第七十五話 カウントダウン?
セラのカウントダウンが始まる。
「……十」
キマイラの前足が地面を砕く。
「九」
蛇の尾が空を裂く。
「八」
ロックは身を翻し、その一撃を回避する。
「七……六……」
「キィィィーッ!!」
山羊の角が光を放つ。
ドドドドドッ――
無数の魔法弾が一斉に撃ち出された。
「五……四……」
「シャーッ!」
蛇の尾が地面を這い、光に照らされた大地を大きく抉り取る。
ゴゴォッ――
「三……二……」
「ガァーッ!!」
獅子が大きく跳躍する。
巨体が空を覆い、全体重を乗せた踏み潰しが大地へと叩き込まれた。
ドォォォンッ!!
轟音とともに地面が揺れる。
「一……」
「バカが……」
その声は、上空から響いた。
ヒュー――
ロックは神風の魔法で高く舞い上がり、キマイラの攻撃をすべて空振りさせていた。
「……ゼロっす」
その瞬間――
光の中心から、それは姿を現した。
「あ、あれは……」
離れた場所で見ていたミーナが思わず声を上げる。
「あれが……“神の鉄槌”っす……」
天より降り立つ巨大な戦槌。
眩い光を纏いながら、上空に顕現する。
「神の鉄槌は、本来なら……戦場そのものを覆い尽くすほどの超巨大な鉄槌っす」
セラの言葉に、三人は息を呑みながら空を見上げた。
「え……?」
「神が戦場に直接干渉するのは禁止っす。だから本来は使用禁止の魔法っす……けど」
セラは肩をすくめる。
「武器として召喚して、勇者が扱うなら許されてるっす。まぁ……私の魔力じゃ、あれが限界だったっすけどね……」
たはは……と気恥ずかしそうに笑う。
その頃――
上空。
ロックは落下しながら巨大な戦槌を掴み取っていた。
パシッ――
握った瞬間、全身に神力が駆け巡る。
ゴォォォォ……!
そして――
「ぶっ叩いてやるぜ!!」
神の鉄槌に足をかけて体重を載せながら、魔力を噴出させる。
狙うは、キマイラの心臓部。
ロックは流星のような勢いで、一直線に急降下した。
キマイラは、全体重を乗せた攻撃の直後だった。
巨体は着地の衝撃で沈み込み、一瞬だけ身動きが取れなくなる。
そして――
その隙を逃さず、神の鉄槌が振り下ろされた。
ドッ……
ゴーーーーンッ!!
轟音が戦場を揺るがす。
凄まじい衝撃が大地を砕き、辺り一面に砂埃が舞い上がった。
ブワァァァッ!!
遠くで見守っていた三人にも、その余波が襲いかかる。
「キャーッ!」
エリシアが顔を覆う。
「ん〜〜っ……」
セリーナも思わず身を低くした。
「わわっ……!」
ミーナは目を閉じて耐える。
視界は完全に砂煙に閉ざされる。
その中心――
ロックは地面に突き刺さった神の鉄槌を握り締めていた。
「……やったか?」
砂埃の向こうを睨む。
確かな手応えはあった。
コアごと叩き潰したはずだった。
だが――
(手応えはあった……)
ロックの背筋を嫌な感覚が走る。
(なのに、このプレッシャーは……)
まだ消えていない。
むしろ、そこにいる。
「砂埃を吹き飛ばせ……“神風”」
ヒュー……
風が渦を巻き、視界を覆っていた砂煙を一気に吹き飛ばしていく。
徐々に見えてくる戦場。
そして――
「……なっ!!」
ロックの目が見開かれる。
神の鉄槌によって大きく吹き飛ばされていたキマイラ。
その巨体は――
「分離……」
ロックが呟く。
だが、
「されてない……?」
そこには、三つの魔獣に分かれるどころか――
傷付きながらも、一体のまま立ち続けるキマイラの姿があった。
よく見ると――
「ヤギの頭と……ヘビ……?」
キマイラの心臓部。
コアを守るように、山羊の首と蛇の尾が絡みついていた。
あの一撃が命中する直前――
山羊と蛇が、自らコアの前へと身体を滑り込ませていた。
まるで盾になるかのように。
そして、そのまま――
凄まじい衝撃を受け止める。
山羊の首は大きくひしゃげ、蛇の鱗は砕け散っていた。
それでも二体は離れなかった。
コアを守るために。
まるでクッションのように衝撃を吸収していたのだ。
よろけながらも、キマイラの闘志は消えていなかった。
ギロッ――
鋭い眼光がロックを捉える。
ヨロ……
ヨロ……
ヨロ……
神の鉄槌の一撃で大きなダメージを受けたのだろう。
もはや先ほどのような突進はできない。
それでも、一歩ずつ確実に前へ進んでくる。
「ま、マジかよ……」
ロックは思わず顔を引きつらせる。
だが――
「だけど……」
神の鉄槌から手を離した。
巨大な戦槌が地面に立ったまま、ビクともしない。
そしてロックは、迷うことなくキマイラへと駆け出した。
ダッダッダッ……
走りながら拳に魔力を集中させる。
ファァァ……
狙うはただ一つ。
キマイラの心臓部。
三体の魔獣を繋ぎ止めるコア。
ダッダッダッ……
距離を詰める。
そして――
「食らえっ!!」
ドゴンッ!!
渾身の拳が心臓部へと突き刺さった。
「ガァーッ!!」
キマイラが苦悶の咆哮を上げる。
確かな手応え。
今度こそコアに届いた。
――だが。
ギロッ。
獅子の瞳から闘志は消えていなかった。
次の瞬間。
巨大な前足が天高く持ち上がる。
「しまっ――」
ドゴォンッ!!
「ぐはっ……!!」
振り下ろされた一撃がロックを直撃する。
衝撃で身体が吹き飛ぶ。
ゴロゴロゴロッ――
ザザザザッ……
地面を転がりながら滑っていく。
そして、
カラン……
コロン……
何かが地面を転がった。
ロックはぼんやりと音のした方を見る。
そこには――
自分の腕が転がっていた。
「や、やられたぜ……」
片腕を吹き飛ばされていた。




