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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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03:騎士と獣の仲良し姉妹

 


 騎士隊の仕事は様々だ。

 訓練は常に欠かさず、市街地や周辺の警備も行う。どこであろうと不穏な空気が流れれば調査に出るし、争い事の仲介も仕事の一つ。時には市街地の小競り合いにも駆り出される。

 対人関係や街でのいざこざは純騎士が主になって担うが、さりとて獣騎士や竜騎士が無関係とはいえない。どんな肩書だろうと騎士は騎士、割り振られた仕事は責任をもって全うすべし。


 そして当然、国を護るため二十四時間体制である。



 ベルナデッタが仕事を終えて帰路についたのは夜の十一時半過ぎ。日付もそろそろ変わろうとする頃合い。既に周囲は暗く、空には星が瞬いている。

 今日は午後からの出勤だったため終わりが遅い。だが昨日は早朝勤務で、その前は夜通しの夜勤だった。


「変則的な勤務時間が続くと、なんだかずっと眠くてすっきりしないね」


 ふわ、と欠伸をしながら夜道を歩けば、隣を歩くロニアも大きな口をガバと開けてつられるように欠伸をした。

 聖獣に慣れていない者が見たら迫力を感じて震えあがりかねない欠伸である。だがベルナデッタにとっては見慣れたもので、むしろつられて再び欠伸をしてしまう。


 そんな眠気に襲われつつもなんとか自宅についた。


 ベルナデッタの自宅は一般家屋ではない。市街地にある宿屋、親の伝手で三階の角部屋を長期で間借りしている。

 出入り口は当然だが宿屋の入り口だ。入れば「いらっしゃいませ」という声が出迎えてくれた。


「あら、ベルナデッタじゃない。おかえりなさい。お勤めご苦労様。ロニアもおかえりなさい」


 労いの言葉で迎えてくれたのは宿の女主人グレース。

 年は今年で三十八歳。五年前に夫を亡くし、宿屋の経営を一手に担う美しさと逞しさのある女性だ。ベルナデッタはもちろんロニアの事も子供のように可愛がってくれている。

 ベルナデッタにとっては第二の、もとい、第三の母親のような存在。


「夕飯はまだでしょう? 部屋に戻ったら寝ちゃうんだから、先に食べてから部屋にあがりなさい」

「はぁい」

「食堂のいつもの席にご飯を運んでおくから、手を洗ってきなさい。ロニアも足を拭いて」

 ギャウ


 グレースのまるで母親といった指示に、ベルナデッタとロニアが交互に答えた。

 そうして最後に二人、否、一人と一匹で揃えて欠伸をし、ベルナデッタは腕を上げて背を伸ばし、ロニアは前足で踏ん張って背を伸ばす。

 まったく違う姿の人間と聖獣が、同じように欠伸をして体を伸ばす。「疲れたぁ」とベルナデッタが情けない声をあげれば、これもまたほぼ同時にロニアがギャウを鳴き声をあげた。疲労を感じさせる遅々とした歩みまで同じだ。


「本当、姉妹でそっくりね」


 とは、のろのろと食堂に向かうベルナデッタとロニアを見届けるグレース。

 冷静なグレースとは真逆に、チェックイン中の客は気圧され半分、物珍しさ半分といった表情をしている。

 視線でベルナデッタ達を追いかけ、一人と一匹が建物の奥に消えてもじっと見つめているのだからよっぽどだ。


「あれが聖獣か……。祭事の時に見たことがあるが、間近で見るのは初めてだ。凄い迫力だな」

「ロニアは見た目は迫力があるけど優しい子よ。朝はベルナデッタを起こしてくれるし、休みの日は掃除に付き合ってくれるの」

「そう言われても、はいそうですかで近付けるもんじゃねぇな。それに一緒に居た女の子はあれだろ、例の獣騎士」


 客の口調は好奇心が隠しきれていない。ロニアがいなければ直ぐにでもベルナデッタを追いかけ、根掘り葉掘り聞きだしそうなほどだ。

 これに対してグレースは肩を竦めて肯定するだけに留めた。


「聖獣とはいえ虎だろう、そんな聖獣に七歳まで育てられたって言うんだから驚きだよな。あの聖獣も元々は姉妹として一緒に育ったんだろ」


 首を伸ばしてベルナデッタが去っていった先を覗きながら男が話す。

 好奇心を隠そうともしないその態度に、グレースは「仲の良い姉妹よ」と返してチェックインの手続きに移った。



 ◆◆◆



 食堂での夕食を終え、自室に戻る。

 三階の角部屋。元々広めに作られているその部屋には、背の高い棚が一つと、机と椅子。それと大きめのベッドが置かれている。

 比較的こじんまりとした部屋だが日中問わず働く騎士には十分な設備だ。そしてなにより目につくのがベッドの横に置かれている大きなクッション。柔らかなクッションは中央がくぼんでおり、愛用されているのが分かる。


「明日はお休みだからお昼まで寝て、その後は買い物にでも行こうかな。ロニア、先に起きても私を起こさないでよ」


 就寝の準備を終えたベルナデッタがベッドに入りながらロニアに告げる。

 ロニアもまたクッションにゴロンと寝そべりながら、ガウとひと鳴きして返事をしてきた。これは拒否の鳴き声である。心なしか金色の目もじっとりとしている。


「やだぁ、その顔、絶対に起こすって顔じゃん」

 ガウ……

「確固たる意志を感じさせる……。ドア開けられるんだから、先に起きたら一匹で食堂でご飯食べててよ」

 ギャウギャウ

「ご飯食べて暇ならグレースさんと一緒に居るか、裏庭にでも行けば良いでしょ。私は断固として明日は昼まで起きないからね」

 グルルル……、グ?

「ロニア?」


 不満そうな鳴き声を漏らしていたロニアがふと顔を上げて窓の方を見た。

 おもむろにクッションから起き上がり窓へと向かう。カリカリと窓を爪で引っ掻くのは開けろという訴えだ。

 それを察してベルナデッタは窓を開け、ロニアと一緒に窓の外を覗き込んだ。


 既に夜更けと言える時間。当然だがあたりは暗い。

 窓は宿の裏手に面しており、庭という程でもないが少しだけひらけている。だが奥外灯が無いため殆ど暗闇になっており、窓から漏れる明かりが薄ぼんやりと灯る程度。隣の家屋との境目も朧気である。


「ロニア、どうしたの? なにか……」


 なにかあったの? とベルナデッタが問おうとするも、その言葉にバサッと豪快な音が被さった。

 頭上からだ。反射的に見上げれば、夜の暗闇の中でもなお識別できる影が宿のうえを旋回している。


 鳥よりも大きく雄大な姿。

 羽を広げて優雅に飛び、長い尾をたなびかせる……。


 竜だ。

 それも、夜の暗さよりも色濃い黒色を持つ竜。


 竜達の始祖と呼ばれる黒竜。名前はルスタール。


「ルスタールだ。何かあったのかな?」

 グルルル

「私を呼んでるの? 分かった。行こう」


 椅子に掛けてあったカーディガンを羽織り、すぐさま部屋を出る。

 そうして宿の裏手へと向かえば、そこには一頭の竜が待ち構えていた。


 黒い体に赤い瞳。

 人とは比べ物にならぬ大きさ。一般的な動物はもちろん、羽を広げると聖獣よりも巨大だ。


「ルスタール、こんばんは。どうしたの?」


 竜が纏う威圧感に臆することなくベルナデッタが近付けば、ルスタールが赤い瞳をちらと己の体へと向けた。

 聖獣も竜も、人を乗せる際には装具をつける。馬具と同じだ。今はそれと共に革張りのポーチも体に括り付けている。

 どうやらそこに何か入っているらしく、ベルナデッタは促されるままにポーチを開けた。


「私宛の手紙だ」 


 中に入っていたのは白い封筒。

 宛名はベルナデッタ、差出人はアイザック。

 日中に会ったばかりのアイザックからの手紙に疑問をいだきつつ、だが中身を見ない事には分からないとさっそく封筒を開けた。


『ベルナデッタへ

 突然の手紙、申し訳ない。

 今、俺は執務室に閉じ込められています』


「事件だ!」


『犯人はセルジュです』


「身内の犯行だ!」


『なので暇で暇でどうしようもないのでペンを取りました』


「なんだ暇つぶしかぁ」


『この手紙を書き終えたら、俺は窓から部屋を抜け出して報復に行こうと思います』


「犯行予告だ!」



 救助要請かと思いきや密告。ではなく暇つぶし。と思わせてからの犯行予告。

 二転三転する手紙は最後に、


『この文章を読み終えたら俺の名前を呼んでください』


 と締めくくられていた。



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