21:騎士隊内格差
自国内の騎士隊は大きく三種に分かれている。
ベルナデッタが所属する、聖獣と共に戦う獣騎士隊。
アイザックが率いる、竜と共に戦う竜騎士隊。
そして聖獣も竜もおらず単独で戦う純騎士隊。
どの騎士隊も国のために戦う騎士であり、各部隊内に階級こそあれども格差は無い。
「でもやっぱり獣騎士が一番ですよ」
ドヤァ、とベルナデッタがフィンに語ったのは、とある昼下がり。
先日の実地調査の報告書を届け終えた帰りである。――ベルナデッタからしたら帰省しただけなので報告書は難しいものがあったが、すべては特別手当のため――
他愛もない雑談から各騎士隊同士の関係に話が移り、「騎士隊に格差は無い」と説明した直後に先程の発言である。
だがけしてこれは格差を話しているわけではない。
ベルナデッタ自身、竜騎士隊や純騎士隊を下に見ているわけではない。どの騎士隊も国のために尽力し戦う、いわば同志である。
ただ……、
「なんて言ったって獣騎士隊が一番格好良いですからね! 具体的に言うなら、格好良くて綺麗で強い虎型の聖獣と命約を交わす獣騎士が一番格好良いんですよ。つまり私とロニアが一番!」
という自画自賛である。
自己肯定感が天元突破しており、語り終えても未だドヤァと胸を張っている。
隣を歩くロニアも心なしか得意気である。ふんっ! と勢いよく鼻で息を吐いた。
「そ、そうなんですね……。確かに、純騎士の方々の中には獣騎士に憧れている方もいますもんね」
「確かに獣騎士は貴重な存在だし中でもベルナデッタは最高に可愛くて強い。憧れる奴がいるのも分かる。でもやっぱり一番は竜騎士だろう。具体的に言うなら、始祖竜ルスタールと、ルスタールと契約を交わす俺だな」
「……そうですね。とりあえずアイザック様は突然会話に加わるのをやめて頂けませんか。僕まだ慣れていなくて……」
「え、まだ慣れてない? ごめん、驚かせたな。次からは鈴でも鳴らして近づこうか?」
「い、いえ、大丈夫です。僕もそろそろ慣れるようにします。ですがやっぱり、獣騎士も竜騎士も、自分達が一番だと思ってるんですね」
フィンの結論に、ベルナデッタはアイザックと顔を見合わせた。
次いではっきりと、二人揃って「もちろん」と断言する。迷いや謙遜など欠片も無い、そして過度な評価も無い、ただ自分が一番だという自画自賛である。
だが流石に自画自賛合戦を繰り返すのも埒が明かない、そう考え、ベルナデッタは「そうは言っても」と話題を変えた。
「獣騎士も竜騎士も、それに純騎士も、同じ騎士とはいえ役割が違うので『一番』って言うのは明確には決められないんです。それぞれ適した場があって、そこで活躍する。比較のしようが無くて、比較できない己の仕事に誇りを持っているからこそ、自分達が一番だと思ってるんです」
「それぞれに適した場……」
「ベルナデッタの言う通り。世間的には珍しさや派手さから竜騎士や獣騎士が一目置かれがちだけど、かといって俺達だけじゃ仕事にならないんだ。たとえば、市街地で事件が起こったり民間人を救出する必要がある時は聖獣や竜の出番はないだろ」
聖獣は本来の動物より一回りも二回りも大きい。竜に至っては殆どが聖獣よりも巨体で、羽を広げればなおのこと。
纏う迫力は人間どころか通常の動物の比でもない。民間人ならば味方と分かっていても殆どの者が恐れを抱くだろう。
それが事件の最中だった場合、救出対象を混乱に陥れてしまう可能性がある。助けようとしたのに相手が聖獣を恐れて逃げ、余計に怪我を負わせた……なんて目も当てられない。
そもそも竜に至っては着陸場所が無ければ空を迂回し続けるだけである。下手に人間が行き交う場所に着陸すれば、それだけで怪我をさせかねない。
そういった場合、頼りになるのは純騎士だ。
彼等は通常の訓練はもちろんだが、市街地や込み入った場所を想定しての戦闘、民間人の救出、避難誘導や震災時の対応等、日頃から多岐に渡って訓練している。
その他にも、催事での警備や要人警備も担っており、彼等の仕事の種類は枚挙にいとまがない。医療方面への知識を深めている者も多く、シンプルに戦力を求められている獣騎士や竜騎士とはまた違った存在である。
「そういうわけで、純騎士がいないとこっちも回らん。だから騎士隊に優劣は無いんだ。……まぁ、俺が一番っていうのは疑いようのない事実なんだが、それはさておいて『騎士は等しく』っていうのが騎士隊の考えだ」
アイザックの説明に、ベルナデッタが同意だと頷いた。もっとも、「一番は私達ですけど」と訂正はしておくが。――ここは譲れない――
この話に、フィンが感心したように「なるほど……」と呟いた。
「適材適所というものですね。ですが純騎士の中には獣騎士や竜騎士に憧れる人は多いみたいです。それも、やっぱり命約が格好良いって」
「ですよね!!」
フィンの話に、ベルナデッタはパァっと表情を明るくさせた。
そのままフィンにぐいと身を寄せる……、のだが、身を寄せた分だけフィンの体が後ろに下がってしまった。
詳しく言うなら、アイザックがフィンの上着の襟を掴んで無理やりに下がらせたのだ。
もっとも、今のベルナデッタは興奮しているので気付いておらず、もう一歩とフィンに詰め寄った。
「やっぱり命約の獣騎士が一番格好良いんです! 皆さん分かってますね!」
「そ、それは……。ぐぅ、アイザック様、引っ張らないで、首がしまる……。ベルナデッタ先輩、きょり……距離をとって……」
「フィン、お前まかさベルナデッタを褒めて気を引こうとしてるのか!?」
「命約には規約も無ければ条件もありません。ただ心から通じ合った瞬間に、交わそうと思わずとも交わされるものなんです。お互いを絶対であり唯一の存在として認め合う。これぞ命を懸けた契り! 命約が何より尊いんです!」
「ベ、ベルナデッタ先輩、距離を詰めないでください……。アイザック様、放してください……!」
「フィン! お前もっと下がれよ! ベルナデッタと近いんだって!」
ベルナデッタは興奮してフィンに詰め寄り、フィンはアイザックに引っ張られて情けない声をあげ、アイザックはフィンを引っ張ってベルナデッタと距離を取らせようとする。
しばしわぁわぁと騒ぎながら押し問答ですらないやりとりを続け……、
「聞き捨てならないな!」
という、威勢のいい待ったの声に、三人同時に足を止めて揃えたように声のした方を見た。
そこに居たのはヴァレールとセルジュ。それぞれ聖獣と竜と契約を交わしている『契約の騎士』である。
「契約を交わす条件は『騎士であること』。つまり入隊試験をパスしないといけない。これだけで難度は一気に上がり、世間からの信頼も厚い。つまり契約の騎士こそ世間に認められた優れた存在というわけだ」
「ヴァレールの言う通りです。契約の騎士とは、騎士としての忠誠心・国と国民を守る信念、それらを持ったうえで命約相手を尊重し代理人として戦う責任感も必要とされます。背負うものは契約の騎士のほうが重いと言えるでしょう」
淡々と話すヴァレールとセルジュの説明には説得力がある。
そのうえ、二人は獣騎士隊の隊長と竜騎士隊の副隊長という立場だ。肩書がより彼等の『契約の騎士こそ世間に認められた優れた存在』という主張に説得力を増させる。現にフィンはこの話に感銘を受けたと言いたげな表情をしているではないか。
「ぐぬぬ……、なんて分が悪い」
思わずベルナデッタが唸り声をあげた。
今この場にいる中で命約の騎士は自分一人だけ。アイザックもヴァレールもセルジュも契約の騎士だ。
圧倒的不利。試しに「でも命約の方が」と訴えてみたものの、二人分の反論が返ってきた。
一対二。アイザックが加われば一対三になってしまう。
「ここは撤退すべきか……。だけどみすみす逃げるのは命約の獣騎士の名折れ……」
「あの、ベルナデッタ先輩、それほど気にしなくても良いと思いますよ。命約も契約も、僕からしたら素晴らしいことですから」
「そ、そうですね。命約も契約もどちらも素晴らしいものです。それにアイザック様も契約の騎士ですもんね。アイザック様みたいに素晴らしい方が契約なんだから、命約も契約も素晴らしさに変わりはありませんね!」
ね! とベルナデッタがアイザックに同意を求めた。ここは一時休戦するのが得策。
そんなベルナデッタの発言に対して、アイザックはいつも通り「ねぇ~」と緩んだ返事を……、せず、なんとも言えない表情を浮かべていた。
視線を逸らして、この話題が気まずいとでも言いたげに口を噤む。まるで話を振られないようにできるだけ気配を消そうとしているような、いつも自信に溢れている彼には珍しい表情ではないか。
「アイザック様?」
「えっ!? あ、えっと、ごめん、ぼーっとしてた。なんの話だっけ?」
「命約も契約もどちらも良いって話ですけど……。どうしました?」
具合が悪いのだろうか。そう疑問を抱いてアイザックの顔を覗き込んでみる。
だが彼は露骨に視線をそらし、上擦った声色で引きつった笑みを浮かべたのち、パンッ!と誤魔化すように手を叩いた。
「ベルナデッタの言う通り、騎士はみんな素晴らしいってことだ!」
アイザックが出した結論は平和的である。そもそも、最初から『どの騎士隊も国のために戦う騎士であり、格差は無い』と定められているのだ。
だが普段の彼ならばこの結論を出したとしても、最後に「一番素晴らしいのは俺だけどな!」ぐらいは言うはず。――それがまた堂々巡りの火種を生み……となるのだが、それはさておき――
だが待てどもそれを言う様子はない。
そのうえさっさと話題を変えてしまった。それもセルジュに仕事の話を振るあたりがより彼らしくなく、ベルナデッタは首を傾げたままアイザックを見つめていた。




