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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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23/52

23:噂の獣騎士ちゃんさがし

 

 王宮の敷地内は他の騎士達が探しているので、市街地に出ることにした。ちょっとした散歩がてらでもある。

 市街地は人で賑わっており、老若男女が行き交っている。とりわけ今日は祝日なため人が多く、広場では曲芸士が客を集め、キャラバンがあちこちで店を開いている。常設の店も店先にテーブルを出して売り込んで……、とどこもかしこも活気にあふれている。

 この中で一人を見つけるのは至難の業だ。だが獣騎士ならば……と考え、アイザックは「しまった」とつぶやいた。


「聖獣は連れてないんだよな」


 先程セルジュは『聖獣は検査をしている』と言っていた。つまり件の獣騎士は一人で行動している。

 獣騎士といえども結局は人間。聖獣を連れていなければただの騎士と同じだ。


「名前は何だったか……。参ったな、名前と見た目の特徴を聞いておけば良かった」


 王宮に戻ってセルジュに話を聞いてこようか。だが下手すると『なにも知らずにどう探す気だったんですか』と手痛い一言を食らう恐れがある。スケジュールに押されている時の彼は普段以上に説教臭くなるのだ。

 セルジュに会うのは得策とは言えない。やはりこのまま探し続けるべきだろう。

 それに件の騎士の見た目が分からなくとも、彼女は騎士隊の制服を着ている。飾りは違えどもアイザックが今着ているものと同じ、濃紺色の地に銀色の刺繍が入った制服。厳かなデザインは賑わい浮かれる人混みの中でも目に付くはず。


 だからきっと見つけられる。

 そう楽観的に考え、アイザックは王宮に戻ろうとしていた進路を変え、再び賑わう人込みの中へと歩き出した。




「あの、何かお困りですか?」


 と声を掛けられたのは、探し始めて一時間程経過してから。

 市街地の広場を見て、店を覗き、もう一度広場へと戻ってきた時だ。件の獣騎士は見つからず、名前も忘れてしまったため他の人に聞いて回ることも出来ずにいた。

 そんなアイザックに声が掛かった。

 振り返れば一人の少女がこちらを見上げている。三つ編みに結んだ銀の髪、まるで太陽のような色濃い橙の瞳。丈の長い茶色のコートにすっぽりと身を包んだ少女だ。

 年は十代前半だろうか。あどけない顔立ちに疑問の色を含ませ、首を傾げたまま「探しものですか?」と再度尋ねてきた。


「さっきから何度か広場を往復してますよね」

「あ、あぁ、そうなんだ。人を探しててな」

「人を? もしよければ、私も手伝いましょうか?」

「え、でも……」


 人手はもちろんだがあった方が良い。

 だがまったくの無関係なこの少女を巻き込んでしまって良いのだろうか。

 なにせ今日の市街地は娯楽で溢れかえっているのだ。それなのに人探しをさせてしまうのは申し訳ない。

 だからとアイザックが遠慮しようとするも、察したのか少女が「大丈夫ですよ」と先手を打ってきた。


「こうも賑わうと何をして良いのか分からなくて、ちょうど暇をしていたんです。それに私も予定があるので見つかるまでとは言えませんし」

「そうか……。それならお願いしようかな」

「はい。それで、どなたを探しているんですか?」

「実を言うと、よく分からないんだ。名前は忘れちまったし、見た目も知らなくて……。あ、でも、今の俺が着ているのとほぼ同じ服を着てるはずだ」

「探してるのは騎士隊の方なんですね」

「あぁ、それで、女性で、たぶん逞しいんだろうな」


 件の獣騎士は入隊試験の実技試験でぶっちぎりの最高点だったという。それも、セルジュ曰く『同期の中どころか、騎士隊ひっくるめても上位にくる強さ』とのこと。

 となればきっと相当鍛えているのだろう。男顔負けの体格を持つ女性騎士かもしれない。

 実際、騎士業を務める女性はみな強さを感じさせる者ばかりだ。中には並みの男では歯が立たないほどの勇ましさで、年若い令嬢達から黄色い声援を受ける者もいる。


「もしかしたら俺ぐらい身長が高くて、剣じゃなくて丸太で戦うタイプかもしれない」

「そんな女性騎士が……。でもそんな方ならすぐに見つかりそうですけどね。そもそも騎士隊の制服って目立つじゃないですか」

「俺もそう思ったんだが、これだけ人がいると難しくてさ。まぁでも、二人で見て回れば見落とすこともないだろ。よろしくな」


 協力を受けると決めたのなら素直に頼ろう。そう考えてアイザックが告げれば、少女がパッと表情を明るくさせた。「はい!」と返す声は溌剌としている。

 それを見てアイザックもまた表情を和らげ、さっそくと散策を再開させた。




 聞けば、協力してくれるこの少女はつい最近まで南方の田舎村で生活していたという。

 ここよりだいぶ暖かな村らしい。


「なるほど、それでいまだにコートなんて着てるのか」

「まだ寒いのにみんな薄着でビックリしました。冬服の支給は当分先だって聞いて、慌ててコートを買ったんです」

「今の気温でそれだと、冬になったら大変だぞ。一昨年は大雪が降ったし、今年も積もりこそしなかったが連日雪が降ったし、かなり冷えたしな」

「そんなぁ」


 事実を述べたつもりが、どうやら少女には恐ろしく聞こえたらしい。ぶるりと身体を震わせ、それだけでは足りないと己の体を抱きしめるように掴んで「怖い話をしないでください」と文句を言ってきた。

 なんとも情けない訴えだ。おまけに「寒くなってきた気がします」とまで言ってくる。これにはアイザックも苦笑してしまった。


 そんな他愛もない会話をしながら市街地の行き交う人込みに混ざって探す。

 時には彼女に市街地の案内もした。来たばかりで何の店がどこにあるのかすら分からないようで、何を説明しても興味深そうに聞いてくれる。


 話に盛り上がる時もあれば、ふとした瞬間に静かになり、周囲を見回して人探しに戻る。

 かと思えばまた話をはじめて……。


 そうしてしばらく歩き回り、ふとアイザックは立ち止まって広場の時計台を見上げた。気付けば一時間以上探し回っている。

 そろそろ模擬試合の準備が始まるだろう。一人不在も問題だが、二人とも不在は大問題だ。


「ここまで見つからないとなると、もしかして王宮に戻ってるのかもしれないな。いったん戻るか。せっかく付き合ってもらったのに悪いな」

「いえ、大丈夫です。それよりお役に立てず申し訳ありません」

「そんな気にしないでくれ。俺も探してる間、話が出来て良かったよ。なにかお礼を……」


 言いかけ、アイザックは一軒の店に視線を留めた。

 洒落た雰囲気の喫茶店。クレープが有名だったはずだ。見ていると若い男女がクレープを手に店から出てきた。テイクアウトも行っているのだろう。


「お礼に奢るよ。買いに行こう」

「え、でも、そんな悪いですよ。結局見つかってないし」

「良いって気にするな。俺もちょうど何か食べたいと思ってたところだし」


 ほら、とアイザックが促しつつ喫茶店へと向かって歩き出せば、遠慮していた少女も慌てて追いかけてきた。



 そうしてクレープを食べながら王宮の敷地へと向かう。

 どうやら少女も同じ方向に用事があったようで、どうせならと共に向かう事になった。

「おしゃれで美味しい食べ物ですねぇ」と感心したようにクレープを食べる彼女を見ていると自然とアイザックの表情が和らぐ。彼女を見て笑んでいるのが自分自身で分かる。


 不思議とこの少女と話していると気持ちが穏やかになる。温かいような、少し擽ったいような心地良い感覚。

 一挙一動が微笑ましく思え、自分の話を聞いてくれることが嬉しく、彼女の話を聞きたいと思う。

 それと同時に胸に湧くのが、もうすぐ別れの時が来てしまうという悲しさ。このままでは終わりたくないと強く思う。


 これは……、とアイザックはなんとも言えない感情に胸元を掴んだ。


「いや、でも、まだ会って一時間程度だぞ……」

「あ、王宮の検問だ。コートを脱ぐのでちょっと待ってもらえますか?」

「だけどこれでお別れなんて嫌だ……。そうだ、名前を聞いて、また会う約束を! でもこれって軟派に思われないか!?」

「うー、やっぱりまだ寒い。よく皆さんこんな薄手の制服で生活できますねぇ」

「いやもう軟派と思われても良い。ここで別れるのは嫌だ……。な、なぁ、今更なんだが名前を!!」


 名前を教えてくれ、と言いかけ、だがアイザックは続く言葉を失った。

 目を丸くさせて黙り込んでしまう。唖然とし、目の前の光景に釘付けになってしまう。


 目の前の、今まで話していた少女が騎士隊の制服を纏っている光景に。


「……着替えた?」

「着替えたというよりは脱いだと言ったほうが正しいですね。とても寒いです」

「……騎士なの?」

「はい。今年入隊しました。よろしくお願いいたします」


 騎士らしからぬおっとりとした口調で、目の前の少女が頭を下げる。

 纏っているのは濃紺色を地にした騎士隊の制服。細部の飾りこそ違いはあるが、アイザックが今着ているものと概ね同じだ。

 これは……。


「やったぁ、お揃い!」





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