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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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26/52

26:竜騎士さまの誕生日

 


 王立図書館は広く、蔵書数は国内一を誇る。

 館内はシンと静まって落ち着いた空気に満ちており、聞こえてくるのはページを捲る音やペンを走らせる音のみ。

 話をする者も時折いるにはいるが、みな周囲を気遣って小声だ。ひそひそと小さな声がどこかから聞こえ、すぐに消える。


「明後日って何かあるんですか?」


 カレンダーを指差しながらのフィンの質問に、ベルナデッタは「明後日?」と首を傾げて返した。

 場所は王立図書館内。ヴァレールから本を持ってきて欲しいという頼まれごとの最中。

 二人で探していたところ、フィンが本棚の一角に置かれていたカレンダーをじっと見つめ、先程の質問である。もちろん問うフィンも返すベルナデッタも小声である。


「カレンダーにマークが書かれているんです。これだけじゃなくて、騎士隊の詰め所にも。他にも僕が見た限りでは王宮中のカレンダーの殆どに書いてありました」


 今日の日付から一マス跨いだ二日後。そこには確かに簡易的な竜の絵が描かれている。

 可愛らしいデフォルメ具合で、竜の周辺には星が瞬いており、子供が喜びそうな絵だ。


「祝日ではないはずですが……、竜の絵ってことは竜騎士隊の記念日か何かですか?」

「アイザック様の誕生日です」

「……誕生日?」


 え? と不思議そうな顔をするフィンに、ベルナデッタは「はい」と肯定すると共に頷いて首肯もしておいた。

 明後日はアイザックの誕生日だ。カレンダーに書かれた竜のイラストはそれを示すものである。


「……手書きですよね」

「手書きですね。たまに竜がウィンクしてるのもあるんですよ」

「…………誰が書いてるんですか?」

「誰って、そりゃぁ」


 ベルナデッタがその人物の名を口にしようとする。

 だがそれより先に「決まってるだろ!」という威勢の良い声が割って入ってきた。


「俺だ!」


 という力強い断言。

 言わずもがな、アイザックである。

 誇らしげに胸を張った姿は、彼の見目の良さと騎士隊の制服が合わさって絵になっている。


 ……のだが、図書館司書の大きな咳払いに慌てて口を手で覆った。


 怒られると察してそそくさと近付いてくる。

 先程までの力強く凛々しい姿が一転して情けなさが漂うが、場所が場所なだけに仕方ない。


「俺としたことが、ここが図書館ってのを忘れてた」

「こんにちはアイザック様。今日はどうしたんですか?」

「ベルナデッタとフィンが二人で図書館に行ったって聞いたから邪魔しに……、じゃなくて、手伝いに来たんだ。二人で本を探すより三人で探した方が早く見つかるだろ?」

「ありがとうございます。アイザック様は優しいですねぇ」

「そりゃぁ、ベルナデッタのためなら! ……っと、しまった。また大声が。図書館とはどうも相性が悪い。とりあえず本を探そう」


 話はあとで、とアイザックが促してくる。司書の方をチラチラと見ているあたり無言の圧を感じているのだろう。

 なにせここは王立図書館。騎士の威厳も権威も司書には敵わず、多少の会話は許されているが大声はマナー違反だ。力強い断言なんてもってのほか。

 確かにアイザックと相性は悪そうだ、とベルナデッタは考え、まずは頼まれている本を探すべく棚へと向かった。


 その際にこそりとアイザックに、


「私も図書館とは相性が悪いんです。難しい本に囲まれるとそれだけで眠くなるでしょう?」


 と話せば、彼は楽しそうに笑ってくれた。



 ◆◆◆



 目当ての本を探し出し、図書館を後にする。

「それで……」と改めるように話し出したのはフィン。


「カレンダーにご自分の誕生日を書いてるんですか?」

「あぁ、なんていったって俺の誕生日だからな」

「……そ、そうですか。でも、騎士隊の詰め所のカレンダーにならまだしも、どうして図書館のカレンダーにまで」

「図書館のカレンダーというか、ベルナデッタの視界に入る可能性があるカレンダーすべてにだ」

「す、すべてに……」


 はっきりとしたアイザックの説明にフィンが頬を引きつらせる。

 もっとも、当人であるベルナデッタはさほどどころか欠片も気にしておらず、それどころか「アイザック様は凄いんですよ!」とフィンに語り出した。


「私が住んでる宿はもちろん、私がよく行く喫茶店のカレンダーにも、宿のおつかいでよく行く八百屋のカレンダーにも書いてるんですよ!」

「そ、そこまで徹底してるんですか……」

「当然だろ。やるからにはとことんが俺のモットーだからな」

「なにより凄いのは、カレンダーに書き込むところを他人に見せないんです! アイザック様がカレンダーに書き込むところを見た人はその年いいことが起こるって言われてるんですよ!」

「変なジンクスまで出来てる……。そ、それはすごいですね……」


 上擦った声のフィンの褒め言葉にアイザックが胸を張り、ベルナデッタも拍手で褒め言葉を後押ししておいた。

 実際、アイザックは数え切れないほどのカレンダーに己の誕生日を記している。本人が『ベルナデッタの視界に入る可能性があるカレンダーすべて』と断言している通りだ。

 それどころか、ベルナデッタが初めて訪れる店のカレンダーにも記されており、「先回りされたね」とロニアに話しかけたことも数知れず。


「そもそも、俺の誕生日なんだから国の記念日になってもおかしくないんだ。なんていったって国宝だぞ、国宝」

「アイザック様の誕生日が祝日になったら、国中でお祝いですね!」

「そうそう。派手なパレードが市街地を通って、国をあげて俺の誕生日を祝うんだ!」

「きっとどのお店も記念日をお祝いしたメニューを用意しますよ! 初めて会った時に行った喫茶店もアイザック様の誕生日用のクレープを出すかもしれませんね!」


『アイザック生誕祭』を想像してベルナデッタとアイザックが盛り上がる。

 なにせ国宝の竜騎士だ。その生誕祭ともなれば当然豪華になる。国中が盛り上がる祝日になるだろう。

 だけど……、


「まぁ、祝日になったところで俺は働くんだけどな」


 アイザックが途端にテンションを落とす。

 ベルナデッタも同様、テンションを急速落下させて「ですね」と同意した。

 この落差についていけなかったフィンだけが「えっ!?」と声をあげた。


「な、なんでアイザック様が働くんですか?」

「なんでもなにも、騎士隊には祝日なんて関係無いだろ。何があろうとどんな日だろうと、昼夜問わず国に仕えて国民を守る。それが騎士というものだ」

「そう、ですけど……」

「あと竜騎士隊内だと休みは妻子持ち優先なんだよ。次点で年功序列。つまり独身かつ若い俺は優先順位が低い。祝日、それも街でお祭りが行われる祝日に休みなんて取れるわけがない!」


 力強いとさえ言えるアイザックの断言。自棄とも言えるか。

 気圧されたフィンが上擦った声で「そうですか……」と返した。


「というわけで仮に俺の誕生日が祝日に制定された場合、俺の誕生日を祝う国民を守るために仕事をする俺、という本末転倒な構図が完成されるんだ」

「盛り上がれば盛り上がるほど悲しくなりますね……」

「ちなみに私も優先順位は低いので休みは取れませんね」


 アイザックの話にベルナデッタも続いた。

 先程アイザックは『竜騎士隊の休みは妻子持ち優先・年功序列』と言っていたが、獣騎士隊もほぼ条件は同じだ。つまりベルナデッタも優先順位は低い。それどころか一番最後かもしれない。

「酷い話だよなぁ」「酷い話ですねぇ」と思わず二人で顔を見合わせてしまう。


「まぁでも、俺の誕生日は特に祝日でもないし、今年も無事に休みを取れたから良かったよ。そ、そ、それで、ベルナデッタも、休み……、なんだよな?」


 途端にアイザックがしどろもどろになって尋ねてくる。

 これに対してベルナデッタは「はい!」とはっきりと返した。


「私も休みを取ってますよ。約束しましたもんね」

「お、覚えててくれたんだな……!」

「もちろんです。公園の先にある喫茶店に一緒に行くんですよね。それにちゃんと……、いえ、なんでもありません!」

「ん? どうした?」

「本当になんでもないんです。なにも言ってません! それにしても、誕生日の約束を覚えていただけなのにアイザック様は大袈裟ですねぇ」


 つい口にしかけた言葉を慌てて誤魔化し、過剰に喜びすぎだと笑っておく。

 だがそれほどまでに自分と誕生日を過ごすことを喜んでくれるのなら嬉しい限りではないか。休みを取ったかいがあるというもの。

「素敵な一日にしましょうね」と話しかければ、アイザックがより嬉しそうに頷いて答えてくれた。




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