第七十三話 ガチャの当たりはSSR
(攻略法のもう一つは……)
キマイラは合成獣だ。
獅子、山羊、蛇――三体の魔獣を無理やり繋ぎ合わせている。
その中心には、三つの命を束ねるためのコアが存在する。
身体の中央。
心臓部。
そこにあるコアを破壊すれば――
(分離するはずだっ!)
ロックはさらに拳へ力を込めた。
もう一撃。
破壊するまで叩き込めば――
だが、その瞬間だった。
ドスゥゥゥンッ!!
「ガハッ……!」
キマイラが巨体ごと地面へ倒れ込む。
まるで山が落ちてきたかのような重量。
ロックはその下敷きになった。
「撃てーっ!!」
後方から声が飛ぶ。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ドドドドッ!!
ミーナの矢と護衛騎士たちの魔法がキマイラへ降り注ぐ。
しかし――
「グルルルルゥゥ……」
キマイラは完全には倒れていなかった。
ゆっくりと顔を上げる。
そして再び後方を見た。
その視線の先には――
エリシアとミーナ。
キマイラは立ち上がる。
筋肉が隆起し、地面が軋む。
そして。
「ガァァァァァッ!!」
ドドドドドドッ――
再び後衛へ向かって駆け出した。
その場に残されたのは、押し潰されたロックだけだった。
「……ぐっ……いった〜……」
衝撃で真っ白になっていた視界が、少しずつ戻ってくる。
ロックはふらつきながら立ち上がった。
そして顔を上げる。
ドドドドッ――
キマイラはすでに後衛へ迫っていた。
山羊の角が光る。
魔法弾が放たれる。
「みんな! こっちに……!」
エリシアが飛び出した。
両手を前へ突き出す。
パァァァ……
光の壁が展開される。
ドドドドドッ!!
魔法弾が次々と弾かれていく。
だが――
「シャァァァッ!!」
尾の蛇が動いた。
ヒュンッ――
長大な尾がしなり、
光の壁ごと薙ぎ払う。
バキィィィンッ!!
「キャーッ!!」
エリシアとミーナ。
さらに護衛騎士たちまでもが吹き飛ばされた。
「クソッ……!」
ロックが歯を食いしばる。
「やらせるかよ!」
全身へ魔力を巡らせた。
ググググッ……
「んんっ……!」
ファァァァ……
身体が神々しい光に包まれる。
そして――
「……こっちを見ろって」
ロックが拳を握る。
「――“神威”!!」
ズォォォォォッ――
圧倒的な威圧感が戦場へ放たれた。
ギロッ。
キマイラの三つの目が同時にロックへ向く。
獅子も。
山羊も。
蛇も。
再び標的をロックへ定めた。
「ロ、ロックさん……」
倒れたエリシアが呟く。
「ロ、ロック様……」
ミーナも目を見開いていた。
もっとも――
ロックが惹きつけたのは、キマイラの注意だけではなかった。
(惹きつけたのはいいが……どうする?)
ロックは迫り来る巨体を睨みながら考える。
だが、その時――
ジジジッ……
「せんぱい! 苦戦中っすね……」
聞き慣れた声が頭の中に響いた。
「何だよ、セラ……今忙しいんだよ……」
天界からの通信だった。
こんな状況で雑談する余裕はない。
だが、ロックはふと思い出す。
「そうだ! セリーナちゃんは無事か?」
キマイラの攻撃を受けてから姿が見えなくなっていた。
気にする余裕すらないほど追い込まれていたのだ。
「セリーナ嬢なら一応無事っす」
「一応……?」
「直撃は避けたっすけど、吹き飛ばされた衝撃で気絶してるっす」
「なっ……!」
一瞬血の気が引く。
しかし、
「でも、無事なんだな?」
「っす」
その返事を聞いて、ロックはようやく胸を撫で下ろした。
「エリシアちゃんとミーナちゃんに、セリーナちゃんと合流して待機って伝えてくれ……」
「分かったっす」
三人の安全を確保したが、気を緩める暇はない。
ドシンッ……
ドシンッ……
大地を揺らしながら、キマイラが近付いてくる。
獅子の頭。
山羊の頭。
蛇の尾。
どれもがロックを睨みつけていた。
「なぁ……あれって本当にキマイラか?」
ロックが呟く。
あまりにも大き過ぎる。
あまりにも強過ぎる。
セラも少し間を置いて答えた。
「……講習で見たキマイラは、もっと可愛かったっす……」
「だよな?」
本来のキマイラはライオンの二倍ほどの大きさ。
だが目の前の怪物は、その数倍はある。
まるで別物だった。
「じゃあ何だよ、あれは」
セラがため息混じりに答える。
「あれは“SSR”っす」
「……SSR?」
聞き慣れない単語だった。
「何だよ、それ」
「召喚獣にも個体差があるんすよ」
セラはあっさりと言う。
「“召喚ガチャ”の当たり枠っす」
「当たり枠……?」
「確率は大体一パーセントくらいっすね」
さらりと恐ろしい事実を告げる。
「せんぱいは今までノーマルしか引いたことないっすもんね」
「そんな要素があったなんて知らねーぞ!」
ロックが本気で叫んだ。
神だった頃も聞いたことがない。
「説明書ちゃんと読まないからっす」
「そんなもん読まねーよ!」
言い争う二人。
だが、その間にも――
ドシンッ……
ドシンッ……
キマイラは歩みを止めない。
神威に引き寄せられた巨大な魔獣が、ついに目前まで迫っていた。
獅子の吐息が風となる。
山羊の角には魔力が集まり始める。
蛇の舌が不気味に揺れた。
ゴゴゴォォォ……
戦場の空気そのものが震える。
ロックは額の汗を拭いながら、目の前のSSRキマイラを見上げた。




