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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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48/52

48:断罪の場で

 


 広間に集められたのは、ベルナデッタ達をはじめとする二十人を超える重要な人物。

 なにせあれほどの騒動があったのだ。窮地こそ脱したものの、はいそれで終わりとはいかない。

 国の上層部、他国が関わっているため外交官、責任者……と、普段はお目に掛からない人物も多く集まっている。


 入室した途端、彼らの視線が一斉にベルナデッタ達へと向けられた。

 セルジュとヴァレールの表情に緊張の色が宿り始めたのは、並ぶ面々から圧を感じたからだろう。


 もっとも、ベルナデッタにはあまりに上層部過ぎて誰が誰なのかわからないのだが……。


「アイザック様、みんな凄い人たちなんですか?」


 コソリと隣に立つアイザックに問えば彼が頷いた。


「全員凄いやつらだ。まぁ俺の方が凄いけどな。なんて言ったって国宝なわけだし!」

「凄い人たちより凄いなんて、アイザック様は凄いですね!」

「そんな純粋に褒められると照れるな……。でも、そんな凄い俺の足をさっきからずっと踏んでるセルジュも凄いと思うんだ。わかった、黙る、黙るからもう足踏まないでくれ。こちとら怪我人だぞ」


 失礼なとアイザックが訴えるも、セルジュは冷ややかに睨みつけるだけだ。

 黙れという事なのだろう。ベルナデッタもそれに従い、もう喋らないという意思表示でパフと片手で口元を抑えておいた。


 だけど……、


「……フィン君」


 騎士達に連れられたフィンを見た瞬間は、さすがに彼の名前を口にしてしまった。

 見るからに顔色が悪く、たった数日の出来事だというのにやつれているようにさえ見える。

 項垂れながら広間に連れてこられた彼はベルナデッタの声に気づいたのかはっと跳ねるように顔を上げ、だが次の瞬間には眉根を寄せて苦し気に俯いてしまった。彼の表情が言葉にならない懺悔を訴えている。


 広間に連れてこられたのは、フィンの他にフリッツとその妻、二人の息子。

 そして最後にソラリス。

 幼い少女はすっかりと怯えており、不安そうに周囲を見回している。そこに以前に見た公爵家令嬢らしい品の良さや、聖獣や竜について語るときの子供らしい溌溂さも見られない。

 なんて痛々しいのだろうか。

 連行する騎士もさすがにソラリス相手には胸を痛めているようで、せめてと椅子を持ってこようとするが、ソラリス自身がそれを首を振って受け入れなかった。

 自分が処罰されることを理解し、そんな自分は椅子に座れる立場ではないと考えたのだ。それがさらに胸を痛める。



 そうして始まった言及の場は、責められていないベルナデッタでさえ息苦しさを覚えてしまうものだった。

 ラクスター家の企みを暴き、彼らが引き起こそうとしていた参事を嘘誇張なく話す。言葉遣いこそ丁寧ではあるが口調にはラクスター家への嫌悪や侮蔑が滲み出ており、どれほどの悪事だったのかが伝わってくる。

 言ってしまえば今回の件は始祖竜を使っての反逆なのだ。下手すれば争いの引き金になり、国家転覆の可能性だって有り得た。馬鹿な愚かなと誰もが思っているだろう。


 もとより青ざめていたフィンの顔がさらに血の気を失っていくあたり、ここまでの事態は想像していなかったのか。あるいは今になってようやく己のしでかした事の恐ろしさを実感したのか。


 そうしてひとしきり罪状を並べられ、発言を許可されるなりフィンがすぐに口を開いた。


「ぼ、僕が……、僕が悪いんです。すべて僕が行ったことで、だから、家族は……、ソラリスは無関係です!」


 開口一番に己の罪を晒し、ソラリスの無罪を訴える。

 これに便乗したのはフリッツ達だ。


「そうです。すべてはこいつが、愚息が仕組んだこと。突然家の名を使い騎士隊に入隊するなどと言い出して、我々は利用されていたんです!」

「僕達はただ、竜との命約を結べると聞いて、そ、それ以上のことは聞かされていませんでした。アイザック様のことも、あ、あのときは、ただ、目の前でひとが刺されたことに驚いて、アイザック様を助けるべきだったのに……」


 フィンに責任を押し付けようと考えたのか、フリッツや彼の息子達が好き勝手に喚きだした。

 あくまで今回の騒動はフィンが起こした愚行であり、自分達は巻き込まれたに過ぎない。手を貸してしまったが、まさかここまでの大事を企んでいたとは……。こんな大事になるとは思っていなかった……と。

 己の非を認めつつも、できるかぎり罪を軽くしようとする。なんて姑息なのだろうか。


「まずいな」


 とは、渋い表情のアイザック。

 彼は言及の最中も、自身の怪我が命を脅かすものではないこと、その程度で済んだのはフィンのおかげであることを訴えていた。もちろんベルナデッタもそれに続いていた。フィンが居なければ事態は解決しなかったとまで断言したのだ。

 だが話は好転しない。ラクスター家の仕出かしにフィンはあまりに関与しすぎているのだ。

 なにより問題なのは……。


「フィンのやつ、自分のことはもう諦めてるな。あれじゃあ俺達が何を言っても無駄だ」

「それだけソラリスさんを守ろうとしてるんですよね。……でも、このままじゃフィン君が一番悪いことになっちゃいますよ」

「良くて幽閉、最悪は僻地での強制労働ってところだな。ソラリス嬢に関しては温情を望めるかもしれないが、フィンは難しいだろうな」


 ソラリスはまだ幼く、今回の件には無関係だと分かる。フリッツ達もさすがにソラリスに押し付けるのは無理だと考えているのか、責任逃れの際にも彼女の名前は口にはしていない。計画も今も彼女は蚊帳の外。

 だがフィンは別だ。まだ若いとはいえ自分で物事を判断できる年齢。そして実行犯として行動してしまっている。

 なによりフィン自身がソラリスを庇うため全責任は自分にあると訴えているのだから、これを巻き返すのは当事者であるベルナデッタ達でさえ難しい。


 どうしたものか……。とベルナデッタは考えを巡らせた。


「いっそここで私が『お花を摘みに行ってきます!』って時間稼ぎでもしましょうか」

「なるほど時間稼ぎか。いっそ俺がルスタールに連絡を取って、『飛行訓練中にうっかり広間に突っ込んじゃった』ってこの場を強制お開きにするのも良いな」

「その手も有りですね」


 今すぐに対応できるのはベルナデッタの案だが、より長い時間を稼げるのはアイザックの案だ。

 どちらがいいか、とベルナデッタとアイザックが真剣に悩み始めれば、ギャウと鋭い鳴き声が割って入ってきた。

 ロニアと兄だ。二匹がじっとりとした目でこちらを睨みつけている。ふん! という強めの鼻息は呆れのあらわれか。

 ぐいと身を寄せてくるロニアに、ベルナデッタは「だって」と言い訳をしつつその頭に手を置いた。


「どうにかしないと、フィン君が悪いことになっちゃうよ」


 確かに彼は悪事を働いた。それは揺るぎない事実で、罰せられるのも仕方ない。

 だがすべての罪を彼が背負うのは違う。事情があるのだから、それを考慮すべきだ。

 そしてなにより、フィンは後輩なのだ。だから無罪放免にしろというわけではないが、守れるのなら守りたい。


 これは私情だ。

 それも個人的な、もしかしたら騎士としては許されない私情なのかもしれない。


「でも、私はフィン君を守ってあげたい。だって家族からあんな扱いされて、そのうえ国からも罰せられるなんて……、そんなの酷いよ。フィン君はソラリスさんを守ろうとしてるけど、でも、それなら誰がフィン君を守るのさ」


 誰にも守ってもらえず、自身を蔑ろにしてでも妹を守ろうとした。その結果が誰より重罪として罰せられる……、なんていうのはあんまりではないか。

 そうベルナデッタがロニアに抱き着いて訴えた。


 森の中の小屋で、ベルナデッタの鳴き声に応じて助けに来てくれたのはロニアと兄だ。

 家族だから、大事だから助けに来てくれた。

 ベルナデッタも、もしも家族が危機に陥っているのなら全てを擲ってでも助けに行く。


 それは家族だけに限らず、たとえば友人であったり、種族を越えた仲であっても変わらない。


「でも、フィン君にはそういう人がいなくて……」


 フィンの気持ちを想像すれば胸が痛む。どれだけ追い詰められていたのだろうか、どれだけ助けを求めたかっただろうか……。

 だが周囲に助けを求めれば、自分はもちろん大事な妹にまで害が及ぶ。だからこそ彼は凶行に走ったのだ。……走らざるを得なかった。仮に成功したとしても結局はすべて奪われて蔑ろにされる。それが分かっていも。

 先輩なのに気付いてあげられなかった、とベルナデッタが項垂れれば、アイザック達が宥めようと声を掛けてくる。

 そんな中……、


 ギャウッ!


 と低い鳴き声が響き、次の瞬間、巨体な虎が広間の中央へと飛び出していった。




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