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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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11/18

11:盗賊団の根城

 


 前を走る窃盗団に気付かれないよう距離を取って後を追う。

 後ろ姿は見えず、それどころか窃盗団が乗る馬の足音さえ聞こえない。常人であれば追跡はほぼ不可能だ。

 だがロニアは迷うことなく夜の闇の中を走っていた。まるで先をゆく窃盗団の姿がはっきりと見えているかのように。探す素振りすら見せない。


「凄い……、ですね。本当に匂いを、辿って……、それに、速さ、も」


 背後から聞こえてくるフィンの声に、ベルナデッタは「そうです。ロニアは凄いんですよ!」と得意げに返した。

 走るロニアの背に跨ったまま。フィンは後ろに乗っており、振り落とされないようにベルナデッタにしがみついている。最初こそ控えめに掴んでいたものの、速さに圧倒されてか今は必死さすら感じかねない腕の強さだ。


「ロニアは獣騎士隊の聖獣の中でも一位二位の速さです。追跡能力だって優れているんですよ」

「そ、そう、なんですね。ベルナ、デッタ先輩も、慣れていて」

「そりゃあ、生まれてから数え切れないぐらいロニアや家族の背に乗ってますからね。慣れないうちは喋ると舌を噛みますよ」

「気を、つけまっ……!!! 」

「気を付けていてもそうなります」


 ほらね、とベルナデッタが正面を見たまま背後のフィンに告げる。返ってきたのは返事というよりは情けない呻き声だ。

 だが落馬ならぬ落虎しなければ良し。そう割り切って考え、ベルナデッタは引き続き手綱の先にいるロニアと眼前に広がる夜の闇を見つめた。


「嗅ぎなれている匂いなら離れていても辿れるんです。それに馬の足音を聞いて追いかけてる、さすがロニア!」

「す、すごい、です、ねっ……!!」

「フィン君、舌を噛むなら無理に返事をしなくて良いですよ。それより、もっと強くしがみついてください」


 四つ足の聖獣は複数乗りがしやすく、その中でもロニアは走りが安定している。

 生まれた時からベルナデッタと共に過ごして背に乗せているため、人間を背に乗せることに抵抗が無く、それどころか背に乗る人間の動きを考慮して走ってくれるのだ。これは聖獣の中でも珍しいのだという。

 それでも乗るにはコツが必要で、初心者ともなればバランスを崩して落ちかけない。

 とりわけそれが夜の暗闇の中、前を走る窃盗団を追いかけて……というシチュエーションならば尚更だ。ロニアも気をつかってくれてはいるものの、速度を落とすわけにもいかない。


「だからもっとしがみついてください。落ちちゃいますよ」

「わ、分かりました……。と、言いたいんですが、上からの圧が……」

「上? 圧?」


 なにが? と疑問を抱き、ベルナデッタは空を見上げた。

 今日は日中から雲行きが悪くなり、夜になると薄墨色の雲が空を覆い始めていた。深夜になるとほぼ夜空一面が雲で埋め尽くされており、時折、隙間から月の光が薄く細く差し込む程度だ。

 そのせいか余計に暗い。窃盗団はこの天気をも考慮して計画を立てたのか。


 そんな暗雲とさえ言える夜の空、僅かに差し込む月の光を受けて飛ぶのは……。


「ルスタールだ」


 夜の闇に溶け込みそうな竜。

 広げられた両翼と長い尾は優雅とさえ言える。まるでふわりと浮かんでいるように軽やかで、こちらからの視線を感じたのか、もしくは偶然か、ベルナデッタが見つめているとゆっくりとその場で旋回した。


「ルスタールがどうかしました?」

「言い知れぬ圧が……、ルスタールから、というか、乗っているで、あろう、アイザック様から……、無言の圧が……」


 呟くような声色でフィンが話す。気まずそうな声と口調、きっとなんとも言えない表情をしているのだろう。

 だがベルナデッタは彼の話がよく分からず、なぜ遥か上空を飛ぶルスタールの背に乗るアイザックからの圧を感じるのかと首を傾げた。



 だがその疑問を口にする事は無かった。

 ロニアがゆっくりと速度を落とし始めたのだ。

 グル……と小さく鳴くのは目的地に到着したと言っているのだろう。ロニアのその鳴き声を聞き、共に追跡していた他の聖獣達も足を止める。

 上空を飛んでいた二頭の竜も気付いたようで、合図代わりに空を三度旋回し、ゆっくりとこちらへと降りてきた。


 二頭の竜。片方は始祖竜ルスタール。夜の暗がりよりもルスタールの黒は濃く、その中に浮かぶ赤い瞳は見る者を圧倒させる。

 ゆっくりと地面に降りると同時に、その背からアイザックが飛び降りてベルナデッタに駆け寄ってきた。


「ベルナデッタ! フィンにしがみつかれて大丈夫だったか!?」

「フィン君は何回か舌を噛んでましたが、私は大丈夫ですよ。フィン君を落とすことなくここまで連れてきました」

「いや、そうじゃなくてだな……。でも無事なら良かった。ルスタールに乗りながらずっと見守ってたんだ。……それで」


 安堵の表情を浮かべたかと思えば、一転してアイザックの表情が真剣なものに変わった。鋭い眼光で闇夜を睨みつける。

 途端に彼の纏う空気が変わった。ひりつくような、警戒や威嚇を越えて敵意とさえ言える圧が漂う。


「あの屋敷がやつらの根城か……。暗いが、廃屋敷って感じじゃなさそうだな」

「似たようなお屋敷が近くにあるけど、どれも明かりは点いてないみたいです。別荘地で季節外れってところでしょうか」


 夜の暗がりの中にあるのは一軒の屋敷。

 薄ぼんやりとしたシルエットしか見えないが、それでも立派な造りをしているのが分かる。まさに豪邸。

 だが明かりはついておらず人の気配は無い。住居であれば、仮に家主が就寝中や不在であっても使用人達の気配がしてどこかしらに明かりが灯っているはずだ。


 だがそれも無いとなると別荘の可能性が高い。

 シーズン中は家主が訪れ夜間でも明かりが灯るが、反面、シーズンオフになると人の気配がぱったりと途切れる。定期的に管理してはいるだろうが、日中に見回りだけや定期清掃のみの可能性が高い。


 そしてその手の家屋は良からぬ者のアジトになりやすいのだ。


「シーズンオフで使われていないといっても他人の住居だからな、異変があっても中に入ってまで調べるっていうのはなかなかハードルが高い。それが向こうにとって都合が良いんだろ」

「なるほど。でも私達も今回押し入りますけど、それは平気なんですか?」

「国の騎士だからセーフだ。それに、そこらへんの問題を含めて俺が呼ばれたってのもある」


 アイザックが軽く己の胸元を叩く。ニヤと口角を上げた得意げな笑みだ。

 彼は竜騎士であり、その実力から『国宝』とまで呼ばれている。彼の名は国内はおろか大陸全土、果ては海を超えた先にまで知れ渡っている。

 国宝の竜騎士。更には始祖竜の契約者でもある。さながらおとぎ話の主人公のような肩書ではないか。


 そんな存在が「強盗の根城になっていたため許可を得る前に押し入ることにした」と話せば、これに反論する者はそういないだろう。

 誰もが納得し、むしろ国宝が自分の屋敷を護ってくれたと周囲に自慢するかもしれない。


 この話に、なるほどとベルナデッタが頷いた。


「私も、私の家が悪い人たちの根城にされて、それをアイザック様が解決してくれたら凄く嬉しいです」

「本当か? それなら俺、ベルナデッタの家がピンチになったらすぐに駆け付けるからな!」

「はい! あ、でもその時は私も一緒に戦います! ひとの家を根城にするような輩は血祭りにあげてやりましょう!」

「守られるだけじゃなく一緒に戦う系女の子……、魅力が止まらない……!」


 素敵……、とアイザックが呟く。それと被さるように、「はいはいそこまで」と冷静な声が割って入ってきた。

 アイザックと同じように、己のパートナーである竜と共にここまで来たセルジュだ。

 彼の隣にはフィンも居り、セルジュは呆れたような表情、フィンは気まずそうな表情をしている。

 その背後では数人の騎士達が戦闘準備を整え出していた。


「仲が良いのは結構ですが、そこまでにしてください」

「はい! 私とアイザック様は仲良しです! ねぇ、アイザック様」


 ですよね? とベルナデッタがアイザックを見れば、彼は先程見せた警戒の表情もどこへやらヘニャリと音がしそうなほどに顔を緩ませた。

「ねぇ~」という同意の声はこれが国宝かと疑われそうなほどに緩い。のだが、ベルナデッタには見慣れたものである。


「だけど確かに、俺とベルナデッタが仲良しなのはさておき、いつまでもここで話してるわけにはいかないな。悪い奴等はさっさと捕まえて、残りの余生を一秒でも長く後悔してもらわないと」


 よし、とアイザックが気合いを入れた。強盗団捕縛を前にするにはいささか軽い気合いである。

 だがベルナデッタはそれに気付かず、むしろアイザックに感化されて「がんばりましょう!」と片手を上げた。

「おー!」と二人が気合いを入れる。……相変わらず軽いが。



「あの軽さで大丈夫なんでしょうか……」


 とは、不安そうなフィン。

 その傍らでは、指示を出し終えたセルジュが毎度の事だと言いたげに肩を竦めた。


「安心してください、フィン君。あの二人はあれで問題ありません」

「そうですか……。なんか、こう、迫力が感じられないというか……」

「あの二人に迫力を期待するのは無駄です」

「なんて酷い断言」

「それで良いんです。中に入れば分かりますから。とにかく、きみは怪我の無いよう気をつけてください」

「は、はい」


 セルジュの言葉に、フィンが緊張した面持ちで頷いて返す。


 そんな彼等の視線の先で、ベルナデッタはアイザックと共に任務完了後にハイタッチをしようと約束していた。



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