第九十五話 ゴーレム、再び
ドワーフたちは、貫通した穴の補強作業に追われていた。
トントントンッ……
再び天井が崩落しないように、木材や金属の枠を組み、念入りに固定していく。
トントントンッ……
完成した通路は、人一人が通れる程度の大きさだった。
高さは、成人男性の身長ほど。
横幅も、それと同じくらい。
しかし――
補強材を入れたことで、さらに狭くなっていた。
「……なんで俺が四つん這いにならなきゃダメなんだよ……」
ロックは不満そうに呟く。
その後ろから、エリシアが急かす。
「ゴーレムに会いたいんでしょ?」
「ほら、早く……」
「いや、分かってるけどさ……」
ロックは渋々、狭い通路へと身体を滑り込ませる。
ズリ……
ズリ……ズリ……
崩落した跡を抜けると――
「……おぉ」
目の前に、広大な空間が広がった。
「奥は……こんなに広かったんだ」
そこは、人間の体育館ほどの広さ。
天井までは、およそ五メートル。
洞窟の中とは思えないほど整えられた工房だった。
そして――
その中央に。
巨大な物体が、圧倒的な存在感を放っていた。
「これが……ゴーレム?」
「あぁ……」
ロックは、ゆっくりと歩み寄る。
「俺の……ゴーレムだ……」
そこにいたのは、間違いなく。
かつて共に戦った存在。
最後には黒い鉄屑となり、戦場に残された――
あのゴーレムだった。
現在、ゴーレムの周囲には足場が組まれている。
その上では、ドワーフたちが修復作業を続けていた。
しかし――
ロックは、ふとあることに気付く。
「……これ、出られないだろ?」
工房自体は広い。
だが、唯一の出入り口は――
崩落によって、人が四つん這いにならなければ通れないほど狭くなっている。
そこへ、一人のドワーフが近付いてきた。
「当初はな」
ドワーフは、作業中のゴーレムを見上げる。
「パーツだけを工房で修理して、それを外へ運び出してから組み立てる予定だったんだ」
その視線の先。
床には、まだ組み立てられていない巨大な腕のパーツが置かれていた。
それは人間の身体よりも遥かに大きい。
当然――
今の狭い通路を通れる大きさではなかった。
「でも……」
ドワーフは苦笑する。
「あんな岩盤に塞がれちまったからな」
巨大なゴーレムを見る。
「ここで組み立てて、完成したゴーレム自身に掘削させる予定だ」
「なるほど……」
ロックが頷く。
ドワーフの男は、再び作業へ戻っていく。
カン……
カン……
工房に響く金属音。
その中心で――
眠っていたゴーレムが、再び目覚めようとしていた。
ドワーフの男が、太いロープを握りしめる。
そして――
天井を見上げた。
「降ろすぞーっ!!」
「おぉー!!」
周囲のドワーフたちが一斉に返事をする。
カラカラカラッ……
天井には巨大な滑車が設置されていた。
そこから吊るされた台が、ゆっくりと下降してくる。
まるで、簡易的なリフトのようだった。
その台へ載せるのは――
ゴーレムの巨大な腕。
「行くぞ!」
「せーのっ!!」
「よっ!!」
ドガッ……
何人ものドワーフが力を合わせ、巨大な腕を持ち上げる。
そして――
ズンッ……
台の上へと乗せた。
「よし!」
カラカラカラッ……
再び滑車が動き出す。
巨大な腕のパーツが、ゆっくりと上昇していく。
目指す場所は――
ゴーレムの肩。
「ストーップ!!」
上部の足場にいるドワーフが叫ぶ。
カラッ……
滑車が止まる。
「よし、降ろすぞ!」
肩の位置まで運ばれた腕を、慎重に本体へ近付ける。
「そっち、持ったか?」
「おぅ!」
「降ろすぞーっ!!」
ガタッ……
巨大な腕が、ゴーレム本体へと接続される。
カチャカチャカチャ……
キュッ……
キュッキュッ……
カシャ……
金属同士が噛み合う音が、工房内に響き渡る。
そして――
「よし……」
ドワーフたちは、完成へ近付くゴーレムを見上げた。
巨大な身体。
強靭な腕。
失われていたパーツが、少しずつ元の姿へ戻っていく。
しかし――
まだ一つだけ。
重要な部分が残っていた。
ゴーレムの胸部。
その中心にある――
心臓部となる空洞だけは、まだ空いたままだった。
二人が運んできた箱は、すでに工房の中央へと運び込まれていた。
ドワーフたちが慎重に囲む中――
その蓋が開かれる。
ガタッ……
ガタガタッ……
ゆっくりと蓋が外れる。
中に入っていたのは――
一つの球体。
エリシアが箱の中を覗き込む。
「へぇ……」
手を伸ばすことなく、興味深そうに眺める。
「人の頭くらいの大きさなんだね」
「ああ……」
ドワーフの男が近付いてくる。
「天界から送られてくるコアを参考に、俺たちも作ろうとしたんだが……」
そう言って、頭を掻く。
「この大きさのゴーレムなら、もっと大きなコアが必要なんじゃないかと思ってな」
ロックもコアを見る。
「天界からのゴーレム発注では、コアだけは天界から送られてくるんだ」
ドワーフの男は球体へ手を添える。
「でも……送られてくるコアは、もっと小さい」
「だから……」
少し誇らしげに笑う。
「リベットに頼んで、ようやくこのサイズまで作れたんだ」
「アイツ……」
ロックは呆れたように呟く。
「いつも工房の奥に籠もって、何やってるのかと思ったら……」
リベットは、自分の工房をココに任せ。
ずっと、このコア作りに時間を費やしていたのだった。
「これで……動けばいいがな」
ドワーフたちの視線が集まる。
そして――
リベット作のコアが、運ばれていく。
向かう先は。
ゴーレムの胸部。
心臓部。
カチャ……
カチャカチャカチャ……
巨大な空洞へ、球体のコアが収められる。
続いて――
ゴーレムの四肢へ伸びるケーブルを接続していく。
カチッ……
カチッ……
最後に。
頭部へ繋がるケーブルを接続する。
「よしっ!」
ドワーフの男が叫ぶ。
「繋がったぞ!!」
「スイッチを入れろー!!」
「おぉー!!」
一斉に声が響く。
そして――
ゴーレムの背中にある起動スイッチが押される。
カチッ……
一瞬の静寂。
次の瞬間。
ブブブッ……
ブーン……
低い駆動音が工房内へ響き渡る。
そして――
ゴーレムの両目に、淡い光が灯った。




