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第九十四話 救助

 人の限界。

 それを遥かに超えた威力。

 放った本人の身体すら、壊れてしまうほどの一撃。

 エリシアの拳は――

「……上手く……いったね」

 ――無傷だった。

「…………え?」

 ロックは、呆然と立ち尽くす。

 目の前で起きた出来事を、理解出来なかった。

(限界……突破……?)

(エリシアちゃんが……?)

 気付けば――

 ロックの手は、砂鉄岩から離れていた。

「ちょっと、ロックさん!」

 エリシアが振り返る。

「ダメじゃないですか。手を離したら……」

「……あ」

 電気を流していたことすら、忘れていた。

「は、はい……すんません……」

 ロックは慌てて、再び砂鉄岩へ手を伸ばす。

 しかし――

 突き刺さった掌底の跡。

 そこには、傷一つ付いていなかった。

 だが……

「……でも」

 エリシアは砂鉄岩を見る。

「内部に衝撃が伝わった感覚はあります」

 そして――

「何発か打てば……」

 再び構えを取る。

 その姿を見たロックは、すぐに手へ魔力を集めた。

 ファァァ……

 魔力を電気へ変換する。

 パリッ……

 砂鉄岩へ電流が流れ込む。

 そして――

 三度目の掌底。

「ハッ!!」

 ドガンッ!!

 洞窟全体が震えるほどの衝撃音が響く。

 先ほどをさらに上回る一撃。

 その瞬間――

 パラッ……

 黒い鉱石の欠片が、僅かに落ちた。

「や……やった?」

 エリシアが呟く。

「少し……亀裂が入った……?」

 二人は顔を見合わせる。

 エリシアの拳は、今も癒しの光に包まれていた。

(無傷に見えるけど……)

(本当は、痛みに耐えて……すぐ治しているだけ……)

 ロックは、エリシアの笑顔を見る。

 満面の笑み。

 それが、余計に胸に刺さった。

(無茶しやがって……)

 それでも――

 ロックもまた、笑顔になる。

 周囲のドワーフたちも、次々と声を上げ始めた。

「うおぉぉぉーっ!!」

「や、やったのか……?」

「亀裂が入った……ってことは……」

 誰もが諦めていた岩盤。

 そこに刻まれた一本の亀裂。

 それは――

 絶望の壁に生まれた、希望の一筋だった。

「えぇ」

 エリシアは、砂鉄岩を見つめる。

「割れるよ」

 その満面の笑みが――

 ドワーフの里に、再び希望を灯した。


 ロックは、地面に落ちた欠片を拾い上げる。

 その表面へ――

 パリッ……

 微かな電気を流し込む。

(……)

 すると……

 ボロ……

「あっ……」

 砂鉄岩の欠片の表面が、わずかに崩れ落ちた。

(これって……)

(固まった砂鉄を……分解したのか?)

 ロックは、ゆっくりとエリシアを見る。

 すると――

 目が合った。

「身体は大丈夫? エリシアちゃん」

「大丈夫!」

 エリシアは笑顔で答える。

「まだまだいけるよ!」

 そして――

 再び構える。

 その姿を見たロックも、すぐに砂鉄岩へ手を伸ばした。

 パリッ……

 電気が流れ込む。

 ドワーフたちは固唾を呑みながら、その光景を見守っていた。

 そして――

「ハッ!!」

 ドガンッ!!

 凄まじい衝撃音が洞窟内に響き渡る。

 ……

 ……

 ……

 ドガンッ!!

 ……

 ……

 ……

 ドガンッ!!

 何度も繰り返される一撃。

 そのたびに、巨大な砂鉄岩へ衝撃が伝わっていく。

 そして――

 ピシッ……

「……!」

 小さな亀裂。

 それは一瞬だった。

 しかし――

 ピシピシピシッ!!

 亀裂は、まるで生き物のように広がっていく。

 黒い岩盤全体へ走る、無数の亀裂。

 ドワーフたちは息を呑む。

 そして――

 ガラガラガラッ!!

 轟音。

 長い年月をかけて形成された巨大な砂鉄岩が、ついに崩れ始める。

 黒い壁のように立ちはだかっていた岩盤が――

 ゆっくりと、崩れ落ちていった。


「うおぉぉぉーっ!!」

 ドワーフの里が、歓声に包まれる。

 長い間、立ちはだかっていた黒い壁。

 その障害が消えたことで、希望が戻ってきた。

 そして――

「崩れた岩を運べ!!」

「おぉー!!」

 屈強なドワーフたちが、一斉に動き出す。

 ガラッ……

 ガラガラッ……

 巨大な砂鉄岩の欠片を、次々と運び出していく。

 その作業は、驚くほど早かった。

 あっという間に岩盤の跡には、奥へ続く空洞が姿を現す。

 しかし――

 その先に待っていたのは……

「土砂か……」

 岩盤の崩落によって流れ込んだ、大量の土砂だった。

 それを見たドワーフたちは、拳を握る。

「土砂なら、俺たちでも行けるぜ!」

「行くぞ! お前ら!」

「おぉー!!」

 再び、ドワーフたちが動き出す。

 ザッザッザッ……

 ザッザッザッ……

 スコップが土砂を掘り進めていく。

 掘り出された土砂は――

 コロコロコロ……

 コロコロコロ……

 一輪の車輪が付いた運搬具。

 “猫車”

 それに乗せられ、洞窟の外へと運び出されていく。

 ザッザッザッ……

 コロコロコロ……

 ザッザッザッ……

 コロコロコロ……

 時間はかかる。

 それでも――

 誰一人、手を止めなかった。

 そして、しばらくすると……

 ザッ……

 ザッザッ……

 パラパラッ……

「……お?」

 掘っていたドワーフの手が止まる。

 スコップから伝わる感触が変わった。

 土砂の奥。

 何かがある。

 ザッザッザッ……

 パラパラッ……

「おぉ……」

 さらに掘り進める。

 そして――

 サクッ……

 スコップが、深く突き刺さった。

 次の瞬間。

 崩れた土砂の向こう側から――

「……おーい……」

 小さな声が聞こえた。

 一瞬、静まり返る。

 そして……

「おーい!!」

 向こう側から、はっきりとした声が響く。

「貫通したぞ!!」

「よっしゃぁぁぁ!!」

 歓声が洞窟内に響き渡る。

「早く土砂を全部運び出せ!!」

「急げ!!」

 ドワーフたちは、さらに勢いを増して動き出した。

 そして――

 閉じ込められていた仲間たちは、無事に救出された。

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