表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第八話 死後の世界は意外と身近

 ――暗い。

(ここは……? 何が……)

 意識だけが、そこにあった。

(何も……見えない。何も……聞こえない)

 自分がいつからここにいるのか。

 どうしてここにいるのか。

 何も分からない。

(声が……出ない……)

 時間の感覚すら、失われていた。

 ……。

 ……。

 ……。

 ポッ。

 小さな光が、一つ灯る。

(光が……! あそこに……何かがあるのか?)

 自分が近づいたのか。

 それとも、光が近づいてきたのか。

 分からないまま――

 周囲が、徐々に明るくなっていく。

(うぅ……ま、眩しい……)

「……、……っす」

(す?)

「お〜い、聞こえるっすか〜?」

(この間抜けな喋り方……どこかで……)

「マニュアル通りにいくっすよ」

(マニュアル?)

「ようこそ異世界へ。君は勇者として召喚されたっす」

(勇者……? 何を言ってるんだ……?)

「あれ? 何でまだ魂の姿なんすか?」

 ジジジッ――

「パパ。この魂、現世の姿がないっすか?」

 ジジジジジ……

「分かったっす」

(何が分かったんだよ……)

「君には役職を一つ、与えるっす」

(役職……?)

 ――その瞬間。

 記憶が、フラッシュバックする。

 光。

 召喚。

 そして――消滅。

(あっ……思い出した!)

「これっす」

【不死者】

(お前……セラだろ! 俺だ! ロックだ!)

「この役職を使って、魔王領の占拠を頑張るっす」

(待て! 俺は神だ! 勇者なんて……駒にされるなんてゴメンだ!)

「そのままだと不便そうっすから、これ使うっす」

 セラが指差した先。

 そこには――

 見覚えのある“身体”が、無造作に置かれていた。

 やたらと外見に特化されたボディ。

(お、俺のボディじゃねーかよ……)

「これは今は亡きせんぱいの遺品っす。大切に使うっす」

(勝手に殺すな! 死んでるけど!)

 意識が、強く引き寄せられる。

 抗う間もなく――

 ボディへと、吸い込まれていく。

 ピクッ。

 指先が、微かに動いた。

 そして――

 ――視界が開ける。

「くっ……てめぇ……セラ!」

「え……? 何で私の名前を知ってるっすか?」

「俺だよ! ロックだ!」

「へ……?」

 セラの目が、大きく見開かれる。

「せんぱい……っすか?」


 白猫の姿のセラを、ロックは睨みつけた。

「お前……どういうつもりだ!」

「知らなかったっすよ。やたら強い野良の魂がいたから、勇者にしただけっす」

「神なんだから当たり前だろ!」

(確かに……パパなら分かったはずっす……まさか……)

「ま、まぁ魂になったら、神も人も平等っす」

「平等っす、じゃねーよ!」

 ロックの怒声が響く。

 だが、セラはどこ吹く風。

「イケメンボディがあって良かったっすね」

「あぁ……じゃねーよ! それ、俺の私物だぞ!」

 怒りは収まらない。

 しばらく言い続けていると――

 気づけばセラは木の上へと避難し、くるりと丸くなっていた。

(本当は……優秀な魂に【デビルスレイヤー】を与えて、領土を押し戻す作戦だったっすのに……)

 ロックには聞こえないくらい小さな呟き。

「チッ……」

 ロックは舌打ちする。

「仕方ねーな。さっさと宝玉を十個集めて帰還してやる」

「そうっすね。頑張るっす」

 やる気のない応援が、上から降ってきた。

「それより……なんで勇者を補充したんだよ。五人いただろ?」

「それがっすね……」

 セラは木の上で寝転がったまま、ぽつりと語り始める。

「せんぱいが消滅したあと、あのマフィア君が単身で魔王領にカチコミしたっす」

「カチコミ……?」

「血の気、多すぎっすね。会社史上最短勇者っす」

「……あいつ、そんな雑魚だったのかよ」

「せんぱいが【ゴッドスレイヤー】なんて役職を与えるからっすよ」

「なんでだよ。オススメのデビルスレイヤーより強そうだろ」

「神にしか効かないっす」

「……何?」

 ロックの動きが止まる。

「スキルのレア度も低いし、格安じゃないっすか」

「た、確かに……安かったし、名前のインパクトで決めたが……」

「結果、マフィア君は――」

 一拍。

「1キルっす」

「……」

「せんぱいだけ倒して終わりっす」

「……は?」

 沈黙。

 そして。

「……俺だけ?」

 自分が唯一の犠牲者だった事実に、ロックは絶句した。

「まぁでも、せんぱいなら大丈夫っすよ」

 軽い調子で続けるセラ。

「神のスキル、使えるんでしょ? 宝玉なんてすぐ集まるっす」

「だな……すぐに職場復帰してやる」

 少しだけ自信を取り戻しかけた、その時。

「せんぱい」

「なんだよ」

「うちの会社、死亡したら退職対象っす」

「……何?」

「なので今のせんぱいは――」

 セラは、にこりと笑った。

「無職っす」


 ジジジジジジッ――。

「せんぱい。通信が入ったんで、ちょっと待つっす」

「俺にも聞こえるようにしろよ」

「神の声は常人には聞こえないっす。だから下界用のボディ使って交流するんすよ」

「チッ……俺を常人扱いかよ……」

 ロックは舌打ちする。

 セラはそのまま、天界との通信を開始した。

「え?……そうっすけど……」

 様子がおかしい。

 いつもの軽い調子ではない。

「マジっすか? それ、詰んでるじゃないっすか……」

 ロックの嫌な予感が膨らんでいく。

「うん、うん……はぁ……分かったっす」

 通信が切れる。

 セラは一拍置いてから、ロックの方を見た。

「せんぱいの借金……約五千万セインらしいっす」

「は?」

 思考が止まる。

「ちょっと待て……そんなに!?」

 驚愕。

 だがすぐに、別の違和感に気づく。

「いや……それより、“らしい”って何だよ」

「?」

「俺、お前からしか借りてねーぞ」

「……せんぱい」

 セラがジト目になる。

「歳下の女の子から五千万も借りるなっす……」

「社長令嬢だろ!?」

「社長令嬢がお金持ってると思ったら大間違いっすよ」

 きっぱり言い切る。

「パパがお金持ちなだけで、娘はそんなにお小遣いないっす」

「じゃあ……俺が借りた金は……?」

 一瞬の沈黙。

 そして。

「会社からっす」

「なんだって……?」

 ロックの顔が引きつる。

「せんぱい、気づいてなかったんすか?」

「何をだよ……」

「給料から天引きされてたっすよ」

「……は?」

 理解が追いつかない。

「あれは、領土減少の減給と……税金……だろ?」

「天界に税金はないっすよ、せんぱい……」

「な……」

 言葉が、出ない。

「なん……だと……?」

 すべてが繋がる。

 給料の異常な少なさ。

 減り続ける残高。

 そして――

 積み上がっていた借金。

「どうりで……給料、少な過ぎると思ってたんだ……」

 ロックはその場に崩れ落ちた。

 無職。

 借金、五千万。

 状況は、これ以上ないほど詰んでいた。


「でも……よ。退職金があるだろ……?」

 かすかな希望。

 だが――

「それを差し引いて五千万っす」

「が……」

 ロックの口が、開いたまま閉じない。

「でもよ〜……俺が勇者やってたら、借金……返せないぜ」

(返す気ないけど)

「領土一カ所につき、百万セイン借金を減らすって話っす」

「領土一カ所……百万!?」

 ロックの目が見開かれる。

「だから、せんぱいはまず領土を五十カ所占拠して、借金返済を目指すっす」

「すっす……って……簡単に言うなよ……」

 領土は全部で百カ所。

 人間領と魔王領に、半分ずつ所有している。

 ――本来なら。

「今の人間領、領土は三十カ所くらいしかないっす」

「……ってことは」

「魔王領は七十カ所あるっす」

 嫌な現実が突きつけられる。

「つまり、せんぱいは――」

「魔王領の大半を占拠しろってことか……」

 普通なら、不可能。

 だが――

「並の勇者じゃ無理だが……俺は……神だ!」

 ロックの目に、ギラリとした光が宿る。

「五十と言わず――七十、全部取ってやろうじゃねぇか!」

 拳を握り、高らかに笑う。

「フハハハハッ!!」

「その通りっす!」

 セラもノリよく頷く。

「せんぱい、チョロいっす!」

「お前……今、どっちの意味で言った?」

「せんぱいのやる気を出させるのが、って意味っす」

「てめぇ……」

 ロックの額に青筋が浮かぶ。

 拳を握りしめ――

 そのままセラへ振り下ろす。

 だが。

 ひらり。

 白猫の身体が、軽やかにそれをかわす。

「神は“常人”のせんぱいには手出せないっすからね〜」

 セラは尻尾をユラユラとさせながら続けた。

「口は出すっすけど」

「このやろう〜っ!!」

 ロックは、苛立ちのまま――

 神のスキルを使おうと、力を溜め始めた。

 その瞬間。

 ギシッ……。

「……?」

 嫌な音が鳴る。

 ギシッ、ギシッ……。

 関節が、軋む。

「お、おい……?」

 ギシッギシッギシッ――

 バーンッ!!

「グハッ!!」

 次の瞬間。

 ロックの身体は――

 全ての関節が弾け飛び、バラバラに崩壊した。

「せんぱい?」

 白猫のセラが、首を傾げる。

 その足元には。

 ただの“壊れたイケメンボディの残骸”が、転がっていた。

「言い忘れてたっす。今のせんぱいは神から除外された身なので、神のスキルの負荷が半端ないっす」

「先に言えよ!!」

 頭部のみになったロックは、身動きが取れないまま叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ