第八十話 ボディを直そう
ロックとエリシアは、街へと戻ってきていた。
見慣れた街並み。
懐かしさを感じる景色だが……
いつ訪れても、そこには変わらない賑わいがあった。
「お? ロックさん。ずいぶん久しぶりじゃないか?」
「あら、本当ね〜」
歩いていると、すぐに街の人々から声をかけられる。
予備のボディとはいえ、ロックは相変わらずの整った顔立ちをしている。
細かな違いに気付く者はいなかった。
もちろん、一緒にいるエリシアも同じだった。
「そのボディ……いくつあるの?」
「う〜ん……」
ロックは腕を組み、考える。
「カスタムしてるボディは、高身長タイプだろ? それから標準タイプ」
指を一本ずつ折っていく。
「子ども用に低身長タイプ。あとは細マッチョとゴリマッチョ……」
「えっ……」
エリシアの表情が引きつる。
「それをベースに、ヘアスタイルが標準、ロング、ショート……」
さらに指を折りながら、
「だから……全部で十五体くらいかな」
「……」
そこで、エリシアは思い出した。
人形師リベットの工房で見た、ロックが注文した設計書。
(あれ……本当に全部作ったんだ……)
呆れたような視線をロックへ向ける。
そんなエリシアの視線に気付かず、ロックはいつも通り歩いていた。
街の中心地。
そこでは、多くの冒険者たちが集まっていた。
この世界には、魔王軍と戦う勇者たちとは別に、様々な依頼をこなし、未知の場所を探索する者たちがいる。
――冒険者。
彼らは、魔王軍との戦いに直接参加することはない。
それには、彼らなりの理由があった。
『俺たちは国の命令で命を張るつもりはない』
『俺たちは、俺たち自身の探究心に命を懸けるんだ』
その探究心は、人間領だけではない。
未知なる魔王領へも向けられている。
そんな冒険者たちの間で、ある話題が広がっていた。
「なぁ……ついに勇者軍が、世界樹より先の魔王領を奪ったって話、本当か?」
「みたいだな……」
「だったら……俺たちみたいな中級冒険者でも、安全に探索できるんじゃないか?」
「そうかもしれないな……」
「くぅ〜……行ってみたくねぇか?」
「……でも、魔王軍に奪い返されたらどうするんだよ。もう少し様子見だ」
「ちぇ〜……」
数名の冒険者が話しながら、ロックたちの横を通り過ぎていく。
勇者軍の勝利の報せは、街の人々だけではなく……
未知を求める冒険者たちにも、確実に広がっていた。
二人は、人形師リベットの工房へとやって来ていた。
カン、カン……
キィィィン……
カチャ、カチャ……
いつものように、金属を加工する音が外まで響いている。
「もう聞き慣れた音だな……」
工房の入り口は大きなガラス張りになっており、中の様子がよく見えた。
職人たちが忙しなく作業する姿。
変わらない光景だった。
カランコロン――
「こんにちは」
二人が店内へ入ると、カウンターにはココが座っていた。
「あっ! ロックにエリシア、いらっしゃ〜い!」
ココは工具を手にしたまま、元気よくカウンターから飛び出してくる。
「これを直してもらいたいんだ……」
ロックは作業台へ向かい、手の平をかざした。
魔力を高める。
ファァァ……
収納魔法。
そこから――
バラバラになったボディのパーツが姿を現す。
ギシギシッ……
「くっ……」
しかし、ロックの表情が歪む。
カスタムされていない予備ボディでは、収納魔法を維持するだけでも限界だった。
カラン……
カランコロン……
カラン……
・・・
・・・
・・・
「ふぅ……ギリギリ耐えられたぜ……」
全てのパーツを取り出し終えたロックは、ココへ向き直る。
「これ、修理を頼む」
作業台の上には、大量のボディパーツ。
それを見たココの表情が、次第に険しくなっていく。
「ロック……」
少し間を置いて。
「カスタムしたボディの修理は……厳しいよ」
「お、おい……厳しいって何だよ!」
ココは静かに首を振る。
「そのままの意味だよ……」
そう言って、カウンターへ戻っていく。
「お前が無理なら……仕方ねぇ……リベットに――」
しかし、その言葉にもココは首を横に振った。
カタンッ――
その時。
工房の奥から足音が響く。
騒ぎを聞きつけたリベットが姿を現した。
「カスタムしたボディの修理か……」
作業台の上を一目見ただけで、状況を理解する。
「……厳しいな」
「……お前でもか?」
「ん?」
リベットは首を傾げる。
すると――
ココがカウンターから一枚の紙を持ってきた。
「ロック……これ……」
差し出された紙を受け取る。
そこに書かれていた文字は――
『修理代 百万セイン』
「…………」
プルプルプルプル……
ロックの手が震える。
「厳しいーっ!!」
工房内に、ロックの叫び声が響き渡った。




