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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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04:夜の訪問者

 

 アイザックを呼ぶようにという不思議な一文。

 この一文だけ少し文字がよれているあたり、即席で書き足したのだろうか。

 これにはベルナデッタも首を傾げてしまった。だが一応頼まれたのなら応えようと、手紙を封筒にしまいつつ、スゥと息を吸った。


「アイザック様ぁー」

「はーい!」


 ベルナデッタの呼びかけに嬉しそうな返事がかえってくる。

 それと同時に黒竜の影から出てきたのは、言わずもがなアイザックである。ひらひらと片手を振る姿は相変わらずスマートだ。

 騎士隊の制服とは違う些かラフな服装だが、彼の優れた見目はこの服もまた華麗に着こなしている。腰から下げているロープが些か浮いているが、あれはきっと執務室から脱走した際に使ったのだろう。


「アイザック様、いらしてたんですね。こんばんは」

「夜遅くなのに悪かったな。本当はグレースさんに手紙を渡すだけにしようと思ったんだが、窓の明かりがついてるのが見えてさ」


 それでわざわざ庭に降りてベルナデッタを呼んだのだという。

 なるほどどうりで最後の一文がよれているわけだ。聞けば「ちょっとした演出をしようと思って」とルスタールに乗りながら書き足したらしい。


「でも寝る前だったんだな。下に着てるのパジャマだろう?」


 今のベルナデッタは丈の長いカーディガンを羽織っているが、その下はアイザックの言う通りパジャマだ。

 ベルナデッタが己の姿を見下ろす。対してアイザックは先程まで普通に話していたというのに、次第に顔を赤くさせ、ついには他所を向いてしまった。

 ポツリと呟かれた「パジャマ姿、最高に可愛い」という呟きは残念ながらベルナデッタの耳に届かなかった。傍らでやりとりを見守っていたロニアとルスタールの盛大な鼻息で掻き消されてしまったのだ。


「このパジャマ、グレースさんが去年の誕生日に買ってくれたんです。凄く柔らかくて寝心地が良いんですよ」

「そうか。凄く似合ってる」

「アイザック様は普段の服装とはちょっと違いますね。パジャマ……、でもなさそうですし」


 今のアイザックの服装は白いシャツに茶色のベスト、紺色のズボン。細部に刺繍が施されており質の良さはうかがえるが、さりとて一級品という程には見えない。

 勤務中の騎士隊の制服とも違うし、非番の日に着ている服装とも違う。非番の日であっても、彼は『国宝』かつ『竜騎士隊隊長』なだけあり相応の服を着ているのだ。


「あぁ、これか。これはたまに色々なことが嫌になって市井の酒場に潜り込んだり、身分詐称して外部の仕事を受けて大暴れする時用の服なんだ」

「さらっと凄いことを言ってきますね」

「でもまぁ俺だからすぐにバレるんだけどな。最高詐称記録は一日半だ」

「アイザック様は有名人ですもんねぇ。その程度じゃ変装にもなりませんよ」


 ベルナデッタが笑いながら話せば、アイザックがそれを受け取り「有名人も辛いな」と否定もせずに頷く。

 そうしてまた話を……、となったところで、ベルナデッタがくしゃみをした。へぷちん!!! という些かおかしな音で。


「くしゃみまで可愛い。じゃなくて、大丈夫か? 冷えたのかもな」

「部屋を暖めていたから、夜風との温度差で……、へぷっ、失礼しました」


 むずむずする鼻を押さえながらベルナデッタが告げれば、アイザックが慌てた様子で屋内に戻ろうと言い出した。


「俺が呼び出したせいでベルナデッタが風邪を引いたなんて事になったら死ぬしかない。早く戻ろう」

「死!? 私が風邪を引いてアイザック様が死ぬんですか!? 風が吹いたら桶屋は儲かるのに!?」

「そうそう、俺は死んじゃうの。ほら、冷える前に戻るぞ。グレースさんに頼んでホットミルクを用意してもらおう。ちゃんと注文して支払いはしておくから、ベルナデッタはそれ飲んで暖かくして眠ってくれ。心配で死にそうだ」


 早く早く、とアイザックが背中を押してくる。

 そんな彼に背を押されつつ、ベルナデッタもまた宿へと向かった。自分の風邪でアイザックを失うわけにはいかない。

 ロニアがまったくと言いたげに腰をあげてついてくる。だがルスタールだけは動かずその場でゴロンと丸くなるあたり、今夜はここで眠るのだろうか。屋内で人間と生活する聖獣と違い、竜は屋外で夜を過ごす事が多い。


「おやすみルスタール」


 ベルナデッタが声を掛ければ、猫のように丸くなっていたルスタールが尻尾を軽く揺らして応えてくれた。



 ◆◆◆



 宿のチェックイン時間は既に終わっている。そのため正面玄関は閉められているが、隣接する食堂から出入りができる。

 食堂では酒も提供されるため遅い時間でも賑わっており、ベルナデッタ達が入ってきても誰も気付かない。


 誰も………。


「グレースさん、宿の警備は足りてるのか? 酒も出すなら小競り合いもあるだろう、何かあれば直ぐに呼んでくれ」

「おひとりで宿を経営するのは大変でしょう。私は経営の知識もあります、なにか困りごとがあればぜひご相談ください」

「これからの季節は他国からの旅行者も増えるし、物騒な話も増えるかもしれない。夜間の警邏を増やそうか」

「本格的な相談でなくとも構いません。ただ話を聞いて欲しいという時でも、呼んでいただければすぐに伺いますので」


 と、嬉しそうにグレースに話しかけるヴァレールとセルジュも、ベルナデッタ達には気付いていない。

 二人に至っては、賑わいのせいというよりグレースに夢中で気付いてない可能性の方が高いが。

 なるほど、とベルナデッタが頷いた。


「グレースさんに会いに来るために、セルジュさんはアイザック様を閉じ込めたんですね」

「多分な。俺が問題起こして呼び出されるのを回避しようとしたんだろう。まぁ問題が自ら来てやったわけだが」


 ニヤリと笑むアイザックの顔は随分とあくどい。

 もっとも元が整っているので、どれだけあくどく笑っても麗しさは変わらない。むしろ普段とはまた違う魅力が醸し出されている。

 そんなアイザックを「素敵な悪い顔ですねぇ」と煽り、ベルナデッタはふわと欠伸を漏らした。


「私はもう眠いので、お先に失礼しますね」

「そうだな、ここからは大人の時間だ。正確に言うなら、『良い年した大人が、良い年した大人を酒で潰す時間』だな」

「程々に……。いや、でもお酒は利益が高いってグレースさんが言ってた気がするので、盛大にやってください」

「家族想いと打算を両立するところも可愛い。おやすみベルナデッタ、またな」


 あくどい笑みをすぐさまひっこめ、穏やかな声色と優しい笑みでアイザックが就寝の挨拶を告げてくる。

 それにベルナデッタも応え、賑わう食堂の中をするりと抜けて隣接する宿へと向かった。




「馬鹿共め! この俺を閉じ込められると思ったか!!」

「うっ、なぜここにアイザックが…!? セルジュ、お前ちゃんと閉じ込めたんじゃなかったのか!」

「閉じ込めましたよ。執務室の外鍵を掛けて南京錠を二つ、万が一に鍵を破られた時用に警報ブザーを設置し、部屋の周囲には足止め用のトラップも仕掛けておきました」

「え、うそ……。俺そこまで頑丈に閉じ込められてたの……、こわぁ……」


 そんな賑やかな声が階下から聞こえてきたが、ベルナデッタは足を止めることはせず、ふわふわと欠伸をしながら階段を上った。



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