第七十二話 キマイラ攻略法
(これが……キマイラ?)
ミーナ特製のコートが衝撃を吸収してくれたおかげで、ダメージは思ったほど大きくなかった。
ロックはすぐに立ち上がる。
周囲を見渡した。
ヒュー……
風が吹き、砂埃が流されていく。
徐々に視界が開ける。
そして――
「……キマイラ以外……何もない……」
そこに残っていたのは、巨大な魔獣だけだった。
キマイラもまたロックの姿を確認する。
獅子の瞳が獲物を捉えた。
「グァァァァッ!!」
ドドドドドッ――
大地を揺らしながら一直線に突進してくる。
「くっ……!」
再び巨大な前足が振り下ろされた。
ブオンッ――
風圧だけで身体が揺れる。
ロックは紙一重で回避した。
そのまま懐へ飛び込む。
「クソッ!!」
ドガッ!!
全力の拳を獅子の頭部へ叩き込んだ。
頭部が大きく揺れる。
だが――
ギロッ……
獅子の瞳は死んでいなかった。
獲物を逃さない。
その視線は依然としてロックを捉えている。
「くっ……効いてねぇ……」
ロックが歯噛みした、その瞬間。
シュルルルルッ――
「――あっ」
尾の蛇が足に巻き付いた。
気付いた時には遅い。
ブンッ!!
そのまま上空へ放り投げられる。
「うおっ!?」
宙に浮かぶロック。
直後――
ドドドドッ!!
山羊の角が妖しく輝いた。
「がっ……!」
魔法弾が雨のように降り注ぐ。
空中では避ける術もない。
キマイラはまるで最初から連携が決まっていたかのように、獅子、蛇、山羊の攻撃を繋げていた。
その一連の流れを見ていた後方の二人は、思わず息を呑む。
「はっ……ロックさん!」
エリシアが叫ぶ。
「ロ、ロック様……」
ミーナの顔から血の気が引いていた。
それでも手は止めない。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ミーナの矢が放たれる。
同時に護衛騎士たちも魔法を撃ち込んだ。
ドドドドッ!!
攻撃は確かに命中する。
しかし――
グサッ!
グサッグサッ!
ドドドンッ!!
矢は刺さる。
魔法も当たる。
だが、それだけだった。
キマイラの分厚い皮膚と鱗をわずかに傷付ける程度。
致命傷どころか、有効打にすらなっていない。
そして。
ギロッ……
キマイラがゆっくりと身体の向きを変える。
その視線の先には――
エリシア。
そしてミーナ。
二人の後衛がいた。
巨大な魔獣が次の獲物を定める。
その瞬間、二人の背筋に冷たい緊張が走った。
空中で山羊の魔法弾を受けたロックは、そのまま地面へと落下していく。
ヒュー……
だが、リベット製のボディ。
ミーナ特製のコート。
そして兵糧丸による強化。
三つが重なり、致命的なダメージは抑えられていた。
しかし――
落下しながら、ロックは気付く。
キマイラの視線が後方へ向いていることに。
(やろう……)
拳へ魔力を集中させる。
バリッ……
バリバリッ……
「こっちを向けって……」
そして叫んだ。
「――“神の雷”!」
バリッ!!
バリバリバリバリッ!!
今度の標的は、高く伸びる山羊の角だった。
ドォォォンッ!!
「アャァァァァッ!!」
甲高い悲鳴が戦場へ響き渡る。
草食獣らしい鳴き声だった。
ギロッ――
山羊の目が空中のロックを睨みつける。
(よし……)
ロックは内心で頷く。
(とりあえず俺に注意は向いた……知能が普通で助かったぜ)
見事にヘイトを集めた。
キマイラは再びロックを標的に定める。
ドドドドドッ――
「ガァァァッ!!」
獅子の口が大きく開く。
巨大な牙がロックへ迫る。
「――“神風”」
ガブッ!!
ブワァッ――
「おわーっ!」
噛み砕かれる寸前。
ロックは風の力で身体を吹き飛ばし、後方へ回避していた。
ドンッ!
ゴロゴロゴロッ!
ザザザザッ……
「いちちち……」
なんとか受け身を取りながら立ち上がる。
その前方では――
ドンッ……
ドンッ……
ドンッ……
キマイラがゆっくり近付いてきていた。
その圧迫感は凄まじい。
(攻略法は二つ……)
ロックは考える。
(一つは圧倒的な力で叩き潰す方法)
本来なら、それで勝つつもりだった。
だが現実は違う。
追い詰められているのは自分の方だった。
「クソッ! こうなったら……バラすか?」
ロックは駆け出す。
ダッダッダッ――
真正面からキマイラへ向かう。
ドドドッ!
山羊の魔法弾。
サッ!
サッ!
「あっぶねー……」
紙一重で回避。
さらに――
シュルルルッ!
蛇が地を這うように襲い掛かる。
ピョンッ!
ジャンプで回避。
「間一髪……」
着地した、その瞬間。
ザザザッ――
獅子の前足が振り下ろされた。
ブオンッ――
ドガッ!!
轟音が響く。
だが。
・・・
・・・
・・・
ロックはいなかった。
前足の直撃を避け、キマイラの胴体の下へ潜り込んでいた。
「これでも食らえ!」
拳へ雷を纏わせる。
「“神の雷”を拳に込めたパンチッ!!」
ドゴォンッ!!
バリッ!!
バリバリバリッ!!
渾身の一撃が心臓部へ叩き込まれる。
キマイラの巨体が震えた。
「もう一発っ!」
ロックが叫ぶ。
「分離しろーっ!!」
ドゴォンッ!!
バリバリッ!!
再び拳がめり込む。
今度は心臓部を抉るように。
雷撃と衝撃が、キマイラの内部へと叩き込まれた。




