第九十六話 ゴーレム、復活なるか?
ブーン……
低い駆動音が、工房内に響き渡る。
コアから発せられる鈍い音。
それに合わせて、ゴーレムの内部機構がゆっくりと動き始めた。
そして――
「命令ヲ……ドウゾ」
ゴーレムが、言葉を発した。
「おぉー!!」
「今回は成功か!?」
周囲のドワーフたちから、歓喜の声が上がる。
そんな中。
ロックは、巨大なゴーレムを見上げていた。
「おい、ゴーレム」
呼びかける。
「俺を覚えているか?」
すると――
ゴーレムの両目が、ゆっくりとロックへ向いた。
ブブブッ……
ブーン……
内部で何かを解析する音が響く。
「貴方ハ……我ガ主……」
ピピピッ……
ゴーレムの視線が、ロックの姿を捉える。
認証。
解析。
過去の記録との照合。
そして――
「主デハナイ」
一瞬の間。
「叩キ潰スゾ!! コノ、クソヤロウ!!」
「てめえ!! 忘れてんじゃねーよ!!」
ロックが叫ぶ。
しかし、ゴーレムは淡々と答える。
「我ガ主ハ……リベット」
「……は?」
ロックが固まる。
「所有者データ……確認」
「リベット」
「我ガ主」
ゴーレムの所有者は――
リベットになっていた。
「ゴーレムハ、ドワーフ族ノ命令二従ウ」
「……」
「ゴーレムはアンタの物じゃなかったな」
ドワーフの男が豪快に笑う。
「ワッハッハー!!」
「クソッ……」
ロックは悔しそうにゴーレムを睨みつける。
しかし――
その瞬間。
ゴーレムの目から、光が消えた。
ブーン……
コア内部の駆動音が、徐々に小さくなっていく。
そして――
完全に停止した。
「あぁ……」
ドワーフの男が、肩を落とす。
「“また”ダメだったか……」
工房内に、重い空気が広がる。
先ほどまでの歓声は消え。
ドワーフたちは俯いていた。
「……また?」
エリシアが、不安そうに尋ねる。
すると――
「これで……三つ目のコアだったんだ」
ドワーフの男が答える。
エリシアは工房の奥を見る。
そこには――
丸い球体が二つ。
使われることなく、静かに転がっていた。
「なぁ……」
ロックは、停止したゴーレムの胸部に収められたコアを見る。
「動力は何だ?」
「……動力?」
ドワーフの男が首を傾げる。
「そりゃあ……電気だろ?」
そう言って、壁際を指差した。
そこには、太いコードが伸びていた。
ゴーレムの内部から伸びたコードは、壁際まで続き――
コンセントへと繋がっている。
しかし……
「……」
途中で、コードは無惨に切れていた。
「もっとコードを太くしないと……」
「いや、電力供給量を考えると……」
ドワーフたちは切れたコードを見ながら、改善案を話し合っている。
「電力供給にコードが耐えられなかったんだ」
一人のドワーフが説明する。
「だから、コア側の消費電力も減らそうとして改良していたんだが……」
奥に転がる二つのコアを見る。
「最初の物よりは、かなり改良したんだ」
そして、今回使用した三つ目のコアへ視線を向ける。
「それでも……駄目だった」
ドワーフたちは頭を抱える。
彼らの技術をもってしても。
天界のコアを再現することは出来なかった。
「天界のコアは……一体どうなってんだよ……」
悔しそうに呟く。
そもそも――
「ゴーレムを見つけた時には、天界のコアだけが消えていたんだ」
ドワーフの男が続ける。
「だから、再現しようにも……天界のコアの内部構造を見たことがない」
それが、最大の問題だった。
「なぁ」
ロックはゴーレムを見る。
「天界のゴーレムは、どうやって動いていたんだ?」
そして――
「自称ゴーレムの元主さんよ」
「……」
ロックは少し不機嫌そうな顔をする。
「……魔力だな」
「……は?」
ドワーフの男が固まる。
「あの巨大なゴーレムを……魔力で?」
信じられない、といった表情。
しかし、ロックは答える代わりに手を広げた。
ファァァ……
掌に魔力が集まっていく。
そして――
ゴーレムの足元へ触れる。
ブブブッ……
ブーン……
低い駆動音。
次の瞬間。
ゴーレムの両目に、再び光が灯った。
「命令ヲ……ドウゾ」
ロックはニヤリと笑う。
「よう……」
ゴーレムを見上げる。
「俺の魔力の味はどうだよ?」
ゴーレムは解析を開始する。
ピピピッ……
「貴方ハ……クソヤロウ」
「おい」
「イヤ……」
一瞬の沈黙。
「我ガ主」
「……調子のいい奴め」
ロックは少しだけ満足そうに笑った。
そして――
ゴーレムから手を離す。
ブーン……
魔力供給が途切れた瞬間。
再び、ゴーレムの目から光が消えた。
静まり返る工房。
その中で――
ドワーフたちは、ある一つの可能性に気付き始めていた。
「俺もゴーレムの構造に詳しいわけじゃないが……」
ロックは、ゴーレムの足を軽く叩きながら言った。
「そもそも……コアなんて呼べる代物は、最初から存在してなかったんだよ」
「……え?」
ドワーフたちが顔を上げる。
「おそらく……お前たちがコアと呼んでいる球体は、ただの入れ物だ」
ロックは、停止したゴーレムの胸部を見る。
「中に入れるんだよ。“魔石”をな」
「魔石……?」
一瞬、沈黙するドワーフたち。
そして――
「……そうか!!」
「魔力を蓄積させておくのか!!」
「なら、天界のコアを再現する必要なんてなかったんだ!!」
工房内に歓声が響き渡る。
長年悩み続けた問題。
その答えが、ようやく見つかった瞬間だった。
そんな中、一人のドワーフの男がロックの前へ歩み寄る。
「お前……」
じっとロックを見る。
「本当に、前の持ち主だったんだな」
そして――
「それに……神っていうのも、本当っぽいな」
ドワーフたちは顔を見合わせる。
やがて。
ザッ……
一斉に頭を下げた。
「里の危機を救ってくれた」
「ゴーレムの謎も解いてくれた」
「お前たち二人のおかげだ。ありがとう」
その姿を見て、エリシアは笑顔になる。
「良かったね、ロックさん」
「……」
ロックは少し気まずそうに頭を掻いた。
「ほとんど、エリシアちゃんが助けたんだけどな……」
「え?」
「いや、なんでもない」
こうして――
ゴーレム完成のため、魔石の加工などにもう少し時間が必要となった。
二人はドワーフたちに見送られながら……
ドワーフの里を後にする。
しかし。
この再会が、後に大きな力となることを――
二人はまだ知らなかった。




