第九十二話 ドワーフの里の危機
その時――
一人のドワーフが、ゆっくりと歩いてきた。
ロックの顔を見ると、無言で手の平を突き出す。
「……証拠は?」
「……は?」
意味が分からず、ロックは首を傾げる。
「だから、お前のゴーレムだっていう証拠は? ほれっ」
さらに突き出される手の平。
「ぐっ……」
ロックは言葉に詰まる。
「あれは、俺たちが天界に卸したゴーレムだ。つまり、所有者は神様。お前みたいな人間の持ち物なわけねーだろ」
ドワーフの男は、フンッと鼻を鳴らす。
そして、疑いの眼差しでロックを見上げた。
「俺は神だ!」
(……元だけど……)
ロックが胸を張る。
「何!?」
その瞬間――
ザワザワ…… ザワザワ……
周囲にいたドワーフたちが騒ぎ始めた。
「あ、あんた……本当に神様なのか?」
ドワーフの男が、ロックをじっと観察する。
しかし――
「……」
視線はすぐに隣へ移った。
「こっちの方が神様っぽいけどな……」
エリシアをじろじろと見る。
「やめろ! エリシアちゃんをそんな目で見るなよ!」
ロックが慌てて間に入る。
そして、深いため息を吐いた。
「分かった……証拠を見せてやる」
ロックは意識を集中させる。
「んっ……」
魔力を高めようとするが――
今のボディでは、本来の出力を発揮することは出来ない。
そして、何とかできたのは……
ジジジッ……
「おい、セラ?」
「……あ、せんぱい、久しぶりっす」
天界との通信だった。
「お前、まだ魔力切れなのか?」
「前回の戦闘で使い切っちゃったっすからね〜……今は節約中っす」
「そうか……」
ロックは少し間を置く。
「俺も限界だから切るわ」
「え? ちょっ――」
ギシギシ……
ロックのボディが軋み始める。
「え? ちょ……待ってくださいっす!」
プツンッ……
通信が途切れた。
残されたドワーフたちは、何が起きたのか理解できず固まっていた。
「どうだ?」
ロックは胸を張る。
「神との通信だぞ」
そして、得意げな顔でドワーフの男を見下ろした。
「やっぱり、こっちの方が神様っぽいぞ……」
ドワーフの男たちは、エリシアを下からじろじろと見上げる。
「だから、そんな目で見るのはヤメロッ!!」
ロックは慌てて、エリシアの周りに集まるドワーフたちを追い払った。
「あ、あの……」
エリシアは困ったように口を開く。
「ロックさんも、セラさんも……本当に神様なんだけど……」
恐る恐る伝えると――
「本当に……神?」
「……」
ロックは、ドワーフたちを見る。
「エリシアちゃんの言葉は信じるのな……」
明らかに不満そうな顔をする。
しかし――
ようやく話は本題へと入った。
「ゴーレム本体を作っていた工房の洞窟がな……」
ドワーフの男は、奥へと視線を向ける。
「天井崩落で塞がっちまったんだよ……」
「だ、大丈夫なの?」
エリシアが心配そうに尋ねる。
「硬い岩盤が洞窟を完全に塞いじまってな……奥の工房まで行けなくなったんだ」
その言葉を聞き、ロックはドワーフの持つ掘削機へ視線を向ける。
「……それ、折れてるのか?」
掘削機の先端は短く、断面は歪に欠けていた。
よく見ると――
周囲のドワーフたちが持つ掘削機も、同じような状態だった。
「何人か……あっちに閉じ込められちまった……」
ドワーフたちは、悔しそうに俯く。
「何か……方法はないの?」
エリシアの問いに、ドワーフの男は苦しそうに答える。
「岩盤を壊せねぇなら、別の横穴を掘るしかない」
そして、手に持った掘削機を見る。
「だが……」
「仮に掘削機が無事だったとしても、時間がかかり過ぎる」
男は拳を握る。
「だから、僅かな可能性に賭けて岩盤を壊そうとしたんだ……」
「……でも、ダメだったってことか」
ロックの言葉に、ドワーフは静かに頷いた。
そして――
その場にいた全員の視線が、ロックへ集まる。
「神様なら……何とか出来るだろ?」
「俺?」
ロックは自分を指差す。
「いやいやいや……」
そして――
「ムリムリムリ!!」
凄まじい勢いで手を横に振った。
ブンブンブンッ!!
そのあまりの勢いに――
ギシッ……
ロックの手首から、不穏な音が響く。
「……」
「……」
ドワーフたちは、無言でその様子を見つめていた。
誰もが――
諦めていた。
ロックでさえ、この状況を打開する手段を見つけられずにいた。
(せめて……カスタムボディだったら……)
今の身体では、本来の力を発揮することすら出来ない。
重苦しい空気が、洞窟内を支配する。
しかし――
一人だけ、諦めていない者がいた。
「ロックさん!」
エリシアが声を上げる。
「現場も見ないで、何を諦めてるの?」
「……」
ロックは言葉を失う。
そしてエリシアは、周囲のドワーフたちを見渡した。
「崩落した場所に案内して」
その声が洞窟内に響き渡る。
暗く沈んでいた空気が――
ほんの少しだけ、明るくなった気がした。
「あぁ……こっちだ」
ドワーフの男が頷く。
二人は、洞窟のさらに奥へと進んでいく。
そして――
「……黒い……鉄の塊……?」
エリシアの目の前に現れたもの。
それは、巨大な黒い壁だった。
黒色の表面は、僅かな光沢を放っている。
まるで鉱石そのものが、洞窟を塞ぐように立ち塞がっていた。
「鉄を多く含んでいる……」
ドワーフの男が説明する。
「だが、それ以上に厄介なのは……」
その視線が、黒い岩盤へ向く。
「磁力を含んでいることだ」
「磁力……?」
エリシアが聞き返す。
「鉄との相性が良くてな……」
ドワーフの男は、悔しそうに拳を握る。
目の前の鉱石が――
黒く鈍い光を放つ。
「普通の掘削じゃ……歯が立たねぇ」
そして――
「……割れないんだ」




