第七十七話 これが俺の……
上空へ回避したロックは、無数の光の粒子の中にいた。
それは、つい先ほどまで“神の鉄槌”をこの世界に顕現させていたもの。
天へ還っていく光の中で、ロックは静かに考える。
(今の俺じゃ……“神の鉄槌”を出すことは出来ない……)
今の身体では、召喚する前に耐え切れず壊れてしまう。
(セラの魔力が足りない……)
光の粒子は、ロックを避けるようにして天へ昇っていく。
その一粒一粒を、ロックは掴み取るように手を伸ばした。
そして――
ギュッ……
握りしめた粒子へ、自らの魔力を流し込む。
まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、光の粒子がロックの魔力へ集まり始めた。
「だったら……」
ロックの魔力が高まっていく。
「俺の魔力で……」
集まった粒子が、手の中で徐々に形を成していく。
「“神の鉄槌”を再顕現化してやる!!」
さらに魔力を注ぎ込む。
一度は天へ還ろうとしていた光の粒子が、再びロックの元へ集まってくる。
「俺も……神だ!!」
その瞬間――
バリッ……
光が収束する。
「これが……」
ロックの手の中に、“それ”が姿を現した。
再び質量を持った神の鉄槌。
ズンッ……
その重量が、重力に引かれて落下を始める。
「これが俺の……!」
ロックは両手で握りしめ、さらに魔力を込める。
限界を超えた魔力が、鉄槌を一筋の光の杭へと変えていく。
「“神の鉄槌”だぁぁぁーっ!!」
ゴゴゴォォォ……
真下には、満身創痍となったキマイラ。
もう動くことすらままならない。
コアを守るものは、己の肉体だけだった。
ゴゴゴォォォ……
光の鉄槌が、一直線に落下する。
「いっけぇぇぇーっ!!」
ドゴンッ!!
一瞬――
世界から音が消えた。
そして……
ブワァァァーーッ!!
凄まじい衝撃波が、戦場全体へと広がっていった。
ロックの元へ向かっていたエリシアたち三人にも、その衝撃は届いていた。
ゴゴゴォォォ……
地面が大きく揺れる。
大地には亀裂が走り、表層が崩れ落ちていく。
「キャッ!」
「くっ……危ないっ!」
「じ、地面が……割れる……」
地崩れが起こり、三人へと迫る。
ザッ……
咄嗟に横へ飛び退く。
目の前の地面は亀裂に飲み込まれ、まるで蟻地獄のように沈み込んでいた。
「飲み込まれたら……」
「……生き埋めね」
「う、うぅ……怖い……」
タッタッタッ……
三人は亀裂を避けながら、先へ進んでいく。
その先は、まだ砂埃に覆われていて見えない。
しかし――
あの中心にロックがいる。
それだけは分かっていた。
ユラッ……
砂埃の向こうに、黒い影が浮かび上がる。
巨大なキマイラと比べれば、あまりにも小さい。
人の背丈ほどの影。
「……ロックさん!」
エリシアは迷わず駆け寄る。
徐々に、そのシルエットが鮮明になっていく。
「……えっ?」
エリシアは、その姿を見て足を止めた。
同じ頃――
視界の悪い中、ミーナも別の影を捉えていた。
こちらも人の背丈ほど。
そして、その手には何か鋭利なものが握られているように見える。
「ロ、ロック様……?」
一瞬、そう思った。
しかし――
「……違う……」
ミーナは息を呑む。
「この気配は……」
弓を構え、影を警戒する。
砂埃が晴れていくにつれて、その正体が少しずつ姿を現していく。
その頃、セリーナもまた別の影を見つけていた。
地面に這いつくばるような影。
まるで、人が倒れているように見えた。
「ロック!返事をして!」
影へ向かって叫ぶ。
すると――
「せ、セリーナちゃん……俺、今動けないんだ……」
「今そっちに行く……」
セリーナは影へ向かって歩き出す。
ザッ……ザッ……ザッ……
すると――
影が動いた。
ズザザザッ……
「あんた……動けるじゃない……」
ズザザザッ……
しかし、その動きは――
人間のものとは、どこか違っていた。
攻撃の直前ーー
神の鉄槌ごと落下したロックは、その一撃が確かにキマイラへ直撃したことを見届けていた。
しかし――
その直後から、身体の感覚が完全に消えていた。
衝撃に弾き飛ばされ、宙を舞う。
(キマイラは……どうなった?)
視線だけを動かす。
だが、首は動かない。
(力を使い過ぎたか……身体が……動かねぇ……)
視界だけが、目まぐるしく移り変わっていく。
地面には、大きな亀裂。
その先には――
(危ねぇから……逃げててくれよ……)
エリシアたち三人の姿が見えた。
心配する気持ちはある。
だが、身体が動かない今のロックには、何も出来なかった。
そして――
(あっ……見えた……!)
視界の先に映ったもの。
三つの影。
獅子。
山羊。
蛇。
(よっしゃ……!)
ロックは確信する。
(バラバラにしてやったぜ!!)
ヒュー……
宙を舞っていたロックが、落下へと転じる。
ヒュー……
カラン……
カランコロンッ……
(……ん?)
落ちる音が妙に軽く聞こえた。
ロックは自分の状態を確認しようとする。
しかし、首は動かない。
「ん~~……」
仕方なく、目だけを動かす。
ぼんやりとした視界の中――
遠くに何かが見えた。
「あ……」
それは――
「あれ……俺の胴体じゃね?」
見覚えのある身体。
そして、その隣には転がる腕。
さらに、その先には――
「……」
ロックは静かに理解する。
「俺もバラバラになってるじゃねーか!!」




