改造保守石人形の一体が動いた。


 王冠印が胸部に刻まれている。

 両腕は岩の槌。

 背中には古い水門制御の板が埋め込まれていた。


 石人形が腕を振る。


 壁が砕け、破片が飛ぶ。


 透は前へ出た。


 灰骸刀(かいがいとう)を抜く。


 灰の刃が伸びる。


灰刃延(かいじんえん)


 刃先が半尺、さらに伸びた。


 石人形の槌腕が振り下ろされる。


 透はそれを受けない。


 灰瞬壁(かいしゅんへき)を斜めに置き、腕の軌道をずらす。

 同時に内側へ踏み込み、灰骸刀を胸の王冠印へ走らせた。


 刃は石を浅く斬っただけに見える。


 だが、灰が印の内側へ入った。


 王冠印の命令が、刃に喰われる。


 石人形の動きが鈍る。


 透は二撃目を腰の水門制御板へ入れた。


灰断刃(かいだんじん)


 古い制御命令が灰になる。


 三撃目。


 首の奥の動作芯を斬る。


 石人形は崩れた。


 力任せの破壊ではない。

 必要な場所を斬り、命令を喰い、構造を殺す。


 もう一体の石人形が背中の板を開いた。


 中から黒い針が連射される。


 標的は、リィン。


 相良がようやく動いた。


 聖剣の光を広げ、リィンの前へ立つ。


「させるか!」


 白い光が黒針を弾く。


 一本、二本、三本。


 だが、四本目が光の隙間を抜ける。


 リィンは針から手を離せない。


 美琴が息を呑む。


 透は振り返らなかった。


 灰が動いた。


 リィンの左肩の前に、薄い灰瞬壁(かいしゅんへき)が一枚。

 黒針はそれに当たり、軌道を変え、床へ刺さった。


 相良の目が見開かれる。


 自分の防御を抜けた針を、透は見もせずに逸らした。


 灰域で見えている。


 戦場全体を。


 透は石人形へ向き直る。


 その胸の王冠印が強く光る。


 石人形がリィンではなく、ルカへ向いた。


 水路室の後方。

 アルマの横にいるルカ。

 胸元の灰印。


 狙いはそこ。


 透の目が冷えた。


「やめろ」


 石人形が跳んだ。


 重い体が水を蹴り、後方へ突進する。


 久世が反射的に動いた。


 今度は斬れる。

 石人形の横腹へ剣を振る。


 だが、剣は石の表面を削っただけだった。


 王冠印の命令が、石人形を無理やり前へ進ませる。


「くそっ!」


 久世が押される。


 その背後にルカがいる。


 アルマがルカの前へ立つ。

 バルザは左で泥骨人形を潰している。

 相良は聖剣の光を戻そうとするが、一拍遅れる。


 透が動いた。


 水路室の床が、灰色に沈む。


 灰域(かいいき)が深く広がる。


 石人形の足元に、死んだ水路の沈殿が灰となって巻きついた。

 動きが一瞬止まる。


 透は、灰骸刀を鞘へ半ば戻した。


 半抜きの刃に、灰が圧縮される。


 久世はその構えを見て、血の気が引いた。


 さっき見た。


 壁を斬った遠距離斬撃。


「下がれ」


 透の声。


 久世は反射的に横へ飛んだ。


灰牙閃(かいがせん)


 灰の斬撃が走った。


 空気が裂ける。


 斬撃は石人形の腕を通り、胸の王冠印を喰い、背中の制御板まで抜けた。


 石人形の上半身が斜めにずれる。


 だが、ルカへ飛ぶ破片はない。


 斬撃の後を追うように灰糸(かいし)が広がり、砕けた石片の勢いを殺していた。


 石人形は、ルカの三歩手前で崩れ落ちた。


 ルカは胸元の灰印を握ったまま、透を見た。


「大丈夫」


 透は短く言った。


 それは質問ではない。

 確認でもない。


 そこにいるものを守ると決めた者の声だった。


 ルカは頷いた。


「大丈夫」


 透は視線を石人形の残骸へ戻す。


 灰骸刀の刃には、王冠印の赤黒い残滓が絡みついていた。


 刃が、それをゆっくり喰う。


 刀身の灰がまた少し濃くなる。


 灰骸刀(かいがいとう)は、王冠印の命令を覚え始めている。


 リィンが声を上げた。


「印、浮いた」


 中央石盤の王冠印が、青い線によって表面へ持ち上げられていた。


 その下に、別の印がある。


 古い神殿文字。

 白い部屋。

 東水路。

 剣杯支店を経由しない搬送命令。


 そして、ひときわ細い行。


 ――灰番個体確認時、拘束優先。不可の場合、帰還儀素材として灰核抽出を検討。


 セイルが読んだ瞬間、声が震えた。


「灰核……抽出……」


 美琴の顔が白くなる。


「何、それ」


 セイルは唇を噛む。


「灰の力を、本人から取り出すという意味です。生きたままか、死後かは……この文だけでは」


 エルドが鋭く言う。


「誤読です」


 シェラが即座に記録する。


「文字照合。灰番個体、灰核抽出、帰還儀素材。読解一致率九十一パーセント」


 真由がエルドを見た。


「これでも、誤読ですか」


 エルドは答えない。


 相良は聖剣を握りしめていた。


「帰還儀のために……篠宮を、素材に?」


 その声は掠れていた。


 久世も、何も言えなかった。


 帰るために透が必要。


 その意味が、さらに悪い形で目の前に出た。


 頼むのではない。

 協力を求めるのでもない。


 拘束。

 抽出。

 素材。


 それが神殿の文字として、東水路の底に残っている。


 透は石盤の前へ歩いた。


 灰骸刀(かいがいとう)を握ったまま、王冠印を見下ろす。


 灰が足元から広がる。


 王冠印の赤黒い光が、透の灰に触れて震えた。


 エルドが言う。


「待ちなさい。その印は重要証拠です。破壊しては――」


「壊さない」


 透は言った。


 リィンが青い針を構える。


「下の文字、残す。上の命令だけ浮かせる」


「ああ」


 青い線が王冠印の上部を縫う。


 透の灰骸刀が、浮いた命令へ向かう。


灰断刃(かいだんじん)


 刃が王冠印の命令だけを斬った。


 赤黒い光が灰になる。


 しかし、下の文字は残る。


 証拠として、はっきりと。


 ギルド証拠班が慌てて写しを取り始める。


 レオナの顔は、これまでで最も険しかった。


「これは、王都中央ギルドだけでは足りない。辺境監察、リンド商会、学院、門番隊、全部に写しを回す。王国貴族院にも、別口で飛ばす」


 エルドが声を低くする。


「それは王都への反逆行為と受け取られかねません」


 透がエルドを見る。


「受け取らせろ」


 水路室が静まる。


「俺を素材と書いた連中に、遠慮する理由はない」


 その声は静かだった。


 怒鳴らない。

 だが、冷たい。


「帰還儀に灰が必要なら、取引の余地はある。帰りたい奴がいるのも知ってる」


 美琴と芽衣が顔を上げる。


 透は続けた。


「だが、俺を縛る。リィンを殺す。ルカを狙う。灰核を抽出する」


 灰骸刀の刃が、かすかに鳴った。


「そこから先は、交渉じゃない」


 透の目が、エルドを射抜く。


()だ」


 誰も息をしなかった。


 その一文字は、あまりに重かった。


 王都側の神官も。

 護衛騎士も。

 勇者訓練隊も。


 全員が理解した。


 透は、まだ王都組全員を敵とは言っていない。

 帰りたい者を否定もしていない。


 だが、線を引いた。


 仲間へ手を伸ばす者。

 透を素材として扱う者。

 捨てた後で所有を主張する者。


 それは、敵だ。


 その線を越えれば、灰は容赦しない。


 レオナが低く言った。


「中継印の処理を終えたら、撤収する。ここは閉鎖。王都側も記録したな」


 真由が頷く。


「はい」


 シェラも答える。


「記録複製済み」


 リィンは封印針を回収し、石盤の下の文字をもう一度見た。


「嫌な文字」


「残せるか」


「残す」


 彼女は短く言い、青い線で証拠面を保った。


 久世は水路室の隅で、崩れた石人形の残骸を見ていた。


 自分の剣が、ほとんど通じなかった相手。

 透の灰牙閃(かいがせん)が、命令ごと斬り落とした相手。


 剣聖の力が弱いわけではない。


 地上基準では、久世は間違いなく強い。

 王都騎士にも認められ、魔物との訓練でも成果を出している。


 だが、ここでは足りなかった。


 奈落から戻った篠宮透の戦場では、ただ速く斬るだけでは足りない。


 何を斬るか。

 何を残すか。

 何を喰うか。


 そこが違う。


 久世は、初めて自分の剣を重く感じた。


 水路室から戻る時、ルカが透の横を歩いた。


「トオル」


「何だ」


「あの人たち、また来る?」


「来るかもしれない」


「じゃあ、道を覚える」


「ああ」


 ルカは胸元の灰印を握る。


「帰る道、消されないようにする」


 透は少しだけ視線を下げた。


「頼む」


 その言葉に、ルカは小さく頷いた。


 王都側の者たちは、そのやり取りを後ろから見ていた。


 子どもを守る灰色の少年。


 けれど、その少年は優しいだけではない。


 子どもを狙った敵の腕を砕き、膝を折り、死ぬ逃げ道すら奪う。

 自分を素材と書いた印を、証拠だけ残して命令ごと斬る。

 帰還を盾にされても、首を縦に振らない。


 その強さが、怖い。


 同時に、なぜか目を離せない。


 美琴は、透の背中を見ながら思った。


 あの日、自分たちは彼を助けられなかった。


 今、彼は自分たちが帰るための鍵かもしれない。


 でも、その鍵はもう、誰かの手で回されるものではない。


 灰の主は、自分で立っている。


 そして、自分の場所へ帰る道を持っている。


 東水路の底から出た一団を、夕方のベルディアの風が迎えた。


 街の灯りが一つ、また一つと点いていく。


 だが、王都から来た者たちの胸には、地下で見た文字が焼きついていた。


 灰核抽出。


 帰還儀素材。


 王国と神殿が、どこまで灰を欲しているのか。


 その答えは、もう隠せなくなり始めていた。


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