15:不思議な試験結果
件の定期考査はつつがなく行われた。
そもそも考査とはいっても何に影響するわけでもなく、結果に一喜一憂するのも一部でしかない。ーー主に難易度爆上げ様とデッドラインちゃんと親しい者達である。もはや私怨。ーー
考査の目的は騎士達に座学を促すものであり、言ってしまえば『訓練も大事だけど勉強もね』というものでしかないのだ。
「今年も俺は全科目満点だ。皆の悔しそうな顔が目に浮かぶ!」
高らかに笑うのは試験結果を眺めるアイザック。
そんな彼に、ベルナデッタは純粋な尊敬を込めて拍手を贈った。手元には自分の試験結果があるのだが、全科目満点とは程遠い。
「さすがですね、アイザック様。私、後半の問題は分からないどころか何を言いたいのかも分かりませんでしたよ。あまりに分からなすぎて、『解答を書け』っていう命令文に腹立ててました。問題文ってなんか失礼ですよね!」
「ぷんぷん怒ってて最高に可愛い。でも後半は俺対策で難易度上げてくるから、意味が分からないのも仕方ないさ。でもベルナデッタも去年より点数良かったんだろ。凄いじゃん」
「アイザック様が勉強を見てくれたおかげです。来年もよろしくお願いしますね! アイザック様が難易度を上げていくように、私もデッドラインを上げていきますよ!」
「勤勉家で真面目で根気があって努力家で可愛い……。来年と言わず毎日だって教えてやるからな! いつ言ってくれてもいいから!」
興奮気味に買って出てくるアイザックに、ベルナデッタもやる気を出して返す。
そんなやりとりを終え、どちらも落ち着きを取り戻して試験結果を眺め……、となったところで、アイザックが「なんだろうなぁ」と呟いた。
眉根を寄せて、それどころか雑に頭を掻いている。先程までベルナデッタと盛り上がっていた時とは一転した様子だ。
挙げ句に首を傾げだした。頭上でクエスチョンマークが跳ねていそうな表情である。
「どうしました?」
「いや、これフィンの試験結果なんだけど、なんかあいつ、変な間違え方してるんだよな」
「間違え方?」
「そうそう。解答用紙見てると間違え方の傾向が見えてくるんだよ。それが分かれば勉強も教えやすいし、本人が自分の癖に気付いてない可能性もあるからな」
「難易度を爆上げする割には優しいですね」
「まぁ、俺も隊長だからな。部下の面倒は見てやらないと。難易度は爆上げしていくけどな!!」
それはそれ、これはこれ! とアイザックが言い切る。ーー果たして本当にそれはそれこれはこれだろうかーー
「たとえば、ベルナデッタは基礎は出来てるけど応用は出来ない。一番分かりやすいタイプだな」
「伸びしろがたくさんって事ですね」
「ポジティブで可愛い。そうそう、ベルナデッタは基礎が出来て伸びしろいっぱいって事。それが解答用紙から分かるんだ。あとセルジュも分かりやすいな。一問目からじっくり考えて確認して進めていくから、後半時間が無くなって焦りでケアレスミスが増える。」
アイザックが一枚の解答用紙を手に取る。どうやらそれがセルジュのものらしい。
次いで彼の視線が向かうのは、部屋の一角で書類整理をしている当人のセルジュ。思い当たる節があるようで歯痒そうな表情をしている。向かいにはヴァレールも居り、ニヤと口角をあげて「言われてるぞ」とせっついている。
もっとも、ヴァレールにも間違いの傾向があるらしく、アイザックが名前を呼ぶと気まずそうに眉を顰めた。
「セルジュと真逆なのがヴァレールだ。一気に問題を解いて見直しをしない。だからケアレスミスが全体に散ってる」
「凄い、そんなことまで分かるんですね」
「まぁ大体って感じだけどな。……でも、なんかフィンの解答用紙はおかしいんだよ」
どうにも気になるようで、フィンの解答用紙を眺めるアイザックの表情は渋い。眉間に皺を寄せて凝視し、違和感の原因を用紙から見出そうとしているかのようだ。
曰く、フィンの試験結果は言ってしまえば『上出来』といえるもの。新生活に慣れてない新人が時間の合間を縫って勉強した結果と考えれば、誇れるぐらいの好成績なのだという。
とりわけフィンは他の騎士達より入隊時期が遅く、おまけに定期考査を知らされていなかったのだ。かなり出遅れていたのに同期の中でも上位に入る結果だというのだから立派である。
だけど……、
「なんか、こう……、変な間違え方してるんだよな。応用は出来てるのに基礎中の基礎で間違えたり、難しい問題も解けてるくせに簡単なところで躓いてるし。すげぇ悩んでる形跡があちこちあるんだけど、それが初歩の初歩だったりするんだよ」
アイザックの話に興味が湧いたのか、ヴァレールとセルジュも解答用紙を覗き込む。
役職の無いベルナデッタだけは個人の解答用紙を見ることが叶わず、ソファに座ったまま彼等の様子を窺っていた。
「これは……、確かに妙だな」
「そういやフィンのやつ、試験を知った時も妙に切羽詰まった感じだったな。結果が悪くても問題ないって言ってるのに傾向が知りたいって言い出して、セルジュに過去の問題を借りに行くのも焦ってたし」
「私の所に来た時もかなり焦っていた感じでしたね。あまりに必死に借りたがるから、アイザック様やヴァレールに変な事を吹き込まれたのかと思いましたよ」
当時のことをセルジュが話す。
この話に、ベルナデッタも当時のフィンの様子を思い出していた。
定期考査といっても軽いものだと話しても彼は落ち着かず、「僕なんかは」と上擦った声で話していた。
彼はあのまま焦燥感に駆られるようにセルジュに過去の問題を借り、そのまま必死で勉強し、試験を受けたのだろうか。
何かに追い詰められるように……。
だけどいったい何が彼を追い詰めているのだろうか?




