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第七十四話 召喚には召喚を

 目の前に脅威が迫っていた。

 SSR魔獣キマイラが――。

(なんか、急にホロ加工のキラキラが見えてきた……)

「チッ……セラ! なんか武器を召喚しろ!」

 素手で殴った感触を思い出していた。

(今の俺じゃコアに届かねぇ……)

「強い武器は、召喚に時間がかかるっすよ……」

「ここは世界樹に近い……少しくらいなら耐えられる……」

「でも……何を召喚するっすか? 私は魔力もお金もあまりないっすよ……」

(剣は……あの硬い筋肉を切り裂くのはキツイか……それなら――)

「仕方ねー……使いたくねーが……」

 少し躊躇いながら、使う武器を決める。

 外を破壊できないなら、内を破壊させる。

「小さくていい……“神の鉄槌”を」

「っ!?」

 その瞬間、セラは言葉に詰まった。

(“神の鉄槌”……何か……分からないっすけど……)

 セラの返答がないことに気付く。

「……どうした?」

 ハッとするセラ。

 自身でも説明できない感情の正体に戸惑いながらも、目の前の状況を打開するため気持ちを切り替えた。

「あ……いや、大丈夫っす……“神の鉄槌”を召喚するっす」

「あぁ、頼む……」

 すぐに天界から、一筋の光が振り注ぐ。

 ――“神の鉄槌”の召喚地点。

 魔獣キマイラは直感で察知した。

 あの光は――危険だと。

「ガァーッ!」

 ドドドドッ――

 ドゴンッ!!

 光が差す地面を、巨大な前足が抉り取る。

 しかし――そこには、まだ何もない。

「バカが……お前は俺だけを見てろ!」

 ロックの全身が光り出す。

「――“神威”」

 まばゆい光。

 その存在を、無視することができなくなる。

 キマイラの視線は完全にロックへと固定された。

     ◇

 少し離れた場所――。

「セリーナさん……大丈夫?」

「な……何とか……」

 吹き飛ばされたセリーナを見つけたエリシアとミーナ。

 すぐにエリシアの回復魔法が発動する。

 ファァァ……

「ありがとう……にしても、ロック……光り過ぎだね」

「うん……なんか見ちゃうよね……」

「か、神の御来光……」

 三人は思わずロックの方を見つめていた。

 眩しいほどの光に包まれたその姿は、戦場の真ん中に立っているというのに――。

 なぜか少しだけ、有り難く見えていた。


  ロックはキマイラを引きつけながら、武器の召喚を待っていた。

 攻撃パターンは単調だ。

 躱すことに集中していれば、そう簡単には当たらない。

(レアなのは図体だけで、知能はノーマルって感じだな……)

 ヒョイ――

 ササッ――

 ピョンッ――

 ロックは華麗な身のこなしで、キマイラの猛攻を次々と回避していく。

 巨大な前足が振り下ろされても。

 蛇の尾が襲いかかってきても。

 獅子の牙が迫ってきても。

 紙一重で躱し続けていた。

     ◇

 その様子を少し離れた場所から見守る三人。

「え、援護……した方がいいかな?」

 ミーナが弓を構えようとする。

「でも……またこっちに向かって来られたら……」

「……危険ね」

 エリシアとセリーナは反対だった。

 下手に攻撃すれば、再びキマイラの標的になる可能性がある。

 ジジジッ――

「その通りっす。みんなはここで待機っす」

 通信越しにセラの声が響いた。

 状況説明のために連絡を入れてきたのだ。

「ところで、みんな無事っすか?」

「えぇ……」

 エリシアの回復魔法によって、三人とも戦える状態まで回復していた。

「それは良かったっす」

 一呼吸置き、セラが続ける。

「今、せんぱいはキマイラをバラバラにするっす」

「バラバラ……? あんなに硬いのに……」

 セリーナは自身の手元を見る。

 そこには、刀身がボロボロになった短剣が握られていた。

 実際に斬りつけたからこそ分かる。

 あの化け物の硬さは異常だった。

「意味が違うっす。キマイラは三匹の魔獣の合成っす。だから……」

「さ、三匹に……バラす……?」

 ミーナの手に力が入る。

「そうっす」

「でも……どうやって?」

 エリシアはロックとキマイラの攻防へ視線を向ける。

 どう見ても、そんな大技を仕掛けられる状況には見えなかった。

「それは――」

 セラが言いかけたところで、

「あっ、丁度時間っす」

 何かに気付いたように声を上げる。

 そして通信先をロックへ切り替えた。

     ◇

「せんぱい! あともうすぐっす!」

「やっとか! 待ちわびたぜ」

 ロックは獅子の爪を躱しながら叫ぶ。

 セラの声が続く。

「……十」

 ドシンッ――

 キマイラの前足が地面を砕く。

「九」

 ヒュンッ――

 蛇の尾が空を裂く。

「八」

 ロックは身を翻して回避する。

 武器召喚までの――

 カウントダウンが始まった。


 一筋の光が、徐々に大きく広がっていった。

 その光を見たキマイラは、本能的に危険を察知する。

 そして――

 全力で潰しにかかった。

「キィィィーッ!!」

 ドドドドッ――

 山羊の角が光り輝く。

 次の瞬間、無数の魔法弾が放たれた。

 ドドドドッ!!

 続けざまに、

「シャーッ!」

 シュルルルルッ――

 尻尾の蛇が地面を這い、

 ドォォォンッ!!

 光に照らされた地面を大きく抉り取る。

 さらに――

「ガァーッ!!」

 獅子が大きく跳躍した。

 巨体が空を覆う。

 ガッ!!

 全体重を乗せた必殺の踏み潰し。

 ドォォォォンッ!!

 轟音とともに大地が揺れる。

 土煙が爆発するように舞い上がった。

 しかし――

「バカが……」

 その声は上空から響いた。

 ヒュー――

 ロックは神風の魔法で空高く舞い上がっていた。

 キマイラの攻撃は、すべて空振り。

 そして、

 ジジジッ――

「……ゼロっす」

 セラのカウントが終わる。

 その瞬間――

 光の中心から、それは姿を現した。

 天より降り立つ神具。

 巨大な戦槌。

 ――“神の鉄槌”。

 眩い光を纏いながら、上空に顕現する。

 ロックは落下しながら腕を伸ばした。

 パシッ――

 確かな感触。

 神の鉄槌を掴み取る。

 その瞬間、口元が獰猛に吊り上がった。

「このまま――」

 全身に魔力を巡らせる。

 落下速度はさらに加速する。

 ヒュォォォォ――

 眼下にはキマイラ。

 そして、その胸部。

「ぶっ叩いてやるぜ!!」

 神の鉄槌を振りかぶり、ロックは一直線に急降下した。

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