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獣騎士ちゃんは竜騎士さまに愛されすぎている  作者: さき


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10/13

10:爬虫類の聖獣と馬の骨

 珍しくて可愛いから、珍しくて格好良いから。

 だから呼ばれたのだとベルナデッタとアイザックが自画自賛し尚且つ相手を褒め合えば、セルジュが呆れを込めた目で見てきた。だが訂正する気にはならなかったのか「そうですね」と適当な相槌を返し、話を変えてしまう。

 そんな中、彼が何かに気付いて背後を見た。こちらへと駆け寄ってくるのはヴァレールだ。


「盗品を運び始めたぞ。ただ、身形を見るに末端の使い捨て要員だろうな。今捕まえてもいつものパターンだ」


 話すヴァレールの声には不満気な色がある。ここで犯行現場を押さえて捕まえたところで、結局は蜥蜴のしっぽ切りをされると分かっているのだ。

 だからこそ今は盗品を運ばせ、彼等を尾行するのが得策。……なのだが、作戦とはいえ目の前で盗みを見過ごすのは気分が悪いのだろう。状況を説明する表情は随分と渋い。今すぐにでも取り押さえに行きたいと言いたげだ。


 そんな歯痒そうな報告を聞きつつ、ベルナデッタはヴァレールの隣、何もないはずの闇夜の空間へと手を伸ばした。

 そっと差し出した手が宙を掻く……、ことはなく、ぺたりと何かに触れる。少し硬くて、だけど柔らかくもある、それでいてちょっとざらついた不思議な感触。


「ホーキンス、おつかれさま」


 手の先にある暗闇へとベルナデッタが声を掛ければ、一寸の沈黙が流れた。

 だが次の瞬間、暗闇の中に突如として緑色の球体が浮かび上がった。中央には黒い丸。それがきょろきょろと動いたのちにベルナデッタへと向けられる。

 そんな球体の出現に続くように周囲の暗がりがゆっくりと色を変え始めた。暗闇が次第に濃い緑色になり、はっきりと輪郭を縁取る。


 そうして現れたのは一匹のカメレオンだ。

 だが一般的なカメレオンではない。身の丈は人よりも大きく、むしろ人を乗せて移動できそうなほどに大きい。

 ヴァレールと共に戦う爬虫類型の聖獣、ホーキンス。戦力では他の聖獣達に劣るが、周囲に溶け込む形態変化の能力は唯一無二と言える。


「ホーキンスの形態変化はいつ見ても圧巻ですね。今はヴァレール隊長が隣に居るから分かるけど、そうじゃなかったら見失ってぶつかってたかも」

「ルスタールも暗闇に溶け込めるとはいえ、体色を変えてるわけじゃないからな。この見事な隠れようは流石カメレオンだ」


 ベルナデッタとアイザックが褒めながらホーキンスを撫でれば、理解しているのだろうホーキンスが嬉しそうに目を瞑った。

 既にその体は緑色に代わっており、それどころか体に擦り寄るロニアに合わせて橙色になろうとしている。ところどころに入っている黒い模様まで再現しているのだから流石だ。あっという間に虎柄の巨大なカメレオンになってしまった。なんてお洒落。


「あの調子だとあと十五分くらいで出発するだろうな。みすみす盗ませるのは癪だが、今は待つしかない」

「作戦通りホーキンスを向こうの馬車に着けておいてください。出発後はロニアにホーキンスの匂いを辿ってもらい、今度こそ根城を押さえます。トップが居なくても、根城にさえ行けば主要人物の一人か二人はいるはず。とらえて芋づる式に引っ張り出しましょう」


 計画を話すセルジュは普段通りの穏やかで物静かな口調だ。だが声には隠し切れない怒りと今回で片を着けるという意気込みが漂っている。

 彼もまた蜥蜴の尻尾ばかりを掴んで後手に回っていることに苛立ちを覚えているのだ。元々の性格からヴァレールのように露骨に不満を口にはしないが、こちらはこちらで分かりやすくもある。

 彼等の話を聞き、ベルナデッタは改めるようにホーキンスへと向き直った。


「一匹で悪い人達のところに行くのは怖いと思うけど、ロニアと私達で追いかけるから大丈夫だよ」


 話しかけながらそっと撫でれば、すっかりと全身を虎柄に変えたホーキンスがゆっくりと目を瞑った。

 まるで返事をしてくれているかのようではないか。いや、『まるで』ではなく、これは間違いなく返事だ。

 現にベルナデッタが「頑張ろうね」と告げると閉じていた目が再び開き、再びパチリと閉じた。つられてベルナデッタもゆっくりと目を瞬かせて気持ちを訴えてみる。

 そんなやりとりをしていると、眺めていたアイザックが一度時計を確認した。


「永遠に見ていられる光景だけど、そろそろホーキンスには行ってもらった方が良いな。ヴァレール、指示を出してくれ」

「分かった。ホーキンス、首尾通り頼む。何かあれば離脱して後続と合流してくれ」


 ヴァレールがホーキンスに告げれば、虎柄だったホーキンスがゆっくりと体全体を黒色へと変えていった。

 だがただの黒ではない。夜の闇を反映させた黒だ。これほどの形態変化は一般的なカメレオンには不可能だろう。

 夜の闇の中で見るその光景はまるでホーキンスが闇夜に溶け込んでいくかのようで、思わずベルナデッタの口から「凄い」と感嘆の言葉が漏れた。それほどまでに圧巻の変化なのだ。

 褒め言葉を聞き、最後に残っていたホーキンスの目がパチリと一度瞬き……、それすらも暗闇に消え去った。


 残されたのは真っ暗闇の空間。

 そこにホーキンスはまだいるのか、すでに去ったのかはベルナデッタには分からない。他の騎士達も同様。

 唯一暗闇の中でもホーキンスの姿を認識できるのは、契約を結んだヴァレールだけだ。

 曰く、ヴァレールだけはーー正確に言うならばヴァレールと、ホーキンスが命約を結んだ相手だけはーー、どれだけホーキンスが体色を変えようとはっきりと感知できるのだという。


「行ったな。あいつのことだからヘマはしないだろうが、何かあったら頼む」

「分かりました。ホーキンスを傷付けようとする奴は私がやっつけて、この赤いドレスの染みにしてやります!」

「逆に心配になるほどのやる気だな。まぁでも戦闘面では俺が心配する必要もないか。あとはフィンの事も頼む」


 ヴァレールが視線をやれば、今まで静かに話を聞いていたフィンが自分に話を振られたと背筋を正した。

 次いでベルナデッタに向けてうやうやしく頭を下げ「よろしくお願いいたします」と丁寧に告げてくる。

 これこそ先輩を敬う態度ではないか。ベルナデッタも気分が良くなり「任せてください」と己の胸をトンと叩いた。


「フィン君を傷付けようとする奴も私が先輩としてやっつけてあげます。この赤いドレスをもっと色濃い赤にしてみせますよ!」

「なんでお前はそうちょくちょく血の気が多くなるんだ。とにかく、フィンはベルナデッタから離れないようにな。機動力の差や聖獣の体格によっては相乗りもよくある事だ。経験しておいて損はない」

「は、はい。かしこまりました」

「それじゃあ俺は会場に戻る」


 今回の騎士隊の仕事は窃盗団の捕縛。そのために夜会に参加している。

 だが全員で窃盗団を追いかけるわけにもいかない。有事の際にと窃盗団の数人が場に残っている可能性があるからだ。

 騎士隊に所属している来賓がごっそりいなくなれば彼等もすぐに察するだろう。異常事態だと別部隊を呼ぶ恐れや、先にアジトに連絡を入れて主要人物を逃がす可能性もある。

 あるいは自棄になって夜会で暴れるか。窃盗団を捕まえるのが任務ではあるが、来賓客を護るのも任務である。そして出来るならば来賓達には事情を知られずに事を終えたい。


 ゆえに今回は二手に分かれる事になり、ヴァレールを始めとする数人が夜会に残り、ベルナデッタ達が追う事になったのだ。

 それぞれの役割を確認しあえば自然と緊張感が胸に湧き、ベルナデッタも真剣な顔付きで「捕縛は任せてください」と告げてヴァレールを見送った。


 張り詰めた空気が漂う。


 ……のだが、


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 と、慌てた様子でアイザックが制止を掛けてきた。


「ベルナデッタがフィンを連れて行くのか? ロニアに相乗りで?」

「そうですよ。今回任命されてる聖獣の中ではロニアが一番相乗りしやすいですから。アイザック様には事前に知らされてませんでしたっけ?」

「いや、俺は他の聖獣に乗るって聞いてるけど……。相乗り……、相乗りってことは……、どちらかが体を支えるのか?」

「フィン君の方が背が高いので、私が前に乗ってロニアに指示を出して、後ろからフィン君にしがみついて貰うのが一番安定しそうですね」

「ま、待て、それって後ろから抱きしめるってことだろ!? そ、そんっ、そんなの許されなっ!!」


 言いかけたアイザックの言葉が途中で止まる。否、途中で強制的に止められた。

 スッと横から伸びたセルジュの手が彼の口を押さえてしまったのだ。それどころか半ば羽交い絞めのようにしてアイザックを引きずっていこうとする。更には今まで静かに待機していたルスタールまでもが、鼻先でぐいぐいとアイザックを押して移動させようとしだすではないか。

 哀れアイザックは一人と一匹の力には敵わず、ずるずると引きずられていく。


「さぁ我々も竜騎士隊の待機場所に戻りましょう、アイザック様」

「セルジュ! お前、俺に違う情報流したな!?」

「……チッ、こうなるから事前に知らせないようにしたのに。ヴァレールのやつめ口を滑らせて……」

「舌打ち!? 上官であり国宝である俺に舌打ちした!? いや今はそうじゃなくて、ベルナデッタ、もし何かあったら直ぐに声をあげるんだぞ。俺が常に上空にいるからな! おいフィン! いや、公爵家の馬の骨! 不必要にベルナデッタに触ったらタダじゃおかないからな!」


 喚きながらアイザックが引きずられていく。

 だがその喚きも途中で「むぐっ!」という声に変わって静まってしまうあたり、本格的に口を塞がれたのだろう。

 残されたのはベルナデッタとフィン。それと、一部始終を見てもなお全く動じることなく、それぞれの役割を確認し合う獣騎士が数名。


「……馬の……骨……?」


 とは、眉根を潜めて首を傾げるフィン。

 そんな彼の隣で、ベルナデッタもまたいったい何の話だろうと首を傾げた。


「フィン君はいずれ馬の聖獣と戦う獣騎士になるという事でしょうかねぇ?」


 ベルナデッタが首を傾げながら話すも、フィンから返ってきたのは何とも言い難い返事のみ。思い当たる節は無いのだろう。

 だがいつまでも首を傾げているわけにはいかない。ベルナデッタはすぐさま気持ちを切り替え、「行きましょう」とフィンの肩を叩いた。



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