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第七話 勇者は正しく選びましょう

 ロックは“オススメ”と書かれた紙を眺めながら、セラへと視線を向けた。

「なんでお前が代理なんだよ?」

「聞いてないっすか? 私の配属先、せんぱいの補佐ですよ」

「補佐ぁ?」

 勇者管理業務の大半を担い、担当の神が不在の際には――

 “代理”として単独で業務を遂行する権限を持つ役職。

 つまり。

 ロックがサボっている間も、普通に仕事が回る仕組みだった。

「お前、今日出勤してねーじゃねーかよ……」

「配属初日なんで、説明会に出てたっす」

 さらりと答えるセラ。

 そして、ほんの一瞬だけ。

 視線がロックから、手元の紙へと移る。

 ――その内容を、彼女は知っている。

「何勝手にあいつ戻してんだよ!」

「規定通りっす」

 即答だった。

 一切の迷いも、罪悪感もない。

「せんぱい――残業っす」

「はぁ? 明日にしようぜ」

「ダメっすよ。勇者の不在は戦況に直結するっすから」

 にこりと笑う。

「早く行くっすよ〜」

「クソッ……!」

 逃げ道はなかった。

 結局、ロックは渋々と職場へ向かうことになる。

 その足取りは――

 妙に軽い。

「……あれ?」

 一歩、また一歩。

 やけに身体が軽い。

 弾むように進む足。

「なんでこんな……」

 ふと、思い出す。

 ――さっき食べた料理。

「……バフ、まだ効いてんのかよ」

 本人の気持ちとは裏腹に。

 ロックの足取りは、やけに軽やかだった。


 職場に着いたロックは、一枚のマニュアルをセラへと手渡した。

 受け取った、その瞬間。

 ふわり、と紙が光の粒子へと変わり――そのままセラの身体へ吸い込まれていく。

「マニュアルはゴチャゴチャ書いてあるけどな……簡単に説明すると――」

 ロックは片手をかざした。

 次の瞬間。

 神のスキルが発動し、手元に一冊の本が現れる。

「勇者の召喚方法は二つある。まずは、このカタログだ」

 パラパラとページをめくる。

 そこに並ぶのは、顔写真と経歴。

 まるで履歴書のような一覧だった。

「ここから選ぶんだ」

「へぇ〜……いっぱいいるっすね〜」

「優秀な魂は値段が高い。懐具合で決めるのもアリだな」

「実費っすか?」

「基本は経費だが……限度額を超えたら実費だ」

「なるほどっすね〜」

 セラも自分のカタログをめくりながら、こくりと頷く。

「で、もう一つ。カタログに載る前の魂を直接召喚する方法だ」

「そんな魂、どこにいるんすか?」

「それは偶然だな。出会うしかない」

「へぇ。違いは?」

「安い。たまに当たりも引ける」

「いいっすね〜」

「ただし――ハズレもある。カタログは調査済みだが、野良は情報ゼロだからな」

「なるほどっすね〜」

 セラは納得したように頷いた。

「で、勇者の補充はどうするっすか?」

 レインの穴埋めは、急務だ。

「カタログから決めるしかねぇ……が」

 ロックは、例の“オススメ”の紙へと視線を落とす。

「元騎士……三割引、ねぇ」

 興味なさそうにページをめくる。

「元将軍……二割引、再入荷予定なし、か……」

 強い魂ほど希少。

 だが――値段も高い。

「元最強ソルジャー……三割引……」

 ――クシャッ。

 紙を丸め、そのままゴミ箱へ放り投げた。

「な……何をしてるんすか!?」

「高い」

「オススメっすよ!?」

「実費で百万以上の負担が出る」

「……経費、何に使ったんすか……」

 嫌な予感しかしない問い。

 ロックは、ビシッとポーズを決める。

「この椅子、この端末――そして、俺の仕事着」

「……」

 一瞬の静寂。

「あ……アホや……」

 セラはその場に崩れ落ちた。

(ヤバいっす……こっちの作戦が……)

 小さく呟くセラの声は、ロックには届いていなかった。


 ロックは、普段使っているカタログをめくる。

 そこには――大きく丸印のついた魂。

 すでに、目星はついていた。

「このマフィアの魂、安くて強そうだ」

「え……マフィアっすか……?」

「いいんだよ。男の勇者なんてそんなもんだ」

 ロックは迷いなく、そのページを破り取る。

 瞬間。

 紙は光となって消えた。

「これで下界に召喚される。行くぞ」

「……分かったっす」

 二人は、それぞれ下界用のボディへと切り替える。

 ロックはスーツ姿のイケメン。

 そして――

 セラは、白猫だった。

「なんで猫なの?」

「可愛いじゃないっすか」

「……やっぱ神の女は分からんな……」

 そのまま二人は、エレベーターで下界へと降りていく。

 到着した時には、すでに召喚用の魔法陣が展開されていた。

「召喚先は前の勇者の場所だ。課金すれば領土内の好きな位置に出せるけどな」

「課金、エグいっすね」

「だろ? お前の親父に言っとけ」

「パパに言っとくっす」

 軽口を叩く、その最中。

 魔法陣の光が、徐々に強まっていく。

「勇者が来たら見てろ。手本を見せてやる」

「うっす」

 ――そして。

 光が弾けた。

 一人の男が、姿を現す。

「こ、ここは……?」

「ようこそ異世界へ。お前は勇者として召喚された」

「はぁ!? 何言ってやがる!」

 荒い口調。

 明らかに気性が荒い。

 だが、ロックは気にしない。

 マニュアル通り――いや、半ば強引に話を進める。

「お前には、この役職を与える」

 ロックの手が光る。

 そして――

【ゴッドスレイヤー】

「神すら殺せる強力な役職だ」

(せんぱい!! オススメは【デビルスレイヤー】っすよ!! 全然違うじゃないっすか!!)

 セラの念話が飛ぶ。

 だが、遅い。

「神を……殺せる……?」

 マフィアの男の目が、ぎらりと光る。

「特別な役職だ。光栄に思え」

「あぁ……試してみていいか?」

「何?」

 次の瞬間。

 男の手から、黒い渦が生まれた。

 ズズズッ……

 空間を歪ませながら、それは蠢く。

(せんぱい、アホすぎるっす! 私も神ってバレたらヤバいっす!)

 セラは、その場から距離を取った。

「おいっ、セラ……?」

 ロックが振り向く。

 その時。

「な……」

 フッ――

 一筋の光が、渦へと吸い込まれた。

 ――一瞬だった。

 次の瞬間。

 ドサッ。

 主を失ったボディが、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 音もなく。

 あまりにも呆気なく。

 ――神が、勇者に殺された瞬間だった。

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