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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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06:騎士隊の異例の新人くん

 


 騎士隊への入隊条件は幾つかあるが、まず第一に『十六歳以上』という決まりがある。

 その年齢に達すると入隊試験が受けられるようになるのだが、一度で受かる者はごくわずかだ。二年、三年かけて入隊する者が殆どで、中には十年越しにようやくという者もいる。

 唯一の例外が十四歳で入隊したベルナデッタ。入隊から既に二年経つが、今のベルナデッタはまだ十六歳、ゆえに後輩にも年下はいない。


「今の時期に新人ですか?」


 ベルナデッタが首を傾げながらアイザックに尋ねたのは、とある昼下がり。

 王宮施設内の巡回をしていたところアイザックに呼び止められ、来月に新人騎士が来るという話を聞いて先程の問いだ。


「今年入隊のひとたちは配属も終わったのに今になって新人なんて、よっぽどの事情ですかね?」


 と、誰よりもよっぽどの事情で入隊した身ながら疑問を抱く。

 そんなベルナデッタの隣を歩くアイザックもまた訝し気な顔をしていた。

 曰く、話を軽く聞いただけでまだ詳細を掴めていないらしい。考えを巡らせるように眉根を寄せている。


「俺もよく分からないんだけど、来るのは純騎士らしい。でも配属は純騎士の部隊じゃないって」

「純騎士なのに純騎士隊じゃないんですか?」

「あぁ、それも竜騎士隊(うち)獣騎士隊(そっち)の両方を兼任するらしい」

獣騎士(うち)と竜騎士隊? そんなことが有り得るんですか?」


 獣騎士は聖獣と共に戦う騎士の部隊、竜騎士隊は竜と共に戦う部隊。そして己の身だけで戦うのが純騎士。

 純騎士から獣騎士や竜騎士になる者もいればその逆もしかり。だが同時に二つの騎士隊に所属するという事例はいまだ一度として無い。


「獣騎士と竜騎士を兼任するってことでしょうか……? でも純騎士なんですよね。これから聖獣と竜の両方と命約か契約を結ぶとか?」

「いや、そういうわけでもないらしい。確か公爵家の三男だったはずだから、特別待遇……? なのか? な?」

「な?」

「俺も社交界の事はよく分からないんだよ。でも公爵家って凄いらしいから、よく分からない貴族の力が働いてるのかもしれない」


 アイザックも詳しく分からないようで口調は随分とあやふやだ。

 となれば当然、聞かされているベルナデッタも理解できるわけがなく疑問しかない。アイザック同様、むしろ彼より、ベルナデッタは社交界とは無縁の人生を送ってきたのだ。実のところ爵位の順番も頻繁に間違えてしまう。


「謎は深まるばかりですねぇ」


 ベルナデッタが首を傾げれば、アイザックもつられたのか首を傾げる。その様子にたまたま通りがかった周囲の者達もいったい何事かと首を傾げる。

 しばし疑問符だらけの光景となった。



 ◆◆◆



 そんなやりとりから一ヵ月後。ベルナデッタのもとに件の新人がやってきた。

 フィン・ラクスター。

 ラクスター公爵家の三男。年は今年で二十歳になるという。公爵家の出だけあり品の良さが窺える青年だ。

 薄水色の髪、青色の瞳。どことなく覇気がなく見えるのは緊張のせいか。

 元々剣の稽古はしていたと聞くが、線が細くあまり強そうには見えない。……もっとも、見た目だけならベルナデッタとてただの十六歳の少女で、とうてい強くは見えない外見なのだが。


「ご紹介に預かりました、フィン・ラクスターと申します。どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」

「ご指導……、ごべん……? ごべん??」


 ごべんとはなんぞや……? とベルナデッタが首を傾げた。頭上で虎柄の疑問符が浮かび上がっている気がする。

 そんなベルナデッタを見兼ねたのか、フィンを連れてきたヴァレールがコソリと耳打ちしてきた。


「これから色々教えてくださいって事だ」

「なるほど。任せてください! 指導はもちろん、完璧にごべんたってみせます!」

「……頼もしい限りだ。とりあえず、獣騎士隊の中ではベルナデッタがフィンに着いてやってくれ。竜騎士隊と同時に所属するらしいから、あっちも誰か世話係を出してくるだろ」

「分かりました。フィン君、よろしくお願いします。私はベルナデッタ、ベルナデッタ・ルルチェカです」


 ベルナデッタが立ち上がり、改めてフィンに挨拶を告げた。

 今までのやりとりを見ていたのだろう――耳打ちで話したとて距離的には丸聞こえなのだ――、彼は若干唖然としているものの、ベルナデッタが名乗ると改めるように背筋を正した。「よろしくお願いいたします!」という声は威勢が良く、まさに新人騎士だ。


「私のことはベルナデッタ先輩と呼んでください。くれぐれもベルちゃん先輩とは呼ばないように」

「呼ばれているんですか?」

「新人騎士の八割は一年経過すると私をベルちゃん先輩と呼びます」

「……残りの二割は」

「ベル先」


 不服、とベルナデッタの眉間に皺が寄る。

 だがそんなベルナデッタを後輩のはずの騎士達が「気にするなってベル先」と宥めるのだから酷い話ではないか。

 思わず「噛んじゃえロニア!」と己の聖獣をけしかけた。もっともロニアはガウと鳴くだけしかしてくれないが。


「とにかく、年下と言えども私は先輩なので、せめて二年間ぐらいはベルナデッタ先輩と呼んでください」


 若干の諦めを醸し出しつつも片手を差し出す。

 このやりとりにも唖然としていたフィンがはたと我に返り、「よ、よろしくお願いいたします……」と若干上擦った声で応えつつ、右手を差し出してきた。

 そうして握手を交わす……、


 と思いきや、ベルナデッタの手はスカンと空を掻いた。


 フィンの手が横から現れた別の手に取られてしまったのだ。

 誰の手か?

 いつの間にか居るアイザックの手である。


「アイザック様、どうしたんですか?」

「獣騎士隊と竜騎士隊を兼任する奴が来たって聞いたから挨拶がてら見に来たんだ。そうしたら二人が握手しようとしてたから、俺も握手したいなぁーって思って」

「そうだったんですね」


 わざわざ新人騎士に会いに来たうえに握手するとは、なんて友好的なのだろうか。さすがだと褒めれば、アイザックが嬉しそうに笑う。

 フィンの手を掴んだまま。

 その手を上下に振りながら。


「そういうわけで、俺と握手したからベルナデッタとの握手はしなくて良いよな」

「は、はい。アイザック様と握手を出来るなんて……、こ、光栄です……」

「そうかそうか、喜んでもらえて良かった!」


 明るい笑顔を浮かべたままアイザックがパッと手を放した。フィンもそろりそろりと手を引っ込める。

 唯一握手相手を失ったベルナデッタだけが手を中途半端に上げていた。下げ時を失ってしまったのだ。

 所在なさげな己の手を見つめ、そっとロニアの頭へと持っていった。柔らかな橙色の毛を撫でる。一連の流れを見ていたロニアはふんと鼻息を鳴らすも、大人しくベルナデッタの手を受け入れてくれた。


「フィン君、こちらはアイザック様。竜騎士隊の隊長で、始祖竜とも呼ばれているルスタールと契約を交わしている竜騎士です。アイザック様、こちらはフィン君。二年後も私をベルナデッタ先輩と呼んでくれていそうな貴重な後輩です」


 後輩たちへの恨みを若干込めつつベルナデッタが二人を紹介すれば、ーーその背後では他の騎士達が「ベルちゃん先輩って結構根に持つタイプだよな」「しっ、ベル先がこっち睨んでるぞ」と話しているのだがーー、それを受けてアイザックとフィンが改めるように挨拶を交わす。

 そうしてアイザックが「そういえば」と持っていた資料へと視線を落とした。


「新人騎士への挨拶ついでに、任務についてこれ決めてきてくれって言われてたんだった。そういうわけだから、ちょっとヴァレールと話しするからまた後でな」

「アイザック様、お仕事頑張ってくださいね」

「がんばるー。ベルナデッタも頑張ってな」


 ご機嫌なアイザックの返事に吊られて、ベルナデッタも「はい!」と気合いたっぷりに返した。

 そうしてヴァレールの元へと向かうアイザックを見送り、改めるようにフィンへと向き直った。ちょっと胸を張るのは先輩風を吹かす為である。ここではっきりと先輩らしさを出しておかねば。もちろん二年間のためである。


「ではフィン君、ベルナデッタ先輩が訓練場を案内してあげましょう」

「は、はい。よろしくお願いいたします……。ベルナデッタ先輩」


 ベルナデッタが得意げに告げ、詰め所の出口へと向かう。

「ベルちゃん先輩いってらっしゃい」という後輩達の声には無視を決め込んでおいた。



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